槍とカチューシャ(101~end)
第118話『寄り道』
朝にはジェラールさんも部屋に戻ってきた。先に着替えを済ませたらしく、わたしが汚した上着は着ていない。新しいシャツを着ているところを見ると、おばあさまから借りたのかもしれない。
「おはよう」
「おはようございます」
まるで昨日のことなんてまるっきりなかったかのように、普段通りの態度だった。悩んで、なかなか眠れなかったのはわたしだけだったのだろうか。
でも、窓際に立って外に目を向けるジェラールさんの手が、震えているのが見えた。窓の取っ手を掴み、開けようとしているのにうまくいかない。どうやら、緊張をしているらしい。
「ジェラールさん」明らかに広い肩が跳ねた。
「な、何だ?」
「次は逃げないでくださいね」
案外、恥ずかしい言葉だと言い終わってから思う。ジェラールさんはこれでもかと目を広げて、強面が大分、崩れた。
「わ、わかった」
ジェラールさんの珍しい姿を拝見したあとは、着替えである。着替えはドレスやコルセットもおばあさまが手を貸してくださった。お化粧は道具を借りて自分でやった。何とか、昨日の状態に戻った。
おばあさまは家の前まで出て、見送りしてくださる。
「ありがとうございます」
「いいのよ、気にしないで」
「またここに来ていいですか?」
「もちろんよ。今度はジェラールを抜きにして、女同士でおしゃべりしましょう」
「はい」
ジェラールさんがすねたように「もう、行きますので」と平淡な声で言った。無表情なのも不機嫌な証拠だ。
わたしは名残惜しくて何度も振り返りながら、馬車へと乗りこんだ。
そのまま、シャーレンブレンドに帰るかと思いきや、ジェラールさんから「寄り道をしたい」と告げられた。
「寄り道、ですか?」
「ああ」
「どこにですか?」
「……言いたくない」
嘘だ。言いたくないのではなく、言うのが照れるだけだろう。目線をそらすのも照れを隠すためだ。ジェラールさんが照れるような場所を考えてみると、ひとつだけ当てはまる気がした。
「もしかして、あそこの場所ですか? 約束、覚えていてくれたんですね?」
「当たり前だ」
ジェラールさん(ジルさんもいた)と遠出をして、はじめて告白されて、申し訳なくも断った。でも諦めないと宣言された場所だ。また、連れていくと約束してもらった場所でもある。
「ありがとうございます」
あの場所はわたしも改めて行ってみたいとは思っていたから、嬉しい。ジェラールさんは「礼などいらない」と彼らしく笑った。
朝にはジェラールさんも部屋に戻ってきた。先に着替えを済ませたらしく、わたしが汚した上着は着ていない。新しいシャツを着ているところを見ると、おばあさまから借りたのかもしれない。
「おはよう」
「おはようございます」
まるで昨日のことなんてまるっきりなかったかのように、普段通りの態度だった。悩んで、なかなか眠れなかったのはわたしだけだったのだろうか。
でも、窓際に立って外に目を向けるジェラールさんの手が、震えているのが見えた。窓の取っ手を掴み、開けようとしているのにうまくいかない。どうやら、緊張をしているらしい。
「ジェラールさん」明らかに広い肩が跳ねた。
「な、何だ?」
「次は逃げないでくださいね」
案外、恥ずかしい言葉だと言い終わってから思う。ジェラールさんはこれでもかと目を広げて、強面が大分、崩れた。
「わ、わかった」
ジェラールさんの珍しい姿を拝見したあとは、着替えである。着替えはドレスやコルセットもおばあさまが手を貸してくださった。お化粧は道具を借りて自分でやった。何とか、昨日の状態に戻った。
おばあさまは家の前まで出て、見送りしてくださる。
「ありがとうございます」
「いいのよ、気にしないで」
「またここに来ていいですか?」
「もちろんよ。今度はジェラールを抜きにして、女同士でおしゃべりしましょう」
「はい」
ジェラールさんがすねたように「もう、行きますので」と平淡な声で言った。無表情なのも不機嫌な証拠だ。
わたしは名残惜しくて何度も振り返りながら、馬車へと乗りこんだ。
そのまま、シャーレンブレンドに帰るかと思いきや、ジェラールさんから「寄り道をしたい」と告げられた。
「寄り道、ですか?」
「ああ」
「どこにですか?」
「……言いたくない」
嘘だ。言いたくないのではなく、言うのが照れるだけだろう。目線をそらすのも照れを隠すためだ。ジェラールさんが照れるような場所を考えてみると、ひとつだけ当てはまる気がした。
「もしかして、あそこの場所ですか? 約束、覚えていてくれたんですね?」
「当たり前だ」
ジェラールさん(ジルさんもいた)と遠出をして、はじめて告白されて、申し訳なくも断った。でも諦めないと宣言された場所だ。また、連れていくと約束してもらった場所でもある。
「ありがとうございます」
あの場所はわたしも改めて行ってみたいとは思っていたから、嬉しい。ジェラールさんは「礼などいらない」と彼らしく笑った。