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少年と少女の鎧
何度も不器用だと言われてきたが、今日ほど腹が立った日はない。
通りがかった女の子が言ったのだ。「あなたって不器用ね」と。
「不器用」は禁句だった。おれにとって「不器用」は、バカと言われるよりきつい。今やっている仕事を全部、否定されたような気になる。
従者としてのおれの仕事は、騎士の鎧を治すことにある。鎧にでこぼこがあれば、ハンマーで叩いて甲冑のへこみを治す。チェーンメイルのほころびがあれば、鎖を付け替えたりする。さすがに縫い物はできないが、マントやそれの留め具を管理するのはおれだ。
地味かもしれないが、騎士の命を守るというすごく大事な仕事なのだ。
そして、そのどれを取っても不器用なのは自覚している。マントの留め具を外すのも戸惑ってしまうおれには難しい。だからって、「不器用ね」と言われてしまうのは悔しい。
「だって、まず、ハンマーの叩き方が違うの」
「どう違うんだよ」
不貞腐れつつも素直に聞いたのが間違いだった。女の子はおれからハンマーを奪うと、その重みを振り子にしてふらついた。
「重い~」
残念だが、どんなに偉そうでも、ハンマーを扱えなくては、この仕事はできない。おれは笑った。女の子は顔を真っ赤にして、「もう、笑わないで!」と声を張り上げる。
「だけどな、偉そうに言っても、こんなんじゃ、全然、仕事にならないから」
「そうだけど」
女の子はしゅんとして、頭をもたげてしまう。言い過ぎたかもしれない。ここは少しでも女の子の機嫌を戻すことはできないか。泣かれたら面倒だ。考えたら、ひとつだけ思いついた。
「きみは、知識ならおれよりあるんだよな? それを教えてくれる代わりに、おれがきみの腕になる」
女の子は丸い目でおれを見上げた。案外、真ん丸の目をふちどるまつ毛が長いことに気づく。頬が赤いのは、何でだろう? 女の子が「う、あ」と変な声を出すのもよくわからず、首を傾げてしまった。暗くうつむかれてしまうと、自分がしくじったことに気づいた。距離感ってやつがなかったかもしれない。よくやるのだ。
「あ、ごめん。聞かなかったことに……」
「わかった。わたし、教える」
言い終える前に女の子は、おれの声をさえぎった。白くて細い指がおれの服の端っこをつかむ。必死になって、大きな目がおれを真っ直ぐ見てくる。機嫌は治ったらしい。可愛らしいと思った。
「じゃあ、よろしく」
「うん!」
なんて、そのときは頭をポンポンしてしまったが、おれは気づくべきだった。城のなかで自由に動き回れる女の子など、ほとんどいない。地味な衣装で変装していたとはいえ、肌が透けるように白かった。彼女は王女様だったのだ。しかも、相当なじゃじゃ馬で、騎士になりたがる王女様。もちろん鎧と甲冑が大好きで、部屋には観賞用の鎧が置かれている。
「ねえ! いい素材が手に入りそうなの!」
おれは彼女の専属の従者となった。そして、彼女の鎧を整えるのはおれの仕事になった。
おわり