このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

白馬と姫(51~100)

第82話『あれを言って』

 医者に見せてから3日が経った。不安だったものの、ヤブ医者はヤブ医者ではなく、きちんとしたお医者さんだったらしい。

 サディアスの体調は少しずつ良くなって来ている。眠っている時間よりも、起きている時間のほうが多くなってきた。だから、額の汗を拭ってあげるときも、視線を感じたりする。

「何よ?」

「別に何もない」

「そう」

 何もないと言いながら、ずっと見つめてくるサディアスはおかしい。顔に布を投げつけたくなる衝動をこらえて、相手は病人なんだと思い直す。そうだ。どれだけ憎くても病人。いたわらなくてはならない。

 サディアスはまだわたしを見ていた。本当にわけがわからなくて、わたしが首を傾げると、ようやく話す気になったらしい。

「ずっと、看病をしてくれたのか?」

「そうよ、あ、でも、わたしだけじゃないから、マージさんも手伝ってくれたし。あ、マージさんっていうのはおかみさんの名前で……」

 何となく自分のしてきたことを話すのが気恥ずかしくなって、ペラペラと言葉を繋げてしまった。サディアスもつっこみを入れてくれたらいいのに、どういうわけか黙ったままだ。これ以上話すと、悲しくなりそうで自分から口を閉ざす。

 サディアスの口からため息がこぼれた。

「この借りは必ず返す」

「別に、わたしがしたくてしたことだから、借りなんか返さなくていいよ。それより、早く病気を治して」

 これは本心だった。貸し借りとかそんな気持ちで看病をしたわけじゃない。サディアスがどうして食事も睡眠も取らずに病になったのか。鈍いわたしでも気づいていた。

 着替えをとろうと2階の部屋にふたたび行ったら、本や新聞がいたるところにあった。それって、サディアスが事件について調べていたってことでしょう。

 諦めずにひとりでずっとがんばっていた。そんなことも知らないで、わたしは勝手にサディアスに腹を立てて、クラウスさんと遊んでいたんだ。

「あ、どうせなら借りを返すとかじゃなくて、“あれ”を言ってよ」

「“あれ”?」鈍いなあと思う。

「ルルさんに教わらなかったの? こういうときはありがとう、でしょ?」

 わたしが笑って指摘したのが悪かったのか、顔を思い切りそむける。そちらは地下室の壁しかないんだけど。結局、しばらく待って聞こえてきたのは「うるさい、バカ」。それだけだった。
32/50ページ
Clap