白馬と姫(101~end)
第121話『勇気と努力』
画を布のなかに戻して縛ると、ローブのポケットにしまいこんだ。スマホサイズのかたちは、こちらの世界でも持ち運びがしやすい。
お城の通路を早歩きしながら、わたしはマリアさんから様々な情報を仕入れた。
「サディアス氏と姉のジュリアは1級の牢屋に入っているとのことです。そして、1級と申しますのは最も重い罪、つまりは死罪になる者が入る牢屋です。しかし、3夜後の刑が執行されるまでは拷問もなく、食事も前日までは支給されるとのことですので、時間には猶予があります」
刑の執行までにふたりを救えればいいということになる。しかし、それはそれとしても。
「はっ、はあ、そうですか。あの、歩く速度、何とか、なりませんか?」
運動不足なわたしにとって、はや歩きは相当疲れる。マリアさんは音を立てずに早く歩く方法をマスターしているようで、息なんて切らさない。
「王女様、早くしなければ、あのお方――ルル様はとんでもないことをなさるに違いありません。ルル様自身がお命を落としてもよろしいのですか?」
「うっ」何にも言い返せない。マリアさんはわたしの扱いに慣れているのだ。
「良いですね、泣き言など王女様には似合いません。あなたは一度、このお城を出る勇気をお持ちになったのですから、大丈夫です」
あれが勇気と言われると自信がない。確かにあのときはお城を出ることに不安はなかった。それはどうしてか。
考えたくはないけど、あの赤毛でひ弱で大事なときに助けてくれない男のせいだ。不機嫌でいつも説教臭い。相手にするには面倒な男だった。
それでも赤毛についた寝癖は可愛らしくも見えなくはないし、実は腕や胸ががっしりしていることは知っている。わたしを簡単に助けないのは、自分で乗りこえられると信じてくれているからだ。
――「ふん。せいぜい努力しろ」
記憶のなかの嫌みったらしい声は変わらず、わたしの神経を逆撫でする。今は牢屋にいるくせに。顔の見えない声に向かって、「努力してやるわよ」と怒鳴った。
そうしたら、重くてどうにもならないと思っていた足が軽くなった気がした。まだ歩ける。いきなり怒鳴ったわたしにマリアさんが不安げに見てきたけど、知らないふりを通した。
しばらく進むと、はちみつ色のエントランスが待ち構えていた。謁見の間の扉の前には護衛がひとりもいなかった。通路を歩いていたときも誰もいなかった気がする。お城の警備に不安を抱きつつも、重い扉の取っ手を両手で掴んだ。
画を布のなかに戻して縛ると、ローブのポケットにしまいこんだ。スマホサイズのかたちは、こちらの世界でも持ち運びがしやすい。
お城の通路を早歩きしながら、わたしはマリアさんから様々な情報を仕入れた。
「サディアス氏と姉のジュリアは1級の牢屋に入っているとのことです。そして、1級と申しますのは最も重い罪、つまりは死罪になる者が入る牢屋です。しかし、3夜後の刑が執行されるまでは拷問もなく、食事も前日までは支給されるとのことですので、時間には猶予があります」
刑の執行までにふたりを救えればいいということになる。しかし、それはそれとしても。
「はっ、はあ、そうですか。あの、歩く速度、何とか、なりませんか?」
運動不足なわたしにとって、はや歩きは相当疲れる。マリアさんは音を立てずに早く歩く方法をマスターしているようで、息なんて切らさない。
「王女様、早くしなければ、あのお方――ルル様はとんでもないことをなさるに違いありません。ルル様自身がお命を落としてもよろしいのですか?」
「うっ」何にも言い返せない。マリアさんはわたしの扱いに慣れているのだ。
「良いですね、泣き言など王女様には似合いません。あなたは一度、このお城を出る勇気をお持ちになったのですから、大丈夫です」
あれが勇気と言われると自信がない。確かにあのときはお城を出ることに不安はなかった。それはどうしてか。
考えたくはないけど、あの赤毛でひ弱で大事なときに助けてくれない男のせいだ。不機嫌でいつも説教臭い。相手にするには面倒な男だった。
それでも赤毛についた寝癖は可愛らしくも見えなくはないし、実は腕や胸ががっしりしていることは知っている。わたしを簡単に助けないのは、自分で乗りこえられると信じてくれているからだ。
――「ふん。せいぜい努力しろ」
記憶のなかの嫌みったらしい声は変わらず、わたしの神経を逆撫でする。今は牢屋にいるくせに。顔の見えない声に向かって、「努力してやるわよ」と怒鳴った。
そうしたら、重くてどうにもならないと思っていた足が軽くなった気がした。まだ歩ける。いきなり怒鳴ったわたしにマリアさんが不安げに見てきたけど、知らないふりを通した。
しばらく進むと、はちみつ色のエントランスが待ち構えていた。謁見の間の扉の前には護衛がひとりもいなかった。通路を歩いていたときも誰もいなかった気がする。お城の警備に不安を抱きつつも、重い扉の取っ手を両手で掴んだ。