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白馬と姫(51~100)

第74話『赤猫の侍女頭』

 赤猫の宿屋に戻ると、ちょうどおかみさんとクラウスさんが談笑しているところだった。クラウスさんはわたしとサディアスに気づくと、苦笑で出迎えてくれる。

「お帰りなさい、フォル。やはり、サディアスと一緒でしたか」

「ごめんなさい」

 そういえば、クラウスさんを誘うのをすっかり忘れていた。すべてをひっくるめて謝罪すると、「いえ、部屋にいらっしゃらなくて心配しただけですから」なんて言われてしまう。

 心配をかけたことが申し訳なくて、また1段と深く、頭を下げるしかない。それだけで優しいクラウスさんは許してくれた。

 謝罪が終わると、サディアスはおかみさんに向かって「そんなことより、あんたに聞きたいことがある」と告げた。

 かなり唐突だったけど、おかみさんは笑顔を崩さずに、「何だい?」とほがらかに応える。

 逆に、サディアスは眉間に力を入れたみたいだった。人を殺すんじゃないかってくらい鋭い目をするから、こちらはひやひやした。

「あんたは、レーコのことを知っているな?」

「レーコ? 誰だい?」

「あんたが森のなかから来たことは知っている。ある事件のせいでこちらにやってきたことも。あんたは侍女頭だったのだろう?」

「ああ、確かに侍女頭だったよ。だけど、レーコだとか、そんなの誰だか知らないね」

「あんたが神子の名を知らないはずがない」

「さあね、そんな昔のはなし……忘れちまったよ」

 おかみさんは窓の外に目を向ける。たぶん、話したくないのだろう。サディアスはまだ話し足りないのか、口を開けようとした。

 だけど、「さあさ、お腹空いたろ?」とおかみさんのほうが早かった。さっさと部屋の奥に引っこんでしまう。

 そろそろ日がかげってきていた。サディアスのうつむいた顔は影になって見えなくなった。

「クラウス。お前はここのおかみについて知っていたのだろう? だから、あえて、この宿屋を選んだ」

 サディアスったら何を言うの! と思ったけど、まだ彼はクラウスさんに対して疑問を持っているらしい。

「何のことだ?」

「お前が何をたくらんでいるのか知らんが、俺は思い通りにはならない」

 サディアスは言葉を残して、階段へと歩いていってしまう。

「待ってよ、サディアス。夕食は?」

「いらん」

「えっ、ちょっと!」

 サディアスはこちらを振り返ることもない。わたしの制止なんかものともしないで、2階の部屋に戻ったようだった。扉が強く閉まる音が響いた。
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Clap