寝台の上の騎士

第2話

 ある日、同僚のメイドたちから呼び出しを受けた。ようは、騎士様の部屋を掃除する時間が長いというのだ。わたしもわかっていた。

 だけど、あいつがここやれ、これもやれとうるさいから時間がかかってしまうのだ。そう説明してやると、

「違うでしょ。あなたが彼と一緒にいたいだけではないの? 迷惑よ」

「そうよ、そうよ」

 女子とはなぜ、群れないと意見を言えないのか。そういうわたしも彼女たちと同じだ。後輩に何か言うときは、付き添いをつけている。

 それは、自分の意見に他の人も同意していると自信をつけたいから。こちらは全面的に正しいのだと思ってもらいたいから。だから、彼女たちの気持ちはわかる。

 でも、わたしはあの騎士様のことは好きじゃない。むしろ、あの顔で命令されると、怪我をつっついてやりたくなる。

 はずなんだけれど、なぜか、いちいち否定するのもムカムカしてきた。わたしはあいつを好きじゃないんです。そう言うのも、疲れた。

 翌朝、わたしは騎士様にすべてを話した。そうしたら、元凶は偉そうに顎に指をやって、考える姿勢を作った。

「で、お前は俺と居たいのか?」

 なんて的外れな。違いますよと否定すれば、「俺だってな」とぐだぐだわたしのダメな部分を語り始める。やる気無さそうな目だとか、あくびを隠さないとか、たまに寝癖も直さないとか、それにしても、よく見ているなと思うくらい。

「わたしのこと好きなんですか?」

「……んな、わけあるか!」

 答えまでに空いた間を感じて、内心はにんまりしつつも、本日の掃除に取りかかった。いつにも増して、そいつの要求は高かった。

 そろそろ、怪我が治ってもいいような気がする。騎士様の部屋の角の埃と格闘しながら、ふと思った。

「治り、遅くないですか?」

「あのな、むしろ、早い。医師から驚かれているくらいだ。お前は無駄なことは考えず、手を動かせ」

 手はちゃんと動いている。

「だが、怪我が治れば、お前と顔を合わせることもないな」

 ああ、確かに。騎士は朝が早いし、わたしが掃除する頃には訓練やらで忙しいだろう。メイドとしては嬉しいはずなのに、なぜか、喜びが少ない。まるで、顔を合わせないことになるのが淋しいみたいな。

「そうですね、せいせいします」

「奇遇だな、俺もだ」

 言葉とは裏腹にふたりの間に漂う空気は重苦しく感じた。どうして、そうなったのか、わたしは深く追求しないようにした。したらきっと、取り返しがつかない。
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