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槍とカチューシャ(1~50)

第13話『厳かな城』

 意気揚々と城のなかに足を踏み入れたら、内部は外観と同じくらい武骨な造りだった。

 むき出しの岩壁には、等間隔に紋章つきのタペストリーがかけられているし、背の高い燭台がずらっと並んでいた。

 床には深紅のじゅうたんが敷かれているものの、奴隷服に布を巻いただけの靴(履き心地は靴下のほうが近い)では、居心地が相当悪い。他の女の子たちも下を向いたり、様々な場所に目線をさ迷わせていた。

 そんな戸惑うわたしたちを出迎えたのは、5人の女性だった。

 彼女たちの制服なのか、みんな同じものを身につけている。上着とスカートはブラックで統一されていて、その上には真っさらなぴらぴらのひだがついたエプロンを纏っている。髪の毛は1本の乱れもなく、まとめられてシニヨンになっていた。まるで、メイドさんみたいな姿だなあと思う。

 そして、白い肌と均整のとれた顔は感情もなく、団長さんの指令を黙って聞いている。

 団長さんのうなり声が終わると、先頭に立っていた女性の視線がわたしの方に移った。一瞬、嫌な顔をされたらショックだなと思っていたけれど、彼女は奴隷服を着た姿に顔色を変えることもない。むしろ、きっちりと頭を下げられてしまった。こちらもぎこちない感じで礼を返してみた。日本人の性みたいなものだ。

 女性たちのことも気になるし、説明が欲しいなと思っていると、夏希が近づいてきてくれた。

「こちらはあなた方をお世話する者たちです。また、このジルは日本語をはじめ、あらゆる言語が話せます」

「へえ、そうなんだ」

 ジルと呼ばれたメイドさんは先頭に立っている女性だ。お城で勤めているだけあって、結構なお嬢様だったりするのかもしれない。夏希は柔らかくほほえんだ。

「困ったことがあったら、彼女に相談してください。力になってくれます」

「うん、わかった」

 ジルさんがいるということは、夏希とはここでお別れかもしれないなと思った。それは仕方ない。確かに、騎士団の人も大変だろうし、いつまでも一緒にいてくれるわけではないのだ。そう考えていたら。

「僕も力になります。あ、あと団長も」

「何でそこで団長さんが出てくるの?」

「いや、言った方がいいかなと思いまして」

 意味がわからない。

「でも、嬉しい。ありがとう」

「いいえ」

 ジルさんが「それでは、参りましょう」と日本語を発する。他の言語でも話すと、みんな従っていく。わたしも観光気分で夏希に手を振ってから、みんなの後についていった。
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Clap