白馬と姫(1~50)
第44話『演説』
馬車の外に1歩を出したら、人がいっぱいで戸惑ってしまった。ベルホルンにも結構な数の人がいるのだ。おじいちゃんやおばあちゃん、親子連れまでいて大変な騒ぎになっている。
広場の中央には演説するための舞台が置かれていた。そこの周りだけは人が近づいていない。きっと、わたしだけが立てる場所なのだろう。
国の人からの拍手をいっぺんに受けて引くに引けなくなる。もう、どうにもなれという気持ちで軋む舞台へと上がった。
一度、目を閉じて深呼吸をする。落ち着きたいときにはこれをしなさいとマリアさんから教わった。効果は十分あって、肩の力が抜けた気がする。
「えー、あー」
マイクなんてないけど、一応、自分の声の調子を小さく出して確かめる。そして、練習したとおりに感謝を伝えることにした。
「みなさん、今日はこんなにも盛大に祝っていただき、どうもありがとうございます。
わたしがみなさんの世界にやってきてから、速くも1年の月日が経ちました。
はじめはどうしようもなく不安で、やっていけるのかどうか、悩んでばかりいました。
それでも、国王様をはじめ、ベルホルンの国の方々に大きなご支援とご協力をいただきました。
わたしがこうして神子となれたのも、すべてはみなさんのおかげです。ありがとうございます。
これからもこの国の発展と平穏のために神子として力を尽くしていきます。
ベルホルンがいつまでも平和で活気のあふれる素晴らしい国でありますように」
言葉を締めると、大きな声援と拍手がわたしの周りからわき上がってきた。頭が真っ白になって飛んだところもあったけど、伝わったんだと嬉しくなった。
注目を浴びながら拍手をされるのは気恥ずかしい。視界に入ると安心できるふたりを探した。クラウスさん、エリエの顔がそろって拍手を送ってくれた。
長い服の裾を踏まないように体をかがみながら、舞台の端に向かった。やりきった感じで気持ちは上向きになっていく。ヴェールの下で顔がほころぶのがわかっていたりする。
だけど、わたしは近づいてくる人影に気づいて、足を止めた。クラウスさんの声が遠くに聞こえる。「ミヤコ様」って呼ばれたのかもしれない。
わたしの目の前におじさんが立ちふさがった。おじさんがうつむいていると薄い頭皮が見える。そして、右足に重心をかけて横にゆらゆらと揺れている。小汚ない服からはきっとお風呂に入っていないのか、つんと異臭がした。
「あの」
「……しね」
かさついた口から掠れた声がこぼれる。聞き逃してしまいそうなくらいかすかな声だった。だから「えっ?」と聞き直した。
おじさんの頭がゆっくりと上がる。太い眉、瞳孔の開いた目がわたしを見る。血走った目がさっきの言葉の意味を教えてくれる。おじさんはわたしに「死ね」と言ったのだ。
「死ね!」
服のふところから取り出されたのは小振りのさびついたナイフ。三日月のような刃が斜めに振り下ろされようとしていた。
馬車の外に1歩を出したら、人がいっぱいで戸惑ってしまった。ベルホルンにも結構な数の人がいるのだ。おじいちゃんやおばあちゃん、親子連れまでいて大変な騒ぎになっている。
広場の中央には演説するための舞台が置かれていた。そこの周りだけは人が近づいていない。きっと、わたしだけが立てる場所なのだろう。
国の人からの拍手をいっぺんに受けて引くに引けなくなる。もう、どうにもなれという気持ちで軋む舞台へと上がった。
一度、目を閉じて深呼吸をする。落ち着きたいときにはこれをしなさいとマリアさんから教わった。効果は十分あって、肩の力が抜けた気がする。
「えー、あー」
マイクなんてないけど、一応、自分の声の調子を小さく出して確かめる。そして、練習したとおりに感謝を伝えることにした。
「みなさん、今日はこんなにも盛大に祝っていただき、どうもありがとうございます。
わたしがみなさんの世界にやってきてから、速くも1年の月日が経ちました。
はじめはどうしようもなく不安で、やっていけるのかどうか、悩んでばかりいました。
それでも、国王様をはじめ、ベルホルンの国の方々に大きなご支援とご協力をいただきました。
わたしがこうして神子となれたのも、すべてはみなさんのおかげです。ありがとうございます。
これからもこの国の発展と平穏のために神子として力を尽くしていきます。
ベルホルンがいつまでも平和で活気のあふれる素晴らしい国でありますように」
言葉を締めると、大きな声援と拍手がわたしの周りからわき上がってきた。頭が真っ白になって飛んだところもあったけど、伝わったんだと嬉しくなった。
注目を浴びながら拍手をされるのは気恥ずかしい。視界に入ると安心できるふたりを探した。クラウスさん、エリエの顔がそろって拍手を送ってくれた。
長い服の裾を踏まないように体をかがみながら、舞台の端に向かった。やりきった感じで気持ちは上向きになっていく。ヴェールの下で顔がほころぶのがわかっていたりする。
だけど、わたしは近づいてくる人影に気づいて、足を止めた。クラウスさんの声が遠くに聞こえる。「ミヤコ様」って呼ばれたのかもしれない。
わたしの目の前におじさんが立ちふさがった。おじさんがうつむいていると薄い頭皮が見える。そして、右足に重心をかけて横にゆらゆらと揺れている。小汚ない服からはきっとお風呂に入っていないのか、つんと異臭がした。
「あの」
「……しね」
かさついた口から掠れた声がこぼれる。聞き逃してしまいそうなくらいかすかな声だった。だから「えっ?」と聞き直した。
おじさんの頭がゆっくりと上がる。太い眉、瞳孔の開いた目がわたしを見る。血走った目がさっきの言葉の意味を教えてくれる。おじさんはわたしに「死ね」と言ったのだ。
「死ね!」
服のふところから取り出されたのは小振りのさびついたナイフ。三日月のような刃が斜めに振り下ろされようとしていた。