白馬と姫(101~end)
第127話『王妃と王女』
マリアさんの視線が痛い。きっと、綺麗な金髪に覆われた頭のなかでは、「王女様、はしたないですわ」と思っているに違いない。勢いで握った拳を静かに下ろし、ルルさんに主導権を返す。どうにか、話が本題に戻りますように。
「まあ、こんなふうにミャーコも言っているし、どっちみちダメだったのよ、あなた」
ルルさんが気軽な友達のようにジルベール様の肩を叩く。でも、ルルさんがこの人を簡単に許すはずがなかった。肩に手を置いたまま、うずくまるジルベール様と同じくらいの高さまでしゃがみこむ。
「落ちこんでいるところを悪いけど、ジルベール。あなたには王の座を退いてもらうわ。それに、死なせてあげないから覚悟してね。めいいっぱい長生きして、ジルベラスのことを胸に抱えて、ずっと生きていてほしい。これがあなたに仕掛けたかったわたしなりの復讐」
ルルさんの言葉を受けてジルベール様は何を思うのか、彼は黙りこんだままうつむいている。耳に届いていなかったのかなと考えていたら、ジルベール様の上体が床に倒れた。両手で床を掴みながら四つ足の獣のようにわめき出す。
たぶんもう、理性なんてない。言葉を失って泣き叫ぶだけだ。ジルベール様はこの先ずっと、後悔を胸に抱えて暮らしていかなくちゃならない。まともに理性を持っていたら、つらいだろう。いっそ獣になったほうが楽かもしれない。
だけど、罪を犯したんだから、そのくらいのつらさは味わうべきだと思う。こう感じてしまうのは、わたしも彼の罪を許すことができないからなのかな。自分でもわからない。
叫ぶことをやめたジルベール様の体は床の上で脱け殻のようにしぼんだ。
「やっと、終わった」
ルルさんは短剣を持っていない左手の方で黒いヴェールを外す。乾いた音を立ててヴェールが床に落ちたとき、黒髪が日の下で明らかになった。
一度大きく舞い上がった髪の毛が彼女の肩の上で揺れる。頬には色がなかった。きっと長い間、ヴェールで顔を隠していたせいだろう。でも、わたしに笑いかけることで少しだけ赤みが出てくる。
「これでもう、ルルは廃業ってことで、ササノレーコに戻ります」
レーコさんってササノっていう名字なんだ。それは別に良くて。
「やめるんですか?」
「まあね。これからはジルベラスの妻としてがんばらなくちゃ。あなたが女王になるまでの間はね」
「な、な!」
女王って! しかも、わたしが女王になる? まったく飲みこめないわたしに、ルルさん――いやもうレーコさんか――はノンキにほほえんで見せた。
「何で驚いてるかな~? ジルベラスの血をひいてるのはあなただけなんだよ。当然、女王になるのは当たり前でしょ」
「む、無理です! わたしなんかが女王になるなんて不可能です!」
一国を背負うなんてわたしには無理だとわかってもらいたい。ほら、わたしなんてこちらの文字は書けないし、読めないし。勉強するにしても恐ろしくダメで、何度、サディアスに「アホ」と言われたかわからない。でも、サディアスは根気よく教えてくれたけど。
「大丈夫よ。わたしだって王妃なんて柄じゃなかったけど、何とかなったんだから。次期女王様、これからよろしくね」
「ですから、無理なんですって!」
「まあまあ」
レーコさんはまったくわたしの話を真剣に聞いてくれない。マリアさんにも「王女様には荷が重いでしょう」とかフォローしてほしかったのに、なぜか彼女は目尻に涙を浮かばせていた。
マリアさんの視線が痛い。きっと、綺麗な金髪に覆われた頭のなかでは、「王女様、はしたないですわ」と思っているに違いない。勢いで握った拳を静かに下ろし、ルルさんに主導権を返す。どうにか、話が本題に戻りますように。
「まあ、こんなふうにミャーコも言っているし、どっちみちダメだったのよ、あなた」
ルルさんが気軽な友達のようにジルベール様の肩を叩く。でも、ルルさんがこの人を簡単に許すはずがなかった。肩に手を置いたまま、うずくまるジルベール様と同じくらいの高さまでしゃがみこむ。
「落ちこんでいるところを悪いけど、ジルベール。あなたには王の座を退いてもらうわ。それに、死なせてあげないから覚悟してね。めいいっぱい長生きして、ジルベラスのことを胸に抱えて、ずっと生きていてほしい。これがあなたに仕掛けたかったわたしなりの復讐」
ルルさんの言葉を受けてジルベール様は何を思うのか、彼は黙りこんだままうつむいている。耳に届いていなかったのかなと考えていたら、ジルベール様の上体が床に倒れた。両手で床を掴みながら四つ足の獣のようにわめき出す。
たぶんもう、理性なんてない。言葉を失って泣き叫ぶだけだ。ジルベール様はこの先ずっと、後悔を胸に抱えて暮らしていかなくちゃならない。まともに理性を持っていたら、つらいだろう。いっそ獣になったほうが楽かもしれない。
だけど、罪を犯したんだから、そのくらいのつらさは味わうべきだと思う。こう感じてしまうのは、わたしも彼の罪を許すことができないからなのかな。自分でもわからない。
叫ぶことをやめたジルベール様の体は床の上で脱け殻のようにしぼんだ。
「やっと、終わった」
ルルさんは短剣を持っていない左手の方で黒いヴェールを外す。乾いた音を立ててヴェールが床に落ちたとき、黒髪が日の下で明らかになった。
一度大きく舞い上がった髪の毛が彼女の肩の上で揺れる。頬には色がなかった。きっと長い間、ヴェールで顔を隠していたせいだろう。でも、わたしに笑いかけることで少しだけ赤みが出てくる。
「これでもう、ルルは廃業ってことで、ササノレーコに戻ります」
レーコさんってササノっていう名字なんだ。それは別に良くて。
「やめるんですか?」
「まあね。これからはジルベラスの妻としてがんばらなくちゃ。あなたが女王になるまでの間はね」
「な、な!」
女王って! しかも、わたしが女王になる? まったく飲みこめないわたしに、ルルさん――いやもうレーコさんか――はノンキにほほえんで見せた。
「何で驚いてるかな~? ジルベラスの血をひいてるのはあなただけなんだよ。当然、女王になるのは当たり前でしょ」
「む、無理です! わたしなんかが女王になるなんて不可能です!」
一国を背負うなんてわたしには無理だとわかってもらいたい。ほら、わたしなんてこちらの文字は書けないし、読めないし。勉強するにしても恐ろしくダメで、何度、サディアスに「アホ」と言われたかわからない。でも、サディアスは根気よく教えてくれたけど。
「大丈夫よ。わたしだって王妃なんて柄じゃなかったけど、何とかなったんだから。次期女王様、これからよろしくね」
「ですから、無理なんですって!」
「まあまあ」
レーコさんはまったくわたしの話を真剣に聞いてくれない。マリアさんにも「王女様には荷が重いでしょう」とかフォローしてほしかったのに、なぜか彼女は目尻に涙を浮かばせていた。