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白馬と姫(51~100)

第88話『幸せとか』

 またふたたび歩き出したとき、サディアスは深く息を吐いた。この気取った感じは話をする前触れだと思う。

「あのとき……」

 わたしの勘は当たった。

「え?」

「宿屋でおかみの話を聞いたとき、お前は無理やり笑っていた。何を考えていたんだ?」

 マージさんにはごまかせたのにサディアスには効果がなかったのか。長い付き合いだから仕方ないのかもしれない。別に無理して隠すような話でもないし、わたしは諦めてマリアさんとエリエの話をした。

「マージさんが幸せで良かった。でも、わたしの行動でふたりはどうなったのかなって、心配になったの。もし幸せじゃなかったらどうしようって。わたし、ふたりに償えるのかな?」

「今はどうにもできないだろう。お前には財力も生活能力も欠けているしな。だが、いずれ、様々なかたちで救えるときが来る。そのとき、全力でことに当たればいいだろう。それに女はやわじゃない。おかみのように自分の居場所を見つけるはずだ」

「だったらいいんだけど」

 どうか、マリアさんやエリエが幸せを見つけてくれたら良い。神様や仏様に願いごとなんてあまりしないんだけど、今日からは祈ってみようかなと思った。

 サディアスに話したら急に気が楽になって、いつもの調子が戻ってきた。

 歩きだし、サディアスは雑貨屋の前で立ち止まった。「待ってろ」と言われて大人しく待っていたら、サディアスは手にコンパスを持っていた。ゲオルカまでの道のりには欠かせないのかもしれない。こういうのを見ると、旅って感じがする。

「ていうか、コンパスを買うお金なんて持ってたの?」

「当たり前だろう。宿屋の宿泊代も俺が出した。そんなことも気づかなかったのか。あのおかみからはちゃっかり治療費も取られたしな」

「ウソ」

 やっぱり、商売だからタダとはいかないのか。世知辛い世の中だ。

「あ、お金あるならさ、何か買ってよ。可愛い髪飾りとか」

「買わん。無駄だ」

「ケチ」

「うるさい」

「ケチはモテないからね!」

「俺に“モテ”など無用だ」

 それでいいのかもしれない。女性に骨抜きにされるサディアスなんて似合わないし、考えるとすごく嫌な気分になる。

 ムカつくサディアスだけど、わたしにはこのくらいがちょうど良い。女性に関心がなくて、デリカシーの意味もたぶん知らないこの男の隣が、心地良かったりする。
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Clap