白馬と姫(1~50)

第32話『占い師の部屋』

 午後になると、わたしは護衛の兵士さんとともに、占い師さんの部屋に向かった。

「ここが占い師さんの部屋?」

「そうです」

 兵士さんに言われてもあまり信用できない。木の板で作られたどこにでもありそうな扉の前に立つと、疑いたくなってしまう。お城にある扉のなかで、かなり素朴なほうだと思うし、ドアノブはくすんだ色をしていた。

 葉をつけたつるが扉の両側にある柱に巻きついている。つるははがれた床の土から生えてきているから、たぶん、本物なんだろうな。

 ベルホルンの国にとって、占い師さんがどういったやくわりなのか、サディアスから少し聞いた。後先を占ったり、様々な予兆から予言を読み解いたりするらしい。そのため、占い師さんは地位が高くて、みんなの尊敬を集めていると言っていた。

 聞いたときはわたしには関係ないと思ってたけど、まさかそんな人の部屋に入ることになるとは考えもしなかった。

 こうして扉をノックするなんて予想なんかしてない。ノックしてすぐに「はい」とくぐもった声がする。ああ、入っていいんだ。それでわたしは部屋の前で呼吸を落ち着けた。

 はじめて会う人と顔を合わせるのはやっぱり怖いなあと思う。しかも、王様の行動を左右するような占い師さんがわたしに何の用なんだろう。

「失礼します」

 声が震えそう。だけど、逃げるわけにはいかない。逃げる場所もないし。頭のなかを真っ白にしながら、どうにか部屋に入った。後ろ手で扉を閉めたあと、部屋のなかをぐるっと見回した。

 部屋はワインレッド1色で統一されていた。はしごにはくるくるとつるが巻きついているし、天井には繊細な蜘蛛の巣よりも雑なつるのネットが出来ていた。

「これって、森のなかにあったのと似てる」

「似ていて当然よ。それを模して作ったんだから」

「えっ?」

 わたしは声が聞こえてきた方向に素早く顔を向けた。はしごが軋む音がして、黒服に身を包んだ人が降りてきた。

 とても小柄だったけど、顔はヴェールのようなもので隠されていて性別まではわからない。指の先から足の先まで、手袋や靴下が真っ黒に染めている。ヴェールの奥からうっすら見える肌色で人間だと思うくらい。

「予言通りね」

 ヴェールが邪魔をしているせいでよく聞き取れないけど、お姉さんみたいなしゃべり方をする。

「あの、あなたは占い師さん?」

「そうね。一応、ジルベール様の占い師となっているけど」

「えっと」

 名乗った方がいいのかな。戸惑っていたらまた笑われた気配がした。

「まあまあ。そこに座って。今、お茶を入れるから」

 占い師さんは木でできた椅子に座れと言ってくれた。占い師さんにはお世話係の人はついていないみたい。

 ちょっと固めの椅子にわたしを座らせると、占い師さんは忙しそうにキッチンへと入っていった。
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