白馬と姫(1~50)

第39話『はじめての夜』

 部屋を後にして、ヴェールを外したときにはクラウスさんが待ってくれていた。

「お疲れ様です」

「クラウスさんもお疲れ様です」

「さあ、行きましょうか」

「はい」

 ふたりきりでまだ見慣れない道を歩く。通路の同じ間隔で燭台が点っていて、クラウスさんの背中がはっきりと見えた。そっか。ヴェールをしていたから、はっきりとクラウスさんの姿を見たのは久しぶりだ。

 とても広い背中。頼りがいのある背中ってこういうことだと思う。わたしにはお兄さんと呼べる人はいないんだけど、クラウスさんってお兄さんみたい。前はお父さんみたいと言っていたから、少し若返った感じ。

 神子の部屋まで連れていってくれると、クラウスさんは扉を開いてくれた。この先に入ったら、クラウスさんはすぐにいなくなってしまうはずだ。部屋にまでついてこないだろう。わたしでもちゃんとレディとして扱ってくれるんだから。

 今ここで、どうしてもクラウスさんに伝えておきたいことがあった。神子になる前から考えていたんだけど、顔を合わせる機会はなくて、今になってしまった。

「クラウスさん」

「はい?」

「今まで本当にありがとうございます」

 頭を深く下げる。クラウスさんが「大丈夫」と言ってくれなかったら、今日だって心細かった。

「それと、これからもよろしくお願いします!」

 もうひとつ深く頭を下げたら、「ミヤコ様」と優しい声が降ってきた。

「わたしのほうこそ、これからもよろしくお願いしますね」

 顔を上げたらクラウスさんの笑顔が広がっていて、わたしも嬉しくなった。神子になってもクラウスさんはそばにいてくれる。相変わらず優しく包みこんでくれるんだ。
39/50ページ
Clap