白馬と姫(1~50)

第30話『不安感』

 25夜を越えると明らかに周りが慌ただしくなってきた。

 儀式で着る服を新しく仕立てるらしく全身のサイズを測られたり、デザインを話し合ったりした。でも、神子の服にもルールがあった。

 神秘的な感じを出すために顔はヴェールで隠すとか、アイボリーや白は神聖な色で神子服には欠かせないとか。だから、普段着もアイボリーとか白の色が多いのだと、マリアさんが教えてくれた。

 儀式に向けていろんなことが決められていく。そのなかで、練習のおかげで椅子の座り方から、他人に感じよく見える笑顔の作り方くらいはマスターした。あとは本番も練習通りできれば大丈夫だと思う。

 隣にクラウスさんがいれば、落ち着いてできそうだけど、侵入者の一件から顔を会わせていない。代わりに護衛してくれている兵士さんに聞いてみたものの、今は仕事が立てこんでいて手が離せないのだと言った。

 詳しいことはまったくわからないけど、クラウスさんがいない事実は変わらない。副団長という立場も大変なのかなと思い、そうですかと納得するしかなかった。

 わたし自身も神子になるんだと嫌でも自覚するしかなかった。だけど、儀式の日が近づくにつれて、夜になっても眠れない。

 理由があるわけじゃない。ただ不安なんだ。未来が来るのが怖い。何でこんなに不安なんだろう。怖いんだろう。

 どうしても不安が拭えなくて、布団の上で手を握りしめた。それでも、ダメなの。天井がゆがんでいく。

 ベッドの上で何度も寝返りをうちながら、朝が来れば、重い体を起こすしかなかった。

 また1夜を越えた。朝からジルベール様とニーナさんと一緒に食事をすることになった。

 白のドレスを身につけさせてもらった。髪の毛をアップしてもらって後頭部でまとめられる。鏡のなかのわたしは頬の辺りがやつれている。目の下のクマはメイクで少しはマシになった。すべては世話係の人たちのおかげだ。

 朝からきっちり外見を整えられると、緊張感が全身を包んでいくみたい。やっぱり、王様やお姫様と食事なんて緊張する。

 ――「異世界の御方、大丈夫ですよ」

 ――「神子様をお守りするのが私の仕事です」

 クラウスさんがよく言っていた。優しくほほえまれて「大丈夫ですよ」と言われると、騒ぎだす心は落ち着いた。

 わたしは窓に近づいて外を眺めた。今すぐ窓を通り抜けて逃げ出したい。でも、護衛の兵士さんが迎えにきてしまうから、わたしはどこにも行けなかった。
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Clap