白馬と姫(101~end)
第135話『仕事』
おたけびが落ち着いた頃に気になったのは、ガストンさんがクラウスさんを捕まえに行ったという話だった。でも、目の前のクラウスさんは無事だし、ガストンさんも離れていて拘束しようという動きもない。ジュリアさんと言い合いをしている。
その辺りの話を聞こうと口を開けようとしたんだけど、先にクラウスさんから「話は後にいたしましょう」と言われた。
「申し訳ありませんが、まだ仕事が残っていますので」
結局、そこで詳しい話を聞くことはできなかった。
お城に戻ったクラウスさんは、まず先に、執務室へと入っていった。レーコさんがいる執務室で、報告をするという仕事が残っているらしい。わたしもついていこうとしたけど、中に入るのは丁重にお断りされた。一緒にいたかったのに本当に残念だ。
だけど、わがままは言っていられない。彼の仕事はまだ終わっていないのだろう。納得したふりをして、しぶしぶクラウスさんから離れたら「ミヤコ様。また改めてお向かいにあがります」と嬉しい言葉をもらった。
ということは、また会える! 話もたくさんできるはず。そう考えると、飛び上がってしまいそうなくらい嬉しい。自室まで引き返す長い道のりが苦じゃなかった。
イチゴミルク色の部屋にはマリアさんが待ち構えていた。ぴりりと着替えをしなかった点について指摘される。
「殿方の前でそのような格好をさらされて」
確かに改めて自分の姿を見下ろすと、赤面しそうなくらい薄着だ。ショールを纏っていない胸元や肘の下はうっすら透けている。いろんな人に見られたかもしれない。一応、わたしだって女子だ。クラウスさんはどう感じただろう。はしたないと思ったかな。
「マリアさん、どうしよう」
目の前で凛とたたずむマリアさんに泣きつく。彼女は「しょうがない方」とでも言いそうなくらい深いため息をこぼした。
「では、めいいっぱい着飾っていただきましょう。抵抗はなしですよ」
着飾るのは苦手だ。顔が平凡だから、きらびやかなドレスを纏うと合成したように上と下で違和感がある。だから、神子服の地味な配色は気に入っていた。でも、王女なんて地位におさまった今、神子服の気楽さを捨てなければならない。
「あの、極力地味めな服で」
「いいえ、ミヤコ様のお可愛らしさを全面に出せる服を選ばせていただきますわ」
わたしの可愛らしさ? そんなものがこの世界で本当に存在するのかどうか、強く疑問だ。わからない。まだ思考のなかにいるわたしを置き去りにして、マリアさんは動き出した。すぐに世話係は3人に増えて、それぞれ仕事をはじめた。
マリアさんが選んだドレスは桜の花びらより淡い色だった。ちょっと歩いて風を起こすと、あしらわれたフリルが軽やかに動く。背中は風通しがよく、多少開いている。鏡の前で体をねじって腰の辺りで揺れるリボンを確かめていたら、マリアさんに笑われてしまった。
昨日からマリアさんはよく笑う。
「マリアさん、笑いすぎです」
「失礼いたしました。とてもお可愛らしくて」
マリアさんは口元に手をそえて、それでも目尻は下がったままにしている。
彼女が口にした「可愛らしさ」に疑問が浮かぶ。だからって、自分の可愛らしさを聞いたところで恥ずかしさにいたたまれなくなるだけだろう。うなじにまとわりつくものは一切なく、黒髪は編みこまれて後頭部にまとめられている。つまり、頬に熱が集まっても隠せない。
自分から顔を赤くしてしまうような状態を避けるために、黙りこんだ。
おたけびが落ち着いた頃に気になったのは、ガストンさんがクラウスさんを捕まえに行ったという話だった。でも、目の前のクラウスさんは無事だし、ガストンさんも離れていて拘束しようという動きもない。ジュリアさんと言い合いをしている。
その辺りの話を聞こうと口を開けようとしたんだけど、先にクラウスさんから「話は後にいたしましょう」と言われた。
「申し訳ありませんが、まだ仕事が残っていますので」
結局、そこで詳しい話を聞くことはできなかった。
お城に戻ったクラウスさんは、まず先に、執務室へと入っていった。レーコさんがいる執務室で、報告をするという仕事が残っているらしい。わたしもついていこうとしたけど、中に入るのは丁重にお断りされた。一緒にいたかったのに本当に残念だ。
だけど、わがままは言っていられない。彼の仕事はまだ終わっていないのだろう。納得したふりをして、しぶしぶクラウスさんから離れたら「ミヤコ様。また改めてお向かいにあがります」と嬉しい言葉をもらった。
ということは、また会える! 話もたくさんできるはず。そう考えると、飛び上がってしまいそうなくらい嬉しい。自室まで引き返す長い道のりが苦じゃなかった。
イチゴミルク色の部屋にはマリアさんが待ち構えていた。ぴりりと着替えをしなかった点について指摘される。
「殿方の前でそのような格好をさらされて」
確かに改めて自分の姿を見下ろすと、赤面しそうなくらい薄着だ。ショールを纏っていない胸元や肘の下はうっすら透けている。いろんな人に見られたかもしれない。一応、わたしだって女子だ。クラウスさんはどう感じただろう。はしたないと思ったかな。
「マリアさん、どうしよう」
目の前で凛とたたずむマリアさんに泣きつく。彼女は「しょうがない方」とでも言いそうなくらい深いため息をこぼした。
「では、めいいっぱい着飾っていただきましょう。抵抗はなしですよ」
着飾るのは苦手だ。顔が平凡だから、きらびやかなドレスを纏うと合成したように上と下で違和感がある。だから、神子服の地味な配色は気に入っていた。でも、王女なんて地位におさまった今、神子服の気楽さを捨てなければならない。
「あの、極力地味めな服で」
「いいえ、ミヤコ様のお可愛らしさを全面に出せる服を選ばせていただきますわ」
わたしの可愛らしさ? そんなものがこの世界で本当に存在するのかどうか、強く疑問だ。わからない。まだ思考のなかにいるわたしを置き去りにして、マリアさんは動き出した。すぐに世話係は3人に増えて、それぞれ仕事をはじめた。
マリアさんが選んだドレスは桜の花びらより淡い色だった。ちょっと歩いて風を起こすと、あしらわれたフリルが軽やかに動く。背中は風通しがよく、多少開いている。鏡の前で体をねじって腰の辺りで揺れるリボンを確かめていたら、マリアさんに笑われてしまった。
昨日からマリアさんはよく笑う。
「マリアさん、笑いすぎです」
「失礼いたしました。とてもお可愛らしくて」
マリアさんは口元に手をそえて、それでも目尻は下がったままにしている。
彼女が口にした「可愛らしさ」に疑問が浮かぶ。だからって、自分の可愛らしさを聞いたところで恥ずかしさにいたたまれなくなるだけだろう。うなじにまとわりつくものは一切なく、黒髪は編みこまれて後頭部にまとめられている。つまり、頬に熱が集まっても隠せない。
自分から顔を赤くしてしまうような状態を避けるために、黙りこんだ。