白馬と姫(1~50)

第27話『11日目の朝』

 11日目の朝、マリアさんがやって来る前に、わたしは日課となったレーコさんの日記を読んでいた。

 もう日記のなかのレーコさんは神子になっていて、式典に引っ張りだこ。忙しい日々への愚痴が多くなった。

 その頃から国王様をハゲと書くこともなくなっていた。レーコさんの気持ちに何か変化があったのかもしれない。

「レーコさんかあ……」

 そういえば、レーコさんは神子になったあと、どうなったのかは知らない。日記がここにあることや、わたしが新たな神子になることを考えると、答えは1つしかない。

 レーコさんはもうこの世にはいないんだ。だから、わたしが神子に選ばれたんだ。

 レーコさんのお墓があるのかと思ったら、それでも会ってみたくなった。

 彼女は、わたしと同じようにベルホルンにやってきて神子になった人だもの。元の世界に戻れなくなったわたしの気持ちがわかるのは、レーコさんだけだもの。

 会ってみたいという気持ちは、お昼になったらクラウスさんに伝えることにした。

 中庭の昼食をたいらげてから、わたしは改めてクラウスさんと向き合った。

「あの、クラウスさん。ちょっと、お願いがあるんです。その、前の神子のレーコさんに会いたいんですけど」

「レーコ様ですか?」

「同じ神子になるからあいさつをしたくて」

「レーコ様は……」

 お墓にいるのは知っているけど、どうしても会ってみたかった。あなたの日記にはげまされてますって、お礼を言いたいの。

「ダメですか?」

「あの、ダメではないのですが、レーコ様は神子の仕事をまっとうされて、現在は……」

 クラウスさんが次の言葉を言おうというとき、中庭が騒がしくなった。慌てたように鎧やかぶとの音を立てて、兵士さんが現れた。

 クラウスさんのやわらかい表情がこわばる。こんなに厳しい横顔を見たのははじめてだ。

「ほ、報告いたします。森の警備に当たっていた第3部隊が侵入者を確保いたしました」

「わかった」

 森に侵入者? 外から誰かがやってきたっていうの?

「ミヤコ様、申し訳ありませんが、レーコ様にお会いするのは、またの機会にさせていただけますか?」

「え、ええ」

「それから、私は行かなければなりません。護衛はこの男を置いていきますので。ミヤコ様、お元気で」

 クラウスさんはわたしに向けてやわらかくほほえむ。でも、次にそらしたときの横顔は、すぐに仕事モードになっていた。
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