白馬と姫(101~end)

第124話『犯人』

「恐い……だと?」

「そうでしょ。本来なら他の使用人と同じように森から追放したはずよ。でも、クラウスにはできなかった。それはなぜか」

 ルルさんはそこで一息置く。

「あなたは恐かったのよ。ヴォルグフート家の復讐が」

 「ヴォルグフート」というのは確か、クラウスさんの名だ。クラウスさんの家がジルベール様に何を復讐するというのだろう?

「天井にも白馬が描かれているように、ここはかつてヴォルグフートのものだった。あなたの先祖が奪ったのよ。そして、ヴォルグフート家は根絶やしにされないかわりに、代々、あなたの先祖の護衛として仕える身となった」

 エントランスの天井に白馬が描かれているのは知っていた。はじめて見たとき、その白馬はクラウスさんかな~とのんきに思ったけど、まさかご先祖さんだったなんて知らなかった。ルルさんの言葉は続く。

「どうして、あなたの先祖は復讐するかもしれない相手を護衛にしたのか。それはきっと、今のあなたと同じ理由よ。
あなたはクラウスを自由にすれば、森の外のものたちを取りこんで攻めてくると思った。クラウスとその父親なら、あっけなくできそうだもんね。
まあ、クラウスを殺すという選択肢もあったけど、クラウスの父親を脅すにはちょうど良かったんでしょ? 自分に手が出せなくなるように。
だから目の届くところに置いた。クラウスに恩を売るふりをして、保険がわりにね。あなたはそうやって、罪人だとする身内を自分がわに取りこもうとしたのよ」

 すべては恐れから、クラウスさんを側に置いていたんだ。その事実にわたしのなかのジルベール様へのいら立ちが強くなっていく。やっぱり許せない、この男。

「違う!」

「わたしのことも同じ理由よね。本当はお城に捕らえておきたかったんでしょうけど、逃げられちゃって、あなたはわたしの復讐がとーっても恐かった。
だから、わたしがルルと名乗ってお城に戻ったとき、ホッとしたんじゃない? これで監視できると思って」

「違う!」

 ジルベール様の否定する声が空しく響く。否定するたびにルルさんの言葉が真実だと告げているような気がする。

「でも、残念だったわね。わたしは見つけた。あなたの罪の証拠を」

「罪?」

「ジルベラスを殺害したのはあなたよ、ジルベール」

 ルルさんの落ち着いた声はジルベール様の動きを完全に止めさせた。口元は「バカな」と動くけど、ちゃんと声に出ていない。ルルさんは短剣の刃をますます近づけた。

「事件を冷静に見てみれば、答えは簡単だった。凶器となった王の杖に刀が仕こまれているのを知っているのは、わたしを含む一部だけだった」

「ほら、犯人はあなたじゃないか!」

 ジルベール様が勢いを取り戻すかと思えたけど、ルルさんが容赦なく「最後まで話を聞きなさい」と言い放つ。かなり冷たい。

「王の杖に触れられる可能性があるのは、王の部屋に入れるものだけ。わたしもあなたも含まれるのよ。
一番疑問だったのは、王の背中に刺し傷があったこと。王が背中を見せるなんてありえないわ。
だって、あの日は侵入者が現れて警戒していたんだし。わたしでさえ、部屋には簡単に入れなかった。
そしてそんなときに、彼がなぜ背中を向けたのか想像した。あの日、娘は王の部屋をたずねているの。あなたは卑怯にも娘を殺めようとしたのかしら? 王はおそらくかばおうとした。自分の娘を助けるためにね」

 娘を殺そうとした? でも、王がかばった? だとしたら、王は娘のために命を落とした。娘とはつまりわたしで。わたしのせいでお父さんは死んでしまったってことなの。

 何も飲みこめないわたしを置き去りにして、ルルさんは話を先に進める。

「あなたに加担した者たちから証言もとったから。もう、逃げられないってこと、あなたわかってる?」

 ますますきつい口調で攻められて、ジルベール様はついに床に両手を突いてしまった。首に突きつけた短剣が傷をつける前に、ルルさんはとっさに手を下ろした。

 そして、ジルベール様はようやく告白した。その告白も罪のほうではなかったけど。

「……わたしはずっとあなたが好きだったんだ」

 愛の告白はルルさんに向けてだった。
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