白馬と姫(101~end)
第118話『悲しみ』
気を取り直して話を進める。
「あの、どうしてここに?」
わたしの疑問を受けて、ニーナさんは長くため息を吐いた。その瞳が呆れているように見えたのは気のせいだろうか。
「あなたって、どこまでアホなのかしら?」
「アホって」
「アホでしょ。お兄様にたてついて、挙げ句の果てには幽閉されて、素晴らしくアホね」
本当にその通りかもしれない。確かに行動はアホだったかもしれないけど、後悔はしていない。エリエと話せなくなっても、塔から出られなくても、わたしはサディアスの手をとって良かった。
「でも、うらやましいとは思ったわ」
「え?」
驚いてニーナさんの顔に目を移したら、彼女の瞳はどこか遠くにあった。
「わたしは自分のために生きてきたことはないわ。常に誰かのためだった。わたしの意思は必要なかった。それが、もううんざりなの。わたしはニーナじゃない。この城の王女でも、ジルベールの妹でもない。フィンボルン生まれの普通の女よ」
ニーナさんはわたしの代わりに王女として過ごしてきた。自分の名を隠して生きることはどれだけ悲しいことだろう。きっと、わたしを嫌っているのは、彼女だけのせいではない。名を隠さなければならなかったニーナさんの悲しみだと思う。
何も言えないでいると、ニーナさんは自分でフードつきのローブを脱いだ。そして、ローブをわたしの前に突き出す。
「あなたにすべてを返すわ。さあ、マリア、支度をして」
「したくって何ですか?」
「わたしがあなたの替わりになるのはこれっきりよ。ここからはあなたの責任で生きていくことね」
替わりって何? たずねる暇を与えてくれない。命令を受けたマリアさんはわたしをあっという間に下着姿にした。
向かい合ったニーナさんも服を脱いでいた。やっぱり、外人さんらしくスタイルが良くて、自分の体をさらけ出すのが恥ずかしい。どうにか小さい胸だけは隠そうと両腕を組んだら、ニーナさんの鋭い目に引っかかったらしい。
「もじもじしないでしっかりしなさい。あなた王女でしょ!」
はい、その通りです。すぐにマリアさんは、ニーナさんが着ていたドレスを解いて、わたしに身につけていった。フードつきのローブを頭からかぶせて着替えは終わりだ。
ニーナさんも神子服に着替えていた。「臭いわね」ニーナさんはわたしの着ていた袖を鼻に近づけてから、顔をしかめる。
「そんなに臭くないと思いますけど」服は毎回着替えているし、臭いとは思わない。
「臭い。こんな臭い服、耐えられるかしら」
いまだにニーナさんは臭い臭いと文句を呟く。わたしは自分に与えられた服を見下ろした。
「あの、でも、これって、わたしとニーナさんが入れ替わるってことですか?」
「そうよ」
「どうしてわたしのためにそこまでしてくれるんですか?」
「あなたのためじゃない。すべては自分のためよ。ルルがそろそろ行動を起こす。そうなれば、ジルベールは終わりでしょう。わたしの人生を変えたジルベールも地に落ちる。その瞬間、あなたはその場にいるべきだわ」
ジルベール様の名前を呼び捨てにしたときのニーナさんは、どこか悲しそうだった。
気を取り直して話を進める。
「あの、どうしてここに?」
わたしの疑問を受けて、ニーナさんは長くため息を吐いた。その瞳が呆れているように見えたのは気のせいだろうか。
「あなたって、どこまでアホなのかしら?」
「アホって」
「アホでしょ。お兄様にたてついて、挙げ句の果てには幽閉されて、素晴らしくアホね」
本当にその通りかもしれない。確かに行動はアホだったかもしれないけど、後悔はしていない。エリエと話せなくなっても、塔から出られなくても、わたしはサディアスの手をとって良かった。
「でも、うらやましいとは思ったわ」
「え?」
驚いてニーナさんの顔に目を移したら、彼女の瞳はどこか遠くにあった。
「わたしは自分のために生きてきたことはないわ。常に誰かのためだった。わたしの意思は必要なかった。それが、もううんざりなの。わたしはニーナじゃない。この城の王女でも、ジルベールの妹でもない。フィンボルン生まれの普通の女よ」
ニーナさんはわたしの代わりに王女として過ごしてきた。自分の名を隠して生きることはどれだけ悲しいことだろう。きっと、わたしを嫌っているのは、彼女だけのせいではない。名を隠さなければならなかったニーナさんの悲しみだと思う。
何も言えないでいると、ニーナさんは自分でフードつきのローブを脱いだ。そして、ローブをわたしの前に突き出す。
「あなたにすべてを返すわ。さあ、マリア、支度をして」
「したくって何ですか?」
「わたしがあなたの替わりになるのはこれっきりよ。ここからはあなたの責任で生きていくことね」
替わりって何? たずねる暇を与えてくれない。命令を受けたマリアさんはわたしをあっという間に下着姿にした。
向かい合ったニーナさんも服を脱いでいた。やっぱり、外人さんらしくスタイルが良くて、自分の体をさらけ出すのが恥ずかしい。どうにか小さい胸だけは隠そうと両腕を組んだら、ニーナさんの鋭い目に引っかかったらしい。
「もじもじしないでしっかりしなさい。あなた王女でしょ!」
はい、その通りです。すぐにマリアさんは、ニーナさんが着ていたドレスを解いて、わたしに身につけていった。フードつきのローブを頭からかぶせて着替えは終わりだ。
ニーナさんも神子服に着替えていた。「臭いわね」ニーナさんはわたしの着ていた袖を鼻に近づけてから、顔をしかめる。
「そんなに臭くないと思いますけど」服は毎回着替えているし、臭いとは思わない。
「臭い。こんな臭い服、耐えられるかしら」
いまだにニーナさんは臭い臭いと文句を呟く。わたしは自分に与えられた服を見下ろした。
「あの、でも、これって、わたしとニーナさんが入れ替わるってことですか?」
「そうよ」
「どうしてわたしのためにそこまでしてくれるんですか?」
「あなたのためじゃない。すべては自分のためよ。ルルがそろそろ行動を起こす。そうなれば、ジルベールは終わりでしょう。わたしの人生を変えたジルベールも地に落ちる。その瞬間、あなたはその場にいるべきだわ」
ジルベール様の名前を呼び捨てにしたときのニーナさんは、どこか悲しそうだった。