白馬と姫(1~50)

第3話『森のトンネル』

 花畑のなかで毛並みに癒されていたんだけど、白馬はゆっくりとわたしから遠ざかっていった。森に向かって歩く白馬にも帰る場所があるのかもしれない。帰りを待つ家族だっているのかも。

 淋しくなるけど、ここでお別れかな。そう思ったら、白馬は足を止めてこっちを振り返った。変わらないつぶらな瞳で見つめてくる。

「なに?」

 白馬は何にもしゃべらないけど、その瞳は「ついてこい」と言われているみたい。そんな瞳で見つめられたら仕方ないよね。

 スカートについた葉っぱを手で払ってから立ち上がる。急いで近づいたら、白馬はまた先に進んでしまうの。やっぱり、どこかに連れてってくれるのかもしれない。

 白馬を追いかけて森の薄暗い中へと入っていく。

 あれ? 真っ白なふわふわうさぎも、ぴょこっと飛び跳ねてついてきた。でも、わたしじゃなく、白馬の後ろについてきているみたい。人間のわたしがいても逃げないでいるし、慣れているのかな。それなら触っても大丈夫なのかもしれない。

 うさぎを撫でようと近づいたら、小さな体は嫌がって逃げる。何度も試してみたけど、全然ダメ。かなり素早いの。可愛いんだけどな。

 諦めて白馬の後ろをついていったら、それまで適当に生えていた木々が密集してきた。アーチ型になっているから森のトンネルって言っていいかも。

 邪魔な草むらや岩もなくなり、地面も平らになってきた。ちょっと坂になっているんだけど、ゴツゴツしていないから歩きやすい。

 何でこの道だけちゃんと整備されているんだろう。人の手が入っているみたい。坂を登りきったら、わたしの夢ってすごいなーと感心してしまった。

 だって、森のなかにネットみたいなのが張ってあったの。植物のつるで編みこまれたネットは、縦横大きくて、ふたつの柱でたるまないようにぴんと張られていた。人差し指をネットの目にかけようと近づけたら。

「きゃっ!」

 わたしの体が吹っ飛んだ! まるで誰かに押されたみたいに、地面にお尻をついてしまった。白馬は心配そうにわたしの顔をのぞきこんできた。

「何よ、これ」

 もう1回、ネットに触れると同じことが繰り返される。バカなわたしでもわかった。ネットが吹っ飛ばしているってこと。

 白馬はそんなおバカなわたしを置いて、ネットに向かって歩いていってしまう。危ないからやめたほうがいいよ。止めようとしたら、白馬の鼻先がネットにくっついたら、頑なだったつるが解かれていった。
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Clap