槍とカチューシャ(101~end)
第110話『遭遇』
なぜか顔パスとなっている城門を抜けて、シャーレンブレンドの大通りへと足を向けた。子供たちが元気よく住宅街の方面から大通りのほうへ走り抜けていく。そんな平和な光景を眺めていると、顔がほころぶ。
「ほら、こっちこっち」
子供たちが走り出した先に、女性が手招きして待っていた。栗色の長い髪の毛をひとつにまとめて、日焼けした肌をさらしている。脇には布製のボールを抱えている。
この姿には見覚えがあった。子供たちに笑みを向けている姿からはまったく想像はできないけれど、わたしとはお城で仲良くなるどころか嫌われていたと思う。だけど、懐かしくて「リータ」と声に出していた。
思ったより声が大きくなってしまったらしい。子供たちとリータの視線がわたしに集まる。何だ、この緊張感は。
「あんた、マキ?」
「そ、そうだけど」
また、にらまれたりするのか。攻撃をされそうで身構えたのだけれど、リータは小さく笑った。
「元気そうじゃない」
「えっ?」
まるで、久しぶりに会った知人みたいな会話にわたしが驚いていると、リータは気だるい声で「あんた、暇?」と聞いてきた。
「うん、家に帰るだけだけど」
「じゃ、ちょっとついてきて」
まさかこんなことになるとは。それでも嫌な感じはしなかった。だから、黙ってリータについていくことにした。
リータと子供たちはシャーレンブレンドの端にある開けた空き地へ。そこで子供たちはリータからボールを受け取り、蹴り始めた。ひとつのボールを奪い合う姿は、リータの好きなカルチョに違いない。そして、わたしにも理解できた。リータは子供たちにカルチョを教えているのだ。
木陰にふたりで腰を下ろして、おしゃべりをはじめた。
「わたし、今、食堂で働いてるの」
「へえ、あのリータがね」
「どういう意味よ?」
「だって、人に雇われるのが嫌いだったんでしょ? 最後に会ったとき、あんなことを言っていたし」
ちょっと意地悪だったかもしれない。でも、わたしとすれば、未だに記憶に残ってしまっている。
「あれは、悪いとは思ってる。でも、わたしもあの時は余裕がなかった。カルチョができなくなって、好きな人にも振られて……」
「振られたの?」
リータに横からにらみつけられて、もう余計なことは言わないようにしようと誓った。
「そうよ。あの副団長、ずっと想っている人がいるって断ってきたの。あんな優しくされたら勘違いするでしょ、普通。そんなこともあったし、イライラしてた。あんたはさ、あの時、団長とも仲良かったし、やりたいことも見つけられたんでしょ?」
「うん」団長さんと仲がいいというのは引っかかるけれど、大体合っている。
「何でも持ってるあんたがうらやましかった。それであんたに当たっただけ」
「そうだったんだ」
人にうらやましいと思われることなんて頭になかった。
「ごめん」
頭まで下げられてしまったら、もう許すしかない。
「いいよ」
リータはくしゃっと満面に笑みを浮かべた。それが思いの外可愛らしくて、リータに抱いていたマイナスの感情が溶けて消えていった。
「それにしてもあんたもやるじゃない。あの団長と婚約なんて」
「何で知ってるの?」
「シャーレンブレンド中で噂になってるよ」
「嘘!」
「あの団長が異世界人と婚約したって、食堂でもすごい話題だよ」
そんなの知らない。確かに団長さんはシャーレンブレンドなら知らない人はいない……はず。そんな有名人と結婚なんて、噂にもなるよなあと改めて考える。だから、たまに視線を感じたりするのだろうか。気のせいだと思っていた。
「何か、怖くなってきた」
わたしが怖がれば怖がるほどリータは高笑いする。
「あんたも大変だね」
笑いながら言うものだから、やっぱり彼女のことはあまり好きになれない気がした。
なぜか顔パスとなっている城門を抜けて、シャーレンブレンドの大通りへと足を向けた。子供たちが元気よく住宅街の方面から大通りのほうへ走り抜けていく。そんな平和な光景を眺めていると、顔がほころぶ。
「ほら、こっちこっち」
子供たちが走り出した先に、女性が手招きして待っていた。栗色の長い髪の毛をひとつにまとめて、日焼けした肌をさらしている。脇には布製のボールを抱えている。
この姿には見覚えがあった。子供たちに笑みを向けている姿からはまったく想像はできないけれど、わたしとはお城で仲良くなるどころか嫌われていたと思う。だけど、懐かしくて「リータ」と声に出していた。
思ったより声が大きくなってしまったらしい。子供たちとリータの視線がわたしに集まる。何だ、この緊張感は。
「あんた、マキ?」
「そ、そうだけど」
また、にらまれたりするのか。攻撃をされそうで身構えたのだけれど、リータは小さく笑った。
「元気そうじゃない」
「えっ?」
まるで、久しぶりに会った知人みたいな会話にわたしが驚いていると、リータは気だるい声で「あんた、暇?」と聞いてきた。
「うん、家に帰るだけだけど」
「じゃ、ちょっとついてきて」
まさかこんなことになるとは。それでも嫌な感じはしなかった。だから、黙ってリータについていくことにした。
リータと子供たちはシャーレンブレンドの端にある開けた空き地へ。そこで子供たちはリータからボールを受け取り、蹴り始めた。ひとつのボールを奪い合う姿は、リータの好きなカルチョに違いない。そして、わたしにも理解できた。リータは子供たちにカルチョを教えているのだ。
木陰にふたりで腰を下ろして、おしゃべりをはじめた。
「わたし、今、食堂で働いてるの」
「へえ、あのリータがね」
「どういう意味よ?」
「だって、人に雇われるのが嫌いだったんでしょ? 最後に会ったとき、あんなことを言っていたし」
ちょっと意地悪だったかもしれない。でも、わたしとすれば、未だに記憶に残ってしまっている。
「あれは、悪いとは思ってる。でも、わたしもあの時は余裕がなかった。カルチョができなくなって、好きな人にも振られて……」
「振られたの?」
リータに横からにらみつけられて、もう余計なことは言わないようにしようと誓った。
「そうよ。あの副団長、ずっと想っている人がいるって断ってきたの。あんな優しくされたら勘違いするでしょ、普通。そんなこともあったし、イライラしてた。あんたはさ、あの時、団長とも仲良かったし、やりたいことも見つけられたんでしょ?」
「うん」団長さんと仲がいいというのは引っかかるけれど、大体合っている。
「何でも持ってるあんたがうらやましかった。それであんたに当たっただけ」
「そうだったんだ」
人にうらやましいと思われることなんて頭になかった。
「ごめん」
頭まで下げられてしまったら、もう許すしかない。
「いいよ」
リータはくしゃっと満面に笑みを浮かべた。それが思いの外可愛らしくて、リータに抱いていたマイナスの感情が溶けて消えていった。
「それにしてもあんたもやるじゃない。あの団長と婚約なんて」
「何で知ってるの?」
「シャーレンブレンド中で噂になってるよ」
「嘘!」
「あの団長が異世界人と婚約したって、食堂でもすごい話題だよ」
そんなの知らない。確かに団長さんはシャーレンブレンドなら知らない人はいない……はず。そんな有名人と結婚なんて、噂にもなるよなあと改めて考える。だから、たまに視線を感じたりするのだろうか。気のせいだと思っていた。
「何か、怖くなってきた」
わたしが怖がれば怖がるほどリータは高笑いする。
「あんたも大変だね」
笑いながら言うものだから、やっぱり彼女のことはあまり好きになれない気がした。