戦神王子と男装兵士
赤いガウン
全身を余すところなく清められたノアは、先程までの光景を思い起こして顔が熱くなる。手で顔を隠しても熱は治まらないでますますひどくなる。
ダニールの指先が触れて離れたところがうずいて、たまらなかった。のろのろと立ち上がり、用意された布で身体の湿り気を拭った。
ダニールは早々に自分の身体に湯をかけたあと、浴室を出ていってしまった。ノアの耳元で「寝室で待っている」と言い残して。服はどうしようかと迷うが、自分の服はなかった。代わりに赤色のガウンがあり、ノアは手に取って胸に抱き締めた。
大きめのガウンに身を包んだダニールの姿は、ノアの脳裏に焼き付いていた。
――はじめて目と目が合ったときから、あの方が好きだったのだろう。
素肌にガウンを羽織り、前を合わせると腕に抱かれたようにあたたかかった。
寝室のベッドにはダニールが横たわっていた。ノアはそっとベッドの端に腰をかけて、顔をのぞきこんだ。瞼を伏せた顔は眠っているように見える。
「ダーナ様」
こんなことをしてはいけない。心臓の音は警告を鳴らしているのに、顔を近付けるのをやめられなかった。顔を傾けて唇を重ねる。
戯れはここまでだと唇を離そうとすれば、後頭部が大きな手のひらに包まれて固定される。ノアが驚いて目を開けると、ダニールの瞼は完全に開いていた。
「あまり煽るな」
唇をなめられて、深く口付けられる。ノアが胸板に手を置いて距離を作ろうともダニールは強引な力で許さない。
赤いガウンの裾から手を這わせて腰から背中を撫でていく。そのときにガウンがめくれて尻があらわになった。
ダニールの手は止まらない。右手はノアの傷のない引き締まった背中を堪能し、左手は首筋や鎖骨、肩を撫でる。ガウンの前は開けられて、ダニールが俯けば、ノアの下腹部を見ることができる。
「み、見ないで」
そう震えながら、ノアは情けなさに泣きたくなった。しかし、泣いてしまえば、ますます情けないに違いない。
「どうして、こんなに綺麗なのに」
ダニールはそう言う。綺麗などとははじめて言われた。気恥ずかしさにノアは顔を俯かせた。そんな仕草にダニールは笑い声を上げた。
「わ、笑わないでください」
「すまん。だが、少しは自信を持て。ノア、きみは綺麗だ」
ダニールはノアの髪を優しく撫でる。ノアの頭には「わたしでいいのでしょうか」と、聞きたがる自分がいた。すんでのところで、首を横に振り、思いとどまる。
ダニールはノアを好きだと言った。この問いはダニールの想いを疑っているようなものだ。だから、言ってはならない。むしろ、もっとふさわしい言葉があるはずだ。
「ダーナ様、わたし、あなたの隣に立てるようがんばります。だから、教えてください。その、いろいろ、夜のこと……も」
ノアは恥ずかしくて倒れてしまいそうだった。ダニールに触れてほしくて、あのぬくもりが欲しくて、口走ってしまった。顔も全身も熱くてたまらない。
ダニールといえば、惚けて固まっていたが、意識を取り戻したときには、もう待てないとばかりにノアを抱き留めた。そして、体を反転させ、ベッドの上に組み敷く。
「教えてやろう。すべて、余すことなく、な」
ノアはダニールにすべてをゆだねた。赤いガウンよりもあたたかく、心地よいダニールの人肌を、一晩中、感じた。
おわり
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