白馬と姫(1~50)

第20話『正義の味方』

 お城の長い通路には高い位置に窓がついている。その位置にはまだ光が差しこんでいないから、お昼には早い時間なんだろうなと思う。

 クラウスさんの手とわたしの手は、すでに離れている。それはそうだ。恋人でもないのにずっと繋いで歩くのはおかしい。

 だけど、手が離れたのは少し淋しかった。クラウスさんの手……大きくてゴツゴツした手だったな。なんて考えていたら。

「ミヤコ様」

「は、はい!」

 いきなり呼ばれてびっくりした。クラウスさんの足が止まって、後ろを振り返る。

「ミヤコ様はレーコ様の日記を解読できるのですよね?」

「はい、まあ、読めます。日本人なんで」

「そうですか。その、今日ではなくてもいいのですが、ニホン語というものを教えていただけませんか?」

 あの大人なクラウスさんが必死になって頼んでいる。わたしに日本語を教えてくれなんて。しかも、顔が近い。両肩まで強引につかまれて、はじめての経験ばかりだ。

「も、もちろん。いいですよ。減るもんじゃないし」

「本当ですか!」

 まるで飛び上がって喜びそうなくらい、テンションの高い声だった。しかも、クラウスさんの笑顔は眩しすぎて、目の前がチカチカする。至近距離は辛い。

「何かクラウスさんって」

 おかしい人。変とかじゃなくてこっちが思わず笑ってしまいたくなるような微笑ましい人。

「何でしょう?」

「……秘密です」

 言ったら失礼な気がするし、わたしは笑ってごまかした。クラウスさんはようやく両肩を掴んでいたことに気づいたみたいで、何度も謝りながらその手を離した。

 あとの会話は本当に大したことじゃない。わたしが元の世界で何をしていたかという話。

 一応、学生で勉強漬けだったと、ぼかして伝えた。友達や彼氏がいなかったことは伏せておいた。嘘は言ってない。

 それから、1つ大事な話もあった。サディアスの部屋にも、クラウスさんが護衛としてついてきてくれるらしい。

「神子様をお守りするのが私の役目ですから」

 クラウスさんは正義の味方みたい。味方をつけて突撃したらあのサディアスに何を言われるかわかったものじゃないけど、あんなやつとふたりきりになるのは嫌。

 だから、クラウスさんがつきそってくれることに、ちょっとだけ安心した。
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