白馬と姫(101~end)
第126話『深い後悔』
地を這うような低い声がして、わたしの思考が途切れた。うなっているように聞こえたけど、2度目ははっきりと耳に届いた。「お前の話などどうでもいい」と。
低い声はジルベール様のものだった。彼は自分の話をわたしの話にすり替えられたのが、我慢ならなかったのだろう。わたしより大分大人のくせに、にらみつけてきた。
「お前さえいなければ、父上が後悔することもなかったはずだ。わたしを後継者にしたことを後悔するはずがない。あの日、父上はわたしを呼び出した、頼みがあると言ってね。父上の頼みを聞く前に無邪気に遊ぶニーナの姿が目に入った」
ややこしいけど、このときの「ニーナ」はわたしのことらしい。まったく覚えていないけど。
「ニーナには父上の血が流れている。でも、わたしには一滴も流れていない。きっと父上は、ニーナを女王の地位に押し上げたかったに違いない。その事実を突きつけられたようで、気が付けば、王の杖を握り、血だまりに立っていた」
ジルベール様は何かをすくいあげるように手のひらをかかげた。もしかしたらその目には真っ赤な血が見えていたのかもしれない。汚れた手を前にして何を考えているんだろう。
これで、わたしのなかの1つの疑問が晴れた。ジルベール様がわたしと結婚できる理由はこれだったんだ。ジルベール様とわたしは血が繋がっていないから。
でも、何で、わたしを結婚相手に選んだんだろう。すごく嫌っているはずなのに。ジルベール様がわたしと結婚しようとしたことが、今でも不思議だった。
ルルさんはジルベール様に歩み寄った。それは1歩だけだったけど、手に持つ短剣は下げられたままだ。ルルさんの息が黒い編み目のヴェールに当たる。
「違うよ。ジルベラスはあなたを引きずり下ろそうなんて考えてなかった。逆に、自分に何かあったらジルベールにすべてを任せるつもりだった。ニーナもわたしも」
「そんな話は聞いていない!」
「話す前にあなたが殺しちゃったんでしょ!」
ジルベール様は「嘘だ」とこぼした。うなだれて、床に向かって頭をすりつける。その姿はとても哀れで、ジルベール様こそ、すべてにおいて後悔をしているように見えた。
「そっか、なるほどね。あなたは1番、ミャーコの存在を恐れていたのね。彼女の目が、姿が、あなたの罪を思い出させるから。結婚は監視するためだったの?」
ようやくわかった。ジルベール様はわたしをそばに置くことで監視しようとしたんだ。結婚イコール監視なんて、本当に逃げて正解だった。ジルベール様は顔を上げる。ルルさんを見てからわたしへと視線を移す。すごく遠い目をしているのが恐かった。
「いや、それだけではないよ……ミャーコはあなたに似ていた。まるであなたを見ているようだった。だからこそ、誰かの目に触れる前に自分のものにしたかった」
ジルベール様のひとことでわたしの背中は寒気に襲われた。お母さんであるルルさんの代わりに、わたしを自分のものにしようとした?
「冗談じゃない!」
ふたりの声が重なる。わたしとルルさんが同時に同じ言葉を叫んだらしい。やっぱり親子だ。だけど、わたしはまだまだ言い足りなかった。
「確かに、わたしはお母さんに似ているかもしれないけど、中身は全然、違うんで! それにわたしにだって好きな人もいるし!」
叫んでから熱が一気に冷めていく。何で声に出して言ってしまったのだろう。わたしの好きな人がいる発言は、この場ではどうでもいいことなのに。口に出してからの深い後悔は取り返しがつかなかった。
地を這うような低い声がして、わたしの思考が途切れた。うなっているように聞こえたけど、2度目ははっきりと耳に届いた。「お前の話などどうでもいい」と。
低い声はジルベール様のものだった。彼は自分の話をわたしの話にすり替えられたのが、我慢ならなかったのだろう。わたしより大分大人のくせに、にらみつけてきた。
「お前さえいなければ、父上が後悔することもなかったはずだ。わたしを後継者にしたことを後悔するはずがない。あの日、父上はわたしを呼び出した、頼みがあると言ってね。父上の頼みを聞く前に無邪気に遊ぶニーナの姿が目に入った」
ややこしいけど、このときの「ニーナ」はわたしのことらしい。まったく覚えていないけど。
「ニーナには父上の血が流れている。でも、わたしには一滴も流れていない。きっと父上は、ニーナを女王の地位に押し上げたかったに違いない。その事実を突きつけられたようで、気が付けば、王の杖を握り、血だまりに立っていた」
ジルベール様は何かをすくいあげるように手のひらをかかげた。もしかしたらその目には真っ赤な血が見えていたのかもしれない。汚れた手を前にして何を考えているんだろう。
これで、わたしのなかの1つの疑問が晴れた。ジルベール様がわたしと結婚できる理由はこれだったんだ。ジルベール様とわたしは血が繋がっていないから。
でも、何で、わたしを結婚相手に選んだんだろう。すごく嫌っているはずなのに。ジルベール様がわたしと結婚しようとしたことが、今でも不思議だった。
ルルさんはジルベール様に歩み寄った。それは1歩だけだったけど、手に持つ短剣は下げられたままだ。ルルさんの息が黒い編み目のヴェールに当たる。
「違うよ。ジルベラスはあなたを引きずり下ろそうなんて考えてなかった。逆に、自分に何かあったらジルベールにすべてを任せるつもりだった。ニーナもわたしも」
「そんな話は聞いていない!」
「話す前にあなたが殺しちゃったんでしょ!」
ジルベール様は「嘘だ」とこぼした。うなだれて、床に向かって頭をすりつける。その姿はとても哀れで、ジルベール様こそ、すべてにおいて後悔をしているように見えた。
「そっか、なるほどね。あなたは1番、ミャーコの存在を恐れていたのね。彼女の目が、姿が、あなたの罪を思い出させるから。結婚は監視するためだったの?」
ようやくわかった。ジルベール様はわたしをそばに置くことで監視しようとしたんだ。結婚イコール監視なんて、本当に逃げて正解だった。ジルベール様は顔を上げる。ルルさんを見てからわたしへと視線を移す。すごく遠い目をしているのが恐かった。
「いや、それだけではないよ……ミャーコはあなたに似ていた。まるであなたを見ているようだった。だからこそ、誰かの目に触れる前に自分のものにしたかった」
ジルベール様のひとことでわたしの背中は寒気に襲われた。お母さんであるルルさんの代わりに、わたしを自分のものにしようとした?
「冗談じゃない!」
ふたりの声が重なる。わたしとルルさんが同時に同じ言葉を叫んだらしい。やっぱり親子だ。だけど、わたしはまだまだ言い足りなかった。
「確かに、わたしはお母さんに似ているかもしれないけど、中身は全然、違うんで! それにわたしにだって好きな人もいるし!」
叫んでから熱が一気に冷めていく。何で声に出して言ってしまったのだろう。わたしの好きな人がいる発言は、この場ではどうでもいいことなのに。口に出してからの深い後悔は取り返しがつかなかった。