白馬と姫(101~end)

第131話『言い訳』

 しばらくして、ようやく頭のなかが冷静になってきた。ああ、何で、サディアスの首に抱き着いているんだろう。しかも、ぴったりと密着している体勢で。

 今さらだけど、看守の人もばっちり見ているはずだし、ここにいるのが恥ずかしい。

 こんな恥をさらすくらいなら、利口なサディアスが止めてくれれば良かったのに。でも、よく考えれば、彼も予想してなかっただろうし、驚いただろう。サディアスから何か言われる前にわたしから離れなきゃ。そう思って、無意識に巻きつけていた腕をゆるめた。

「えーっと、ごめん」

 そして、極力、サディアスを視界に入れないように後ろに下がる。今、サディアスの無表情を目の前にしたら、ますます自分が情けなくなるに違いない。だから、見ない。見たくない。でも、沈黙しているのは嫌だったから、思いついた言い訳を並べる。

「これは、あれだから、勢いに任せただけで、深い意味はないから。塔に幽閉されていた間、サディアスのことをずっと考えていて、それで本物を見たら、嬉しくなっただけ。……あんたに会いたかったから」

 最後にかけて声が小さくなる。だけど、本当にわたしはサディアスに会いたかったんだ。さっきのバカみたいに言い合って、当たり前のような日常が嬉しかった。その気持ちが爆発して、サディアスに抱きつくという変なことになっちゃったけど。これが正直な気持ちだった。

 相手の反応がさすがに気になって、顔をサディアスのほうに向けてみたら、かなり疲れたような表情をしている。

「お前はアホだな」

「ちょっと!」

 せっかく人が素直になったっていうのにひどい。

「本当のことだろう。人の気も知らない、自分の心すらわかっていない。そのアホらしさに腹が立つ」

 怒ったように言いながら、サディアスは壁に手をついて、ゆっくりと立ち上がる。少し傾いた体を支えようとわたしが近づいたら、「助けはいらない」とばかりに逆の手で拒否された。

「わ、悪かったわね」

 拒否されたことも悲しかったけど、イラつかせてしまうほど嫌われていたのかと思うと、胸が苦しい。何でこんなに嫌われているんだろう。わからない。

 そのとき、サディアスの指がわたしの頭に触れた。撫でるわけでもなくただ頭に置いているだけでも、ぬくもりが伝わってくる。言っていることと行動が真逆で、わたしは戸惑った。

「お前は何もわかっていない」

「わかっていないって。確かにわたしは頭は悪いけど……」

「違う。そういう意味じゃない」

 「じゃあ、どういう意味?」と聞いてみるけど、「教えない」なんて意地悪を言う。

「あっそ。わたしだって知りたくないし」

 子供っぽいとはわかってはいても、顔をおもいっきりそむけるしかできない。もしかしたら、こういう仕草が嫌われる原因なのかも。サディアスは呆れたように深いため息を吐いた。

「今は教えないが、そうだな、お前が女王になったら教えてやってもいい」

 サディアスはからかうように笑う。彼が言う、女王。それは今、レーコさんにすすめられて困っているんだけど、何で彼が知っているんだろう。牢屋でも何か情報が流れてくるとか?

「女王なんて柄じゃないし、わたしはならないから」

「そうか? なるもならないも、性悪女がうまいことやりそうだがな」

 わたしが拒否したとしても、気がついたら女王にされていたとかありそうだ。たとえ、そんな嫌な予感がしても。

「ぜったいに、ならないから!」

 意気ごむわたしに、サディアスは鼻で笑ってから、さっさと格子の外に出ようとする。話が軽く流されたようでイライラするけど、ここは牢屋だ。置いていかれると思うと、ゾッとする。とりあえずは怒りをおさめて、サディアスの後ろについていくことにした。
31/45ページ
Clap