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白馬と姫(51~100)

第94話『森からの追っ手』

 はじめてその人と出会ったとき、わたしのお母さんに似ていると思った。誰に対しても厳しくて容赦はないし、恐かったのを覚えている。しかも、年齢は36歳なのに見た目は若々しくて戸惑ったし。

 でも、神子になるため、いろんなことを教えてもらっていくうちに、わたしは離れたくなくなった。信頼といってもいいかもしれない。わたしが神子になったとき、つり上がった目をやわらげて、微笑んでくれた。はじめてほめてくれたんだ。

「マリアさん」

「マリアを知っているのですね」

「え?」

 マリアさんだと思った人は顔を覆った布を床に落とした。隠す必要がないと考えたためだろう。いつもはシニヨンを作っていた金色の髪は、肩にかかるほどの長さしかない。高いはずの鼻も少し低い気がする。似ているのはつり上がった目だけだった。

「わたくしはマリアの姉のジュリアです。先日、街でお会いしましたね」

「あっ」

 何で気づかなかったの。ゲオルカにはじめて着いたとき、わたしは彼女とぶつかってしまったのだ。

「思い出していただけたようですね」

 窓の星明かりだけに照らされたジュリアさんの顔に笑みが浮かぶ。じわじわ遅れて、探していた“ジュリア”が目の前にいる“ジュリアさん”と重なった。

「えっと、あなたがジュリアさん?」

「ええ」

「本当に、本当に?」

「本当です」

 こんな楽なことがあるだろうか。探していた人がそちらからやってきたなんて。それにマリアさんのお姉さんって、世界は狭いなあと思う。

「あの、サディアスを起こしてきても?」

「いいですが、お早く。追っ手が参るかもしれません」

「追っ手?」

「おそらくはあなたを捕らえようとする森の者でしょう。ゲオルカでここのところ旅人とあれば、さらっていく連中です」

 ゲオルカで検問に合ったとき、自警団のおじさんがそんな話をしていたような気がする。すっかり忘れていたけど、まさか、森の国ベルホルンが関係していたなんて想像もつかなかった。

「条件というのはそれです。わたしと一緒に逃げていただきたいのです」

 うなずいていいのか少し悩んだけど、わたしはジュリアさんを信じる。

「わかりました」

 うなずくと、わたしは急いで部屋を飛び出した。そして、隣の部屋の扉を叩きまくる。サディアスは気だるそうな顔でわたしを出迎えてくれた。寝起きらしく髪の毛がひどいことになっているのは無視して、「サディアス、来て」と告げた。

「何だ?」

「詳しい話は後。さっさと支度して、行くんだから」

「行くってどこへだ?」

「ジュリアさんのとこ」

 その瞳が説明しろと訴えている気がする。仕方なくかいつまんでジュリアさんの話をしたら、少しは納得してくれたみたいだ。サディアスの身支度が済むのを待って、わたしたちはジュリアさんのもとに急ぐ。部屋に戻ると、彼女は開かれた窓枠から建物を見下ろしていた。

「あんたがジュリアなんだな?」

「ええ、そうですわ」

 ジュリアさんはゆっくりと窓を閉ざして、わたしたちのほうに顔を向けた。

「詳しい話はまた後でにいたしましょう。建物の下にこちらを見ている男がいました。応援を呼ばれる前にここを出なくてはなりません」

 今はジュリアさんに従うしかない。どこへ行くのかわからないけど、宿屋を出なければいけないのはわかった。
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