槍とカチューシャ(101~end)
最終話『槍とカチューシャ』
結婚式から1ヶ月が経った。
晴れて妻となったわたしは、夫であるジェラールさんを揺り起こす。そのかいあって、彼は起き上がるけれど、昨夜のまま裸になっている夫を直視できない。あまりに体格が良くて(恥ずかしながら)格好いい。目のやり場に困る。
目をそらしたら、「おい、何だ、その格好は?」と指摘された。わたしの変化に気づいてくれたらしい。ベッドの跳ね返りを使って嬉しさを表した。
「ようやく使用人頭が認めてくれたんです。この部屋だけは掃除をしていいって」
そうなのだ。部屋が汚いとどうしても体がうずうずしてしまう。使用人の職業病がうずき出す。だから、この自分達の部屋だけは掃除をさせてくださいとお願いしてきた。
今まで「お止めください」と言われ続けてようやく、何とか、聞き入れてもらい、わたしは使用人の服に身を包むことができた。ちなみに頭に乗っているフリルたっぷりのカチューシャは、エイダがわたしのエプロンを使って作ってくれたものだ。かしこい再利用である。
「余計なことを」ぼそっとジェラールさんが呟いた。
「余計なことじゃありません! 部屋は綺麗にしておかないと、心も体もダメになりますよ!」
「そうではない。あ、あれだ。せっかく目が覚めてお前のむ、お前が拝めると思ったのに、服を着ていて残念だと……」
つまり、朝からわたしの裸が見たかったと。確かに夫婦になってから、やたらとスキンシップが増えた。だけど、妻がやりがいを見つけているのに、それを「余計なこと」なんて腹が立つ。
「もう、知りません。もう、起こしませんから。あ、どうせなら寝室を別々にします? それなら、あの迷惑な、寝る前の槍の素振りもやり放題ですよ」
うちの夫は根っからの槍好きである。槍の手入れから調子を見るという名目の素振りを欠かさない。
わたしが掃除好きなら、夫は槍好きということで、趣味の不意一致確定。部屋を別々にしたほうがいいかもしれない。わたしだけの部屋ならわたしが掃除したって文句は言えないはずだ。
そう思って提案したら、でかいはずの夫がわたしの腕にすがりついてきた。緑色の鋭いはずの瞳が子犬のように可愛く見えるのだから、わたしもおかしくなったものだ。
「すまない。それだけはやめてくれ。お前と別々なんて考えられん。せめて、掃除なら朝からではなく、俺が仕事に行ってからしてくれ。頼む」
頼まれなくてもそうしようと思っていた。頭を下げてまで必死なジェラールさんを見て、許してあげることにした。
「わたしもそうするつもりでした。ただ許可が出たことが嬉しかったから、この使用人の服を真っ先にジェラールさんに見てほしかったんです。今日だけですよ」
「そ、そうなのか」
「はい。ジェラールさんがいないときに掃除をします。だから、この部屋を掃除してもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
ジェラールさんがうなずいてくれる。しかもめったにお目にかかれない笑顔つきで。わたしまで笑ってしまう。
「良かったです。じゃ、早く着替えて朝食食べましょうよ。わたしも着替えてきます」
「ああ」
ジェラールさんはぽんとわたしの頭を軽く叩いて、いつものように見送ってくれた。
おわり
結婚式から1ヶ月が経った。
晴れて妻となったわたしは、夫であるジェラールさんを揺り起こす。そのかいあって、彼は起き上がるけれど、昨夜のまま裸になっている夫を直視できない。あまりに体格が良くて(恥ずかしながら)格好いい。目のやり場に困る。
目をそらしたら、「おい、何だ、その格好は?」と指摘された。わたしの変化に気づいてくれたらしい。ベッドの跳ね返りを使って嬉しさを表した。
「ようやく使用人頭が認めてくれたんです。この部屋だけは掃除をしていいって」
そうなのだ。部屋が汚いとどうしても体がうずうずしてしまう。使用人の職業病がうずき出す。だから、この自分達の部屋だけは掃除をさせてくださいとお願いしてきた。
今まで「お止めください」と言われ続けてようやく、何とか、聞き入れてもらい、わたしは使用人の服に身を包むことができた。ちなみに頭に乗っているフリルたっぷりのカチューシャは、エイダがわたしのエプロンを使って作ってくれたものだ。かしこい再利用である。
「余計なことを」ぼそっとジェラールさんが呟いた。
「余計なことじゃありません! 部屋は綺麗にしておかないと、心も体もダメになりますよ!」
「そうではない。あ、あれだ。せっかく目が覚めてお前のむ、お前が拝めると思ったのに、服を着ていて残念だと……」
つまり、朝からわたしの裸が見たかったと。確かに夫婦になってから、やたらとスキンシップが増えた。だけど、妻がやりがいを見つけているのに、それを「余計なこと」なんて腹が立つ。
「もう、知りません。もう、起こしませんから。あ、どうせなら寝室を別々にします? それなら、あの迷惑な、寝る前の槍の素振りもやり放題ですよ」
うちの夫は根っからの槍好きである。槍の手入れから調子を見るという名目の素振りを欠かさない。
わたしが掃除好きなら、夫は槍好きということで、趣味の不意一致確定。部屋を別々にしたほうがいいかもしれない。わたしだけの部屋ならわたしが掃除したって文句は言えないはずだ。
そう思って提案したら、でかいはずの夫がわたしの腕にすがりついてきた。緑色の鋭いはずの瞳が子犬のように可愛く見えるのだから、わたしもおかしくなったものだ。
「すまない。それだけはやめてくれ。お前と別々なんて考えられん。せめて、掃除なら朝からではなく、俺が仕事に行ってからしてくれ。頼む」
頼まれなくてもそうしようと思っていた。頭を下げてまで必死なジェラールさんを見て、許してあげることにした。
「わたしもそうするつもりでした。ただ許可が出たことが嬉しかったから、この使用人の服を真っ先にジェラールさんに見てほしかったんです。今日だけですよ」
「そ、そうなのか」
「はい。ジェラールさんがいないときに掃除をします。だから、この部屋を掃除してもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
ジェラールさんがうなずいてくれる。しかもめったにお目にかかれない笑顔つきで。わたしまで笑ってしまう。
「良かったです。じゃ、早く着替えて朝食食べましょうよ。わたしも着替えてきます」
「ああ」
ジェラールさんはぽんとわたしの頭を軽く叩いて、いつものように見送ってくれた。
おわり