槍とカチューシャ(1~50)
第18話『副団長アーヴィング』
「取り調べは以上です」
長くかかった取り調べがようやく済んだ。途中、意図のわからない質問もあったけれど(わたしの好きなものや苦手なものなんて重要なのだろうか)、とりあえず適当に答えておいた。
その時、まったく動かなかった団長さんの手がメモを取るように動いていたのは何でだろう。まあ、いちいちにらまれたくないので突っこみはやめておいた。
無事に取り調べは終わったものの、しばらくは動きたくないなと思った。疲労感が肩にのしかかってくる感じだ。自覚はしていなかったけれど、結構、緊張していたのだろう。
息を吐き出したままの体勢で椅子にくつろいでいたら、長くて綺麗な手がわたしの前に差し出された。その差し出し方は、「ほら、受け取れ」とおっさんが小銭を渡すようながさつなものではない。まるで「1曲踊りませんか?」というようなおしゃれな差し出し方なのだ。
これをすんなりとできるのは限られた人だけだ。日本でもあまりお目にかかれないかもしれない。「落ち着け、落ち着け」と必死に自分を抑えながら、指先からそのもとを辿っていく。そして、主を前にして、わたしは固まった。彼は名前を知りたくてたまらない細身の騎士さんだった。
「アーヴィング副団長」
タイミングよく夏希が名前を呼んでくれる。おかげで彼の名前がわかった。「アーヴィングさん」。自分の胸に刻みつけるようにその名を心のなかで何度も唱える。彼の名前を復唱するうちに、騎士団の副団長であるアーヴィングさんは、わたしに向かってほほえみかけた。わたしだけにである。
「うっわ」
男の人相手に綺麗なんておかしいかもしれない。けれど、形のいい唇から白い歯がちらっと見えただけで眩しさが増す。もう目を開いているのがきついくらいに完璧な笑みなのだ。
――しかも、これで騎士って。偉い副団長って。ハイスペックにも程がある。
夢心地でいたら、「マキさん」と声をかけられた。すっかり存在を忘れていたけれど、夏希のものだ。
アーヴィングさんに見惚れたアホな自分の姿を、夏希にも団長さんにも見られていたなんて恥ずかしい。早くここから逃げ出したい。そう思って、手っ取り早くアーヴィングさんの手に自分の手を重ねようとしたのだけれど、横から邪魔が入った。
「マキさん、お願いですから、副団長の手を取らないでいただけますか?」
何で夏希がそんな指図をしてくるのだろう。せっかく手を差し出してくれているのに、取らないなんて申し訳ないだろう。夏希の笑顔もこの笑顔には勝てない。わたしは夏希のいうことなんて聞かずに、嬉々としてアーヴィングさんの手を取った。
「取り調べは以上です」
長くかかった取り調べがようやく済んだ。途中、意図のわからない質問もあったけれど(わたしの好きなものや苦手なものなんて重要なのだろうか)、とりあえず適当に答えておいた。
その時、まったく動かなかった団長さんの手がメモを取るように動いていたのは何でだろう。まあ、いちいちにらまれたくないので突っこみはやめておいた。
無事に取り調べは終わったものの、しばらくは動きたくないなと思った。疲労感が肩にのしかかってくる感じだ。自覚はしていなかったけれど、結構、緊張していたのだろう。
息を吐き出したままの体勢で椅子にくつろいでいたら、長くて綺麗な手がわたしの前に差し出された。その差し出し方は、「ほら、受け取れ」とおっさんが小銭を渡すようながさつなものではない。まるで「1曲踊りませんか?」というようなおしゃれな差し出し方なのだ。
これをすんなりとできるのは限られた人だけだ。日本でもあまりお目にかかれないかもしれない。「落ち着け、落ち着け」と必死に自分を抑えながら、指先からそのもとを辿っていく。そして、主を前にして、わたしは固まった。彼は名前を知りたくてたまらない細身の騎士さんだった。
「アーヴィング副団長」
タイミングよく夏希が名前を呼んでくれる。おかげで彼の名前がわかった。「アーヴィングさん」。自分の胸に刻みつけるようにその名を心のなかで何度も唱える。彼の名前を復唱するうちに、騎士団の副団長であるアーヴィングさんは、わたしに向かってほほえみかけた。わたしだけにである。
「うっわ」
男の人相手に綺麗なんておかしいかもしれない。けれど、形のいい唇から白い歯がちらっと見えただけで眩しさが増す。もう目を開いているのがきついくらいに完璧な笑みなのだ。
――しかも、これで騎士って。偉い副団長って。ハイスペックにも程がある。
夢心地でいたら、「マキさん」と声をかけられた。すっかり存在を忘れていたけれど、夏希のものだ。
アーヴィングさんに見惚れたアホな自分の姿を、夏希にも団長さんにも見られていたなんて恥ずかしい。早くここから逃げ出したい。そう思って、手っ取り早くアーヴィングさんの手に自分の手を重ねようとしたのだけれど、横から邪魔が入った。
「マキさん、お願いですから、副団長の手を取らないでいただけますか?」
何で夏希がそんな指図をしてくるのだろう。せっかく手を差し出してくれているのに、取らないなんて申し訳ないだろう。夏希の笑顔もこの笑顔には勝てない。わたしは夏希のいうことなんて聞かずに、嬉々としてアーヴィングさんの手を取った。