白馬と姫(1~50)

第8話『偉い人に会う』

 両開きの豪華な扉の前で、クラウスさんは足を止めた。ニーナさんはていねいな手つきで頭の飾りを直したりする。口元がゆるんでいて、とても楽しそう。

 残念なことにわたしの視線に気づくと、ニーナさんはまた不機嫌に戻ってしまった。

「あなた、くれぐれもお兄様の前でそそうなさらないようにね」

「そそう」

 念を押して言われると、そそうしてしまいそうで怖い。これから偉い人(ニーナさんのお兄様)に会うらしいし、どうしよう。

「異世界の御方、大丈夫ですよ。ジルベール様は穏やかな方ですし、固く構えないでください」

 クラウスさんが勇気の出る言葉をくれた。見守ってくれるような……そう、お父さんみたいに暖かいんだ。最近はあんまりお父さんの顔は見ていないけど、写真ではこんな感じだった。

「ありがとう、クラウスさん」

「いえ」

 笑顔も雲ひとつない青空のようにさわやか。わたしの頬もほころんでしまう。そうだ。クラウスさんがいるもの大丈夫。そう思ったら、不安も緊張感も抜け落ちていた。

 謁見の間と呼ばれるそこは、庶民には触れられない神聖な感じがする。玉座まで真っ直ぐに赤じゅうたんが敷かれているの。

 本当に偉い人の部屋には赤じゅうたんが敷かれているんだ。なんて感心していると、やっぱりクラウスさんに置いていかれてしまう。慌てて早足で追いついた。

 王様――ジルベール様は髭だらけだった。いったい歳はいくつなんだろうと思ってしまうくらい。

 ふわふわのファーがついた真っ赤なマントを肩にかけている。髭が真っ白だったらサンタさんみたいかも。王冠には赤とか緑とか大きな宝石が輝いていた。

「異世界の御方、よく参られた」

「えっと、お招きいただきありがとうございます?」

 ちゃんと応えられたかなと思って、クラウスさんの顔を見ると穏やかな目で包まれた。うなずいてもらうと自信がつく。ジルベール様の笑う声が聞こえた。

「固い言葉はやめようか。クラウスもニーナもよくやってくれたね」

「お兄様」

 ニーナさんは明らかにお兄様の前だと態度が変わるみたい。胸の前で指を組んで、うっとりとお兄様を眺めている。

「異世界の御方、あなたの名前をお聞きしてもいいかな?」

 異世界だし、プライバシーも関係ないかと思って。

「はい、えっと、倉持 都と言います」

 くらもちみやこという普通の名前を告げたら、ジルベール様は髭を揺らして笑ってくれた。みやこが名前で倉持が名字だということを説明したら、「ミャーコ」と呼ばれた。
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