槍とカチューシャ(1~50)
第11話『出発の合図』
昨夜、団長さんから送られた視線のように窓から容赦ない朝日が降り注ぐ。
これはきっと肌に悪い。昨日から洗顔もしていないし、化粧水もつけていないのだ。鏡がなくてわからないけれど、ひどい顔をしているに違いない。せめて、口の端のよだれの跡だけは残さないようにと、手で拭いながら起き上がった。
部屋を見回すと、起き抜けのぼんやりが無くなって、昨夜のことを思い出した。ベッドの数が足りないせいで、わたしと金髪美女は床で寝ることになったのだ。
こんな固い床で寝られるもんかとイラついていたけれど、案外、ぐっすり眠れた。寝心地よりも疲れが優先されたのかもしれない。とにかく目をつむっていたら、意識はすっかりなくなっていた。
遠くで寝ていた金髪美女は寝相が悪く、毛布から全身がはみ出ていた。この寝相の悪さでベッドの上に寝なくて良かったと思う。寝ていたら確実にそこから落ちていたはずだ。手始めに彼女を揺すって起こすと、ベッドで寝ていた女の子たちにも次々に声をかけた。
他の子を起こしたり、髪の毛を手ぐしで整えていたら、部屋を出るまでに結構な時間がかかってしまった。
宿屋の1階に降りたときには騎士団のみなさんの顔がそろっていた。ここは夜は酒場だけれど、朝と昼は食堂である。降りた瞬間、スープの暖かい香りがただよっていたのは、騎士団のみなさんが仲良く食事中だったためらしい。
テーブルに置かれた食事を眺めていたら、くーきゅるとお腹が鳴ってきた。そういえば、昨夜は何にも食べないで寝たのだ。
恥ずかしくて咄嗟にお腹を隠したけれど、ごまかせるわけがない。騎士(特に団長さん)たちの視線を感じる。この雰囲気から脱出したいと願っていると、団長さんが何やら騎士団のみなさんに向けて話した。
――何を話してるんだろう?
朝起きたらこちらの言葉をマスターしてました――なんていうのを期待したけれど、全然ダメだ。日本語字幕がないとわからない。
話が終わると、一斉に騎士団のみなさんが席から立ち上がった。夏希と視線が合うと、会釈を返される。騎士団のみなさんは部屋の隅で護衛のように固まった。どうやら彼らはわたしたちに席を譲ってくれるらしい。
嬉しい。席に着けば、人数分のスープと、バスケットに入れられたパンが目の前に置かれる。朝食タイムがはじまった。
スープに浮かぶ具材は少ない。でも、黄金色の透き通ったスープは、匂いだけでも美味しそうだった。
弾力の足らないパンは固くて、噛んでいるうちに顎が疲れてしまう。食事が嫌になる前に、スープに浸してやわらかく食べることにした。味は悪くない。薄味だけれど、朝食にはちょうどいいだろう。
みんなの食事が終わると、団長さんは低い声でうなりはじめた。他の団員さんたちが真剣に聞いているようだから、命令をしているのかもしれない。
きっと、今日の道筋やらを確かめているんじゃないだろうか。
あくびを噛み殺しつつ辺りを見渡していたら、金髪美女と目がぶつかった。日本人なら気づかないふりをして視線をそらしそうだが、美女は屈託のない笑顔をくれた。わたしもがんばって口の端を上げて返す。
うなり声が終わる。かけ声のようなものが響き渡り、騎士団が一斉に動き出す。それは出発の合図だった。
昨夜、団長さんから送られた視線のように窓から容赦ない朝日が降り注ぐ。
これはきっと肌に悪い。昨日から洗顔もしていないし、化粧水もつけていないのだ。鏡がなくてわからないけれど、ひどい顔をしているに違いない。せめて、口の端のよだれの跡だけは残さないようにと、手で拭いながら起き上がった。
部屋を見回すと、起き抜けのぼんやりが無くなって、昨夜のことを思い出した。ベッドの数が足りないせいで、わたしと金髪美女は床で寝ることになったのだ。
こんな固い床で寝られるもんかとイラついていたけれど、案外、ぐっすり眠れた。寝心地よりも疲れが優先されたのかもしれない。とにかく目をつむっていたら、意識はすっかりなくなっていた。
遠くで寝ていた金髪美女は寝相が悪く、毛布から全身がはみ出ていた。この寝相の悪さでベッドの上に寝なくて良かったと思う。寝ていたら確実にそこから落ちていたはずだ。手始めに彼女を揺すって起こすと、ベッドで寝ていた女の子たちにも次々に声をかけた。
他の子を起こしたり、髪の毛を手ぐしで整えていたら、部屋を出るまでに結構な時間がかかってしまった。
宿屋の1階に降りたときには騎士団のみなさんの顔がそろっていた。ここは夜は酒場だけれど、朝と昼は食堂である。降りた瞬間、スープの暖かい香りがただよっていたのは、騎士団のみなさんが仲良く食事中だったためらしい。
テーブルに置かれた食事を眺めていたら、くーきゅるとお腹が鳴ってきた。そういえば、昨夜は何にも食べないで寝たのだ。
恥ずかしくて咄嗟にお腹を隠したけれど、ごまかせるわけがない。騎士(特に団長さん)たちの視線を感じる。この雰囲気から脱出したいと願っていると、団長さんが何やら騎士団のみなさんに向けて話した。
――何を話してるんだろう?
朝起きたらこちらの言葉をマスターしてました――なんていうのを期待したけれど、全然ダメだ。日本語字幕がないとわからない。
話が終わると、一斉に騎士団のみなさんが席から立ち上がった。夏希と視線が合うと、会釈を返される。騎士団のみなさんは部屋の隅で護衛のように固まった。どうやら彼らはわたしたちに席を譲ってくれるらしい。
嬉しい。席に着けば、人数分のスープと、バスケットに入れられたパンが目の前に置かれる。朝食タイムがはじまった。
スープに浮かぶ具材は少ない。でも、黄金色の透き通ったスープは、匂いだけでも美味しそうだった。
弾力の足らないパンは固くて、噛んでいるうちに顎が疲れてしまう。食事が嫌になる前に、スープに浸してやわらかく食べることにした。味は悪くない。薄味だけれど、朝食にはちょうどいいだろう。
みんなの食事が終わると、団長さんは低い声でうなりはじめた。他の団員さんたちが真剣に聞いているようだから、命令をしているのかもしれない。
きっと、今日の道筋やらを確かめているんじゃないだろうか。
あくびを噛み殺しつつ辺りを見渡していたら、金髪美女と目がぶつかった。日本人なら気づかないふりをして視線をそらしそうだが、美女は屈託のない笑顔をくれた。わたしもがんばって口の端を上げて返す。
うなり声が終わる。かけ声のようなものが響き渡り、騎士団が一斉に動き出す。それは出発の合図だった。