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槍とカチューシャ(1~50)

第25話『団長室へ』

 夏希に案内を頼み、団長室の扉の前へと無事にたどり着いた。団長室だからってわかりやすい表札はないんだなあと考える。

 そんなどうでもいいことを考えているのは、実は団長さんの部屋の前に来て、ようやく緊張してきたのだ。あの鋭い目は綺麗だけれど、他は怖いし、変なことを言って仕返しされるのも嫌だ。

 特にセクハラはやめていただきたい。切実に思う。

 ためらうわたしに気づいたのか、夏希は「やめておきますか?」なんて聞いてくる。

「やめておきたいけど、やめたら面倒でしょ」

 また、あんな贈り物をされても迷惑だ。クッキーの段階までは嬉しかったけれど、さすがに指輪は困る。食べ物は食べてしまえば終わるけれど、指輪は手元に残るし、意味がわからないし。

 こんな面倒な事態になるなら、いっそのこと、すべての贈り物は遠慮しますと伝えてみよう。夏希だって、貴重な時間を割いてまで、わざわざ届けたくはないだろうし、それが一番いい。わたしは息を大きく吐き出してから、ノックを試みた。

 あんまり待たされることなく、扉は開かれた。「失礼します」と日本語で断ってから、扉を開いてくれた人の前を通る。騎士団は地位が高いらしく、お世話係もついているようだ。

 横幅の広い机に書類の山が置かれていた。それでも、団長さんの頭は高いところにあって見つけられた。薄らと髭は残るものの、あんまり変化はなかった。

「団長さん、ごきげんよう」

 にこやかにあいさつをしたら、団長さんは鋭い目を丸くした。わたしが訪ねてきて驚いたのかもしれない。相手がひるんでいるなら、こちらから攻撃を仕掛けてやる。

「夏希くん、通訳をよろしく」

「はい」

 勝手ながら書類をどかせてもらい、持ってきていたピンクの箱を丁重に置いた。滑らせるように団長さんのほうに押し出す。

「これは、お返しします」

 ピンクの箱とわたしの顔を交互に見たあと、団長さんは長いため息を吐いた。

「“なぜだ、それはお前に与えたものだろう”」

「わたしには受け取れません。指輪なんて」

「“指輪は嫌いだったか?”」

「そうじゃなくて」

 好きか嫌いかなんて、好きに決まっている。でも、こんな石付きの指輪なんてとても受け取れない。

「団長さん、こういうのは困るんです。大体、何でわたしに贈り物をくれるんですか」

「“気づいていないのか?”」

「は?」

「“ならば、正直に言おう”」

 団長さんは立ち上がった。書類の山なんか及ばないほどの高い位置から見下ろされた。そして、団長さんは衝撃的な告白をしてくれた。
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