白馬と姫(1~50)

第34話『クラウスの話』

「でもま、元気そうで安心した。クラウスが心配してたからさ」

「クラウスさんが?」

「そーそ」

 ルルさんがクラウスさんを呼び捨てにしているのも気になったけど、そうなんだ。クラウスさんがわたしのことを気にかけてくれたんだ。嬉しいかもしれない。

「あの、クラウスさんって今、どうしているんでしょう?」

「それ、気になる?」

「はい」

「侵入者が他国のスパイみたいでね、取り調べをしているって聞いたけど」

 騎士団の仕事ってそんなことまでするんだなあと感心してしまう。取り調べをしているなら、わたしを護衛する暇もないだろうし、仕方ない。カップをのぞきこむようにうつむいたら、ため息で波が立つ。

「もしかして、クラウスのことが好き?」

 へっ? いきなりそんなことを言われたから、カップを傾けてしまいそうだった。すぐにバランスをとって戻したけど、危なかった。誤解だからルルさんにちゃんと否定しておかなきゃいけない。

「好きって、そういうんじゃありません! クラウスさんはお父さんみたいで」

「お父さんか……あはは、そうだよね」

 そう。クラウスさんがいると安心する。まるでお父さんに見守られているみたいにやさしい。だから、いないと不安なんだ。

 ルルさんはそれ以上、踏みこんでこなかった。ただ、たわいない話を選んでわたしを退屈させないでくれた。

 話しているうちに、ルルさんの部屋の窓に茜色が差しこんでくる。こちらの世界は月がないから夜空も星しかない。

 ルルさんとのお茶会も終わる時間。席を立ち、わたしは服のしわを直すと、最後にお礼が言いたくなった。

「ルルさん、今日はありがとう」

「わたしのほうこそ。久しぶりにニホン人と話せて懐かしかったよ」

「えっ?」

「じゃーねー」

 どういう意味なのか聞こうとしたら、ルルさんは聞く耳を持たなかった。わたしの肩をつかみ、入り口のほうへと反転させた。無理やりとはいかないけど、早く出るようにと押したの。

 ルルさんの不思議な行動も夜を越える頃には、忘れてしまっていた。
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