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白馬と姫(51~100)

第80話『地下室』

 おかみさんがサディアスの反対側を支えてくれるのは、助かる。この男、細身なくせに重いの。おかみさんの助けも借りて、3人がかりで階段を降りていく。

 最後の1段を降りたとき、おかみさんはわたしにそこで待つように言った。階段の裏側に回って何をするつもりなのだろう。

 気になったので、おかみさんについていく。そうしたら、おかみさんは積み上げられた木箱を1つずつ横にずらしていった。

 すっかり木箱がなくなった床にはじゅうたんが敷かれている。それは赤い花を絵柄にしたじゅうたんだった。ちょっと、神子の花に似ているかも。

 おかみさんはじゅうたんの端を指でつまんでめくりあげた。まるで、いつかの神殿の裏庭にあった隠れ通路みたいだ。床には切れ目がある。真ん中辺りに取っ手がついていて扉になっているのだろう。それを引くと、人がふたり分は入れる穴が現れた。

「ここにお入り」

 下りの階段があり、地下室となっているのだと思う。わたしは踏み入れるのを戸惑った。

 だって、ここに入ったとしても、追っ手はやってくる。追っ手に見つかったりしたら、無事ではいられない。もしかしたら、おかみさんも危険にさらされるかもしれないのだ。

「追っ手はわたしが追い払うから速く!」

「でも」

「大丈夫。宿屋のなかを調べたってここに気づいたりしないよ。わたしに任せなさいな!」

 おかみさんはすべてを引き受けてくれると言う。申し訳ないやら感謝やらでわたしはうなずくしかなかった。とにかく急がなくちゃならない。わたしは薄暗い階段を踏み外さないように地下室へと足を進めた。サディアスを支えながら。

 地下室には簡易ベッドがあり、サディアスはそこに寝かせた。地上のおかみさんに「大丈夫」と伝えられると、地下室の明かりはすべて失われてしまう。

 わたしは頼りになるものが欲しくて、サディアスの手を握ったままにしておいた。勝手な想像で冷たいと思っていた手はあたたかい。

「ねえ、大丈夫?」

「ああ」当の本人はたっぷり間を置いて、かすれた声を出す。絶対に大丈夫じゃない。

「ごはん、ちゃんと食べないからだよ。どうせ、寝てないんでしょ」

 答えは返ってこない。そして、この事実を伝えておこうと思った。

「クラウスさん、わたしたちを助けるためにわざとおとりになってくれたんだよ」

「どうだかな」

「また、そんなこと言って」

「ふん、俺が何を言っても……お前は、あいつを信じる。それでいいだろう。アホで……バカで……人を疑わない。それがお前だ」

 サディアスは途切れ途切れになりながらもそう言った。口では「あのね、それ悪口でしょ」と返したけど、不思議と嫌じゃなかった。
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