白馬と姫(1~50)

第18話『失礼な教師』

 もやもやは晴れないけど、「ミャーコ」と呼ばれて顔を上げた。

「これからについて、ちゃんと話しておきたいのだが、いいかな?」

 ジルベール様はわざわざ聞いてくる。きっと、昨日の態度が悪かったからかもしれない。やっぱり気をつかわせているんだ。それが嫌だから、大きくうなずくことにした。

「あなたにはまず正式に神子となる儀式を受けてもらう。それまでは30夜あるから、その間にこの国について学んでほしいんだ」

「30夜って何ですか?」

「こちらでは日を数えるときに夜を使うのです」

 クラウスさんが教えてくれる。そうなんだ。ということは「30日後」に神子の儀式は行われる。あれ? でも何で、クラウスさんはニホンの日の数え方を知っているのかな?

 その疑問をたずねる前に、ジルベール様が「さすがにクラウスは異世界のニホンについてよく知っているね」と称えた。なるほど、だから知ってたんだ。

「ミャーコ、クラウスはニホンが好きなんだ。あなたも協力してあげてほしい」

「は、はい。わたしなんかで良ければ」

「ありがとうございます」

 クラウスさんはにっこりと笑みを浮かべてくれる。

「それで、あなたに紹介したい人がいる。サディアス」

 ジルベール様が呼びかけると、花のアーチをくぐり抜けて、こちらへと歩いてくる男の子の姿が見えた。

 丸眼鏡をかけた無愛想な顔。赤い髪の毛はクセがあって、跳ね上がっている。ひょろりと高い背は姿勢が悪く少し曲がってしまっている。

「彼はサディアス・クロス。あなたの教師だ」

 えっ? 教師なの? たぶんわたしと年齢は違わないんじゃないかな。首を傾げて眼鏡の奥を見ていたら、強い眼光でにらみつけられた。ニーナさんとは別の意味で怖い。

「……教えたくはないが、国王の命令なら仕方ない。俺は神子だとしても手加減はしないからな」

 サディアスがはじめて放った言葉に、わたしはただ見つめるしかできなかった。信じられない。初対面の相手にそんなことを言うのは何で? 横からニーナさんの上品に笑う声がした。

「サディアス。あなたのことはこれっぽっちも好きではないけれど、その姿勢はまあまあ素敵ですわ」

「俺もお姫様のことは好きじゃない。誉められても嬉しくないしな」

「何よ! わたしに誉められるのは名誉なことなのよ! 本当にあなたってバカ! ミャーコと一緒よ!」

 ニーナさんが相手でも失礼な態度をする。こんなやつと一緒にしないでほしい。絶対に違うんだから。

 わたしはよろしくなんて嫌だけど、一応、「よろしくお願いします」と頭を下げた。それにサディアスは「ふん」と鼻で笑った。

 やっぱり頭なんか下げなきゃ良かった。
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