白馬と姫(1~50)

第33話『悪い噂』

 しばらくして、テーブルの上にティーセットが並んだ。丸いカップのふちにはつるの模様が描かれている。小さな花びらが散りばめられたソーサーも可愛らしい。

 思わず、「可愛い」とつぶやいていたら、占い師さんは声に出して笑った。

「そう、嬉しい。これはわたしのお気に入りなの」

 黒いヴェールや服に隠れてはいても、口元に手をそえるしぐさはしなやかに見える。実は、お嬢様育ちだったりするのかもしれない。

 観察はそこまでにして、まずはこちらから声をかけることにした。

「あの」

「まずは自己紹介しなくちゃね。わたしはルルよ」

「ルルさん」

「かしこまらなくていいよ、ミャーコ」

「どうして、わたしの名前を?」

「みーんな噂しているからね」

 ルルさんは世話係の人と情報を交換しあっているみたいで、最近ではわたしの話が中心になっているそう。

 噂と聞いて、元の世界でのことを思い出した。わたしの噂で良い話なんか1個もなかった。優等生気取りでつまんないやつとか、ノリが悪いとか、ウザイとか。そんなのばかり。ここの世界でも同じだと思う。

「あんまりいい噂じゃないんでしょう?」

「そうかな。あのサディアスと仲良くしてるって噂が多いけど。それって悪い噂?」

「悪いです! サディアスなんかと仲良くないもの」

「あはは……そっか。みんなにも言っておくよ」

 サディアスなんかと仲良くなれたら、どんな変な人とでも仲良くなれる気がする。それくらいハードルが高い。噂の話はもういいから違う話にしてほしくて、本題に入ることにした。

「ルルさんは……わたしに何の用なんですか?」

「ただ会いたかったじゃダメ?」

「いえ、ダメだなんてそんな」ちょっとイラッとしたけど。

「嘘をつかなくていーよ。ミャーコは会いたくなかったでしょ?」

「……少しは」

「正直ね」

 素直な気持ちを言葉にしたら嫌われると思ったのに、ルルさんは夏の日差しのようにからっと笑った。ヴェールで顔が隠されているのに、満面で笑ってくれていると思える。肩に入っていた力が一気に抜けた。
33/50ページ
Clap