白馬と姫(1~50)

第26話『いない日』

 今日はめずらしくサディアスの部屋が開いていない日だった。鍵がかかっているらしくドアノブが回らない。

 ずっと、昼間は自室にこもっているとか言ってたから、絶対に居留守でしょ。

 派手に音を立ててノックしてみたけど、こっちの手が痛くなってきてやめた。これだけやっても無反応なんて、部屋にいないのかもしれない。

 護衛のクラウスさんもはじめてのことみたいで、首をかしげた。

「体調でも優れないのでしょうか」

「まさか」

 あのサディアスも体調が悪くなったり……するかもしれない。あんな薄暗い部屋で生活していたら、おかしくなっても当然だと思う。

「クラウスさん、この扉の鍵、どうにかなりませんか?」

「確かに古い鍵のようですので、扉を破ることはできなくもありませんが、部屋に入ってどうするのですか?」

「それは、サディアスを」

 言いかけたところで、わたしの頭上に影が差した。こんなに近くに人が来ていたんだと驚いて口を閉ざす。

「勝手に部屋に入ろうとするな、バカ」

 聞き覚えのある声に、顔を向けてみたら、不機嫌そうな眼鏡顔が現れた。ちょっとだけ明るいところで姿を見たのは久しぶりだ。薄暗い通路がまあまあ明るいと思うなんて、サディアスの部屋のせいだ。あれはかなり暗い。

「俺の部屋に勝手に入って、どうするつもりだったんだ?」

「別に」

 体調でも悪いんだったら看病してあげてもいい……なんてことは思っていない。口に出していないから思った証拠もないはず。本当に言わなくて良かった。

 ホッとしていたら、サディアスの左右の眉毛がくっつきそうなくらい寄った。かなり不機嫌か、不可解なことに出会ったような表情なんだ。

「な、何?」

「いや、話の流れでまさかと思ったが違うな」

「話の流れって、ずっと聞いてたの?」

「いや、体調でも優れないのかというところからだ。クラウスはどうやら俺の気配に気づいていたようだがな」

「えっ、そうなの?」

 思わず、敬語も抜け落ちてクラウスさんに聞いたら、苦笑をされてしまった。サディアスが言った通りなんだ。

「申し訳ありません。言いそびれてしまいました」

「いいですけど、別に」

 危うく変なことを言いかけてしまったから、あんまり許したくないけど、クラウスさんが頭を下げてくれたからわたしは折れた。

「で、どうするつもりだったんだと聞いている」

「しつこい!」

「まさか、夜這いか?」

「ヨバイって何?」

「知らないのか。夜這いとは相手の寝所へ忍びこみ、相手を組み敷き……」

「あー、何かわかった気がする。っていうか、夜這いじゃないし!」

「ふん、わかった気がするとは本当に理解したとは言えない」

 ああ、またはじまった。と思っていたら、押し殺すような小さな笑い声が聞こえてきたの。誰? クラウスさんだった。

「申し訳ありません。あなたたちのやりとりを聞いていたらおかしくなってしまって。仲がよろしいですね」

「よ、よろしくないです!」

 わたしが慌てて否定するけど、サディアスは何にも言ってくれなかった。無表情でクラウスさんをじーっと見ていた。変な、サディアス。もう笑わないでほしい、クラウスさん。

 結局、その日はサディアスの部屋に入る前に、「帰れ」と言い渡されてしまった。
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