番外編
雪の時
今日も訓練か。外は真っ白に染まり、散歩に出なくても寒いとわかる。城にお勤めの我が夫は、フードをかぶり熊のような格好に身を包む。今日も団長として、家を出るのだ。いつもなら大変だなーと思いつつも、送り出すのだけれど、今日だけはそんな気になれなかった。
「ジェラールさん」
「アイミ」明らかに鼻声。というか、こちらの人も風邪をひくんだなという驚きがある。
「やっぱり、やめたほうが良くないですか? ほら、足元ふらついてますよ」
ジェラールさんのような巨体がふらついたら、支える方も潰れてしまいそうだ。大人しくベッドの上で寝てしまえばいいのに。
「いや、大丈夫だ」明らかに大丈夫じゃない。言っているそばからよろけて、棚に激突している。
まったく聞く耳を持たないジェラールさんにだんだん、イラついてきた。あまりやりたくはなかったけれど、仕方ない。甘くない雰囲気で熊の腕(ジェラールさんの腕)を取る。見上げると、フードで隠された暗い顔があった。
「ジェラールさん、わたし心配なんです。妻としてちゃんとつきっきりで看病させてください」
「つきっきり? それはずっと一緒にいてくれるというのか?」
「はい、他に意味がありますか?」
「それは嬉しいのだが……」
まあ、仕事大好き人間がそんなくらいで気持ちが揺らぐわけもないか。試してはみたものの、無理そうだなと腕から手を離す。まあ、本音とすれば、こんな感じだ。
「ジェラールさんがまた倒れたらと思うと不安なんです。あんな気持ち、二度と味わいたくないから」
ジェラールさんが怪我をしたと聞いたときに味わった。あの不安で押し潰されそうな気持ちをまた感じるのは嫌だった。
「それくらい言わなくてもわかってくださいよ」
人の気持ちを読むのが苦手なジェラールさんだって、わかってほしい。照れとか淋しさとか、いろんな感情がない交ぜになってうつむいていたら、「負けた」と声が降ってきた。頭にあたたかい手が置かれ、優しく撫でてくれる。そして、わたしの目の前にフード付きの上着が差し出される。
「今日は一日、一緒にいてくれ」
見上げれば、風邪のせいなのか真っ赤な頬と熱でとろけたような笑顔があった。いつもの寡黙なジェラールさんを保っていられないほど、かなり重症らしい。熱っぽい緑色の瞳は見惚れてもあれなので、あんまり視界に入れないようにする。
「それじゃあ、ベッドに寝てください」
大人しくわたしの指示にしたがうジェラールさん。今日くらいは甘やかしてもいいはずだ。
おわり
今日も訓練か。外は真っ白に染まり、散歩に出なくても寒いとわかる。城にお勤めの我が夫は、フードをかぶり熊のような格好に身を包む。今日も団長として、家を出るのだ。いつもなら大変だなーと思いつつも、送り出すのだけれど、今日だけはそんな気になれなかった。
「ジェラールさん」
「アイミ」明らかに鼻声。というか、こちらの人も風邪をひくんだなという驚きがある。
「やっぱり、やめたほうが良くないですか? ほら、足元ふらついてますよ」
ジェラールさんのような巨体がふらついたら、支える方も潰れてしまいそうだ。大人しくベッドの上で寝てしまえばいいのに。
「いや、大丈夫だ」明らかに大丈夫じゃない。言っているそばからよろけて、棚に激突している。
まったく聞く耳を持たないジェラールさんにだんだん、イラついてきた。あまりやりたくはなかったけれど、仕方ない。甘くない雰囲気で熊の腕(ジェラールさんの腕)を取る。見上げると、フードで隠された暗い顔があった。
「ジェラールさん、わたし心配なんです。妻としてちゃんとつきっきりで看病させてください」
「つきっきり? それはずっと一緒にいてくれるというのか?」
「はい、他に意味がありますか?」
「それは嬉しいのだが……」
まあ、仕事大好き人間がそんなくらいで気持ちが揺らぐわけもないか。試してはみたものの、無理そうだなと腕から手を離す。まあ、本音とすれば、こんな感じだ。
「ジェラールさんがまた倒れたらと思うと不安なんです。あんな気持ち、二度と味わいたくないから」
ジェラールさんが怪我をしたと聞いたときに味わった。あの不安で押し潰されそうな気持ちをまた感じるのは嫌だった。
「それくらい言わなくてもわかってくださいよ」
人の気持ちを読むのが苦手なジェラールさんだって、わかってほしい。照れとか淋しさとか、いろんな感情がない交ぜになってうつむいていたら、「負けた」と声が降ってきた。頭にあたたかい手が置かれ、優しく撫でてくれる。そして、わたしの目の前にフード付きの上着が差し出される。
「今日は一日、一緒にいてくれ」
見上げれば、風邪のせいなのか真っ赤な頬と熱でとろけたような笑顔があった。いつもの寡黙なジェラールさんを保っていられないほど、かなり重症らしい。熱っぽい緑色の瞳は見惚れてもあれなので、あんまり視界に入れないようにする。
「それじゃあ、ベッドに寝てください」
大人しくわたしの指示にしたがうジェラールさん。今日くらいは甘やかしてもいいはずだ。
おわり