槍とカチューシャ(101~end)
第117話『涙の理由』
ジェラールさんに心のなかにある後悔を洗いざらいすべて話した。
「やっぱり、ちゃんとお墓を作ってあげたかったなって」
そんなお金が工面できたかどうかはわからないけれど、せめてお骨と位牌だけは手元に置いておきたかった。もうどうにもならないとはわかってはいても、ずっと胸に引っかかるだろう。
「アイミ、もし良ければだが、こちらにお母様の墓を作ってあげないか?」
「えっ?」
「お前がお母様に祈りをささげられる場所を作りたい」
「そんな」
「反対か?」
「いえ、そうなったら嬉しいですけど、でも」
ジェラールさんはわたしの頭を軽く叩く。
「遠慮するな。それにこう見えても騎士団の団長だ。甲斐性はある」
本当にありがたかった。わたしのことを考えてくれる優しいジェラールさんにもう意地なんて張れない。素直になれる。
「わかりました。お願いします」
「ああ」
わたしは自分からジェラールさんの背中にしがみついた。ぎゅっとシャツをつかむと、「アイミ」と切羽詰まったような声が降ってきた。いつの間にか、ジェラールさんが抱き締めたまま体勢を変えて、わたしを仰向けにした。見上げるかたちになる。
何度か、こうやって見つめあうことはあった。だけど、ベッドの上というのはない。しかも、わたし、何だか、薄い夜着を着ているし、ジェラールさんの太い指が肩を撫でている。
「ジェラールさん?」
「もう、泣かないな?」
「え、ええ」
「体調は?」
「まずまずですけど」
見下ろす緑色(暗くてわからない)の瞳が怖い。顔が近づいてきて、唇にあたたかいものが触れた。それはもちろんジェラールさんの唇だ。抵抗はしない。
わたしがジェラールさんの首に腕を回すと、唇を割って深く入ってくる。もう触れているとかそういうレベルではない。貪られている。侵食されている。
「アイミ」顔が離れて、ようやく詰めていた息を吐き出せた。薄い生地の上からジェラールさんの熱い手が滑っていく。
「ジェラールさん?」
だけど、それ以上、ジェラールさんは動かなかった。拳を握ったかと思うと、眉間に深いしわをきざむ。熱く長い息を吐いたかと思えば、わたしを残して自分だけベッドから降りた。
「危うく、ここがおばあさまの家であることを忘れそうになった。すまん、少し夜風に当たってくる」
ジェラールさんはそう言い残して、うつむいたまま、部屋から出ていった。つまり、ここがおばあさまの家でなければ、ジェラールさんはわたしと……。婚約者でもあるし、不自然ではないと思うけれど、恋愛とかに慣れていないわたしには戸惑いや恥ずかしさしかなかった。
その夜はジェラールさんの言葉を思い返しては、アホみたいにベッドの上で暴れまくって、気づいたら眠りに落ちていた。
ジェラールさんに心のなかにある後悔を洗いざらいすべて話した。
「やっぱり、ちゃんとお墓を作ってあげたかったなって」
そんなお金が工面できたかどうかはわからないけれど、せめてお骨と位牌だけは手元に置いておきたかった。もうどうにもならないとはわかってはいても、ずっと胸に引っかかるだろう。
「アイミ、もし良ければだが、こちらにお母様の墓を作ってあげないか?」
「えっ?」
「お前がお母様に祈りをささげられる場所を作りたい」
「そんな」
「反対か?」
「いえ、そうなったら嬉しいですけど、でも」
ジェラールさんはわたしの頭を軽く叩く。
「遠慮するな。それにこう見えても騎士団の団長だ。甲斐性はある」
本当にありがたかった。わたしのことを考えてくれる優しいジェラールさんにもう意地なんて張れない。素直になれる。
「わかりました。お願いします」
「ああ」
わたしは自分からジェラールさんの背中にしがみついた。ぎゅっとシャツをつかむと、「アイミ」と切羽詰まったような声が降ってきた。いつの間にか、ジェラールさんが抱き締めたまま体勢を変えて、わたしを仰向けにした。見上げるかたちになる。
何度か、こうやって見つめあうことはあった。だけど、ベッドの上というのはない。しかも、わたし、何だか、薄い夜着を着ているし、ジェラールさんの太い指が肩を撫でている。
「ジェラールさん?」
「もう、泣かないな?」
「え、ええ」
「体調は?」
「まずまずですけど」
見下ろす緑色(暗くてわからない)の瞳が怖い。顔が近づいてきて、唇にあたたかいものが触れた。それはもちろんジェラールさんの唇だ。抵抗はしない。
わたしがジェラールさんの首に腕を回すと、唇を割って深く入ってくる。もう触れているとかそういうレベルではない。貪られている。侵食されている。
「アイミ」顔が離れて、ようやく詰めていた息を吐き出せた。薄い生地の上からジェラールさんの熱い手が滑っていく。
「ジェラールさん?」
だけど、それ以上、ジェラールさんは動かなかった。拳を握ったかと思うと、眉間に深いしわをきざむ。熱く長い息を吐いたかと思えば、わたしを残して自分だけベッドから降りた。
「危うく、ここがおばあさまの家であることを忘れそうになった。すまん、少し夜風に当たってくる」
ジェラールさんはそう言い残して、うつむいたまま、部屋から出ていった。つまり、ここがおばあさまの家でなければ、ジェラールさんはわたしと……。婚約者でもあるし、不自然ではないと思うけれど、恋愛とかに慣れていないわたしには戸惑いや恥ずかしさしかなかった。
その夜はジェラールさんの言葉を思い返しては、アホみたいにベッドの上で暴れまくって、気づいたら眠りに落ちていた。