白馬と姫(101~end)
第111話『馬車のなかの獣たち』
クラウスさんと別れてからサディアスは怒っているようだった。なぜか、いらだたしいように赤い髪の毛をぐしゃぐしゃにして「おかしい」と吐き捨てる。何がおかしいの?
「こんなにもすんなり行くのはおかしい。あの女がここまで手を回すとは思えない。もしや、あいつの罠じゃないだろうな」
あいつとはおそらくクラウスさんのこと。いまだにクラウスさんを信用していないらしい。でも、ルルさんから手紙をもらっているし、罠だとは思えない。
「罠なわけないでしょ。クラウスさんはそんなことしないから!」
「ふん、どうだか」
「何で信じられないのよ」
サディアスはまるで、すねた子供のように顔をそらす。
「あのね」
どうしたらサディアスにわかってもらえるのか、考える。クラウスさんは悪い人じゃない。むしろ、いい人なのに。
次の言葉を言おうとしたら、馬車は大きく揺れた。座っていても頭をどこかに打ちつけてしまいそうで恐い。体を支えるために馬車の床を手で押さえた。
しばらくして揺れが治まった。あの揺れはいったい何だったのか、サディアスに聞いてやろうと思って顔を上げる。彼のほうに視線をやったら、わたしは言葉とかそういうものをいっぺんに無くした。
これはどうしたんだろう? 目の前にいたサディアスのぐしゃぐしゃの赤毛が縮んでいくのだ。そればかりか、不機嫌な顔もこじんまりとなっていく。鼻がつんと伸びて、顔が毛に覆われていくのを見ると、わたしには理解できた。
――サディアスが獣になろうとしている。
長身はしゃがみこんだように小さくなり、全身が赤茶色の毛に覆われていった。前足と後ろ足が床に着地して、しっぽが横に揺れる。赤茶色の犬がそこに立っていた。
ジュリアさんの変化もはじまっていた。細身の体型がさらに細くなり、まとめられた金色の髪の毛が縮んでいく。金色の混じった白色の毛が全身を覆い尽くしていくと、仕上げみたいにヒゲがぴょんと跳ねた。長いしっぽが優雅に降り下ろされると、しなやかな前足が立ち上がる。彼女はネコだった。
赤茶色の犬はサディアス。金色のネコはジュリアさん。窓を見ると、御者の座るところにはおさるさんが座っていた。
つまりはわたしたちを乗せた馬車は、森のなかに入ったということになる。それはそれでいいんだけど、目の前のふたりが気になって仕方ない。獣に変わったふたりはものすごく可愛らしいんだ。触りたいくらい。今はこんな場合ではないとわかっているけど、わき上がった好奇心を抑えられない。
「あの~、ジュリアさん、触っても?」
断られそうな気がしながらも近寄ってみたら、ジュリアさんのほうから近づいてきてくれた。鼻がわたしの手に触れる。うわ、可愛い。背中をさすってみると獣らしいあたたかさがあって、口元がゆるむ。
サディアスを見たら、こちらの視線に気づいた途端に顔をそらした。本当に外は可愛いのに中身だけは可愛くない。
しばらく可愛くて優しいジュリアさんとたわむれていたら、眠くなってきた。うとうとしたわたしの腕をすり抜けたジュリアさんは、口で毛布を持ってきてくれる。なんて親切なんだろう。
「ありがとうございます、ジュリアさん」
彼女はネコ語で返事をくれた。赤茶色の犬といったら、まったく動こうとせずにだらけている。眠いのか薄目になっている。もしかして、これはチャンスなのかもしれない。触れるチャンス。
でも、わたしも眠かった。だから動くのは面倒になっていて、思わず言ってしまった。「おいで」なんて。
来るわけないと思っていたら、予想に反してわんこ(サディアスだと思うと嫌だからわんこ)はこちらにやってくる。腕を伸ばすとそこに収まってくれた。わたしは安心してわんこを抱き締めた。夢がやってきたのはすぐだった。
クラウスさんと別れてからサディアスは怒っているようだった。なぜか、いらだたしいように赤い髪の毛をぐしゃぐしゃにして「おかしい」と吐き捨てる。何がおかしいの?
「こんなにもすんなり行くのはおかしい。あの女がここまで手を回すとは思えない。もしや、あいつの罠じゃないだろうな」
あいつとはおそらくクラウスさんのこと。いまだにクラウスさんを信用していないらしい。でも、ルルさんから手紙をもらっているし、罠だとは思えない。
「罠なわけないでしょ。クラウスさんはそんなことしないから!」
「ふん、どうだか」
「何で信じられないのよ」
サディアスはまるで、すねた子供のように顔をそらす。
「あのね」
どうしたらサディアスにわかってもらえるのか、考える。クラウスさんは悪い人じゃない。むしろ、いい人なのに。
次の言葉を言おうとしたら、馬車は大きく揺れた。座っていても頭をどこかに打ちつけてしまいそうで恐い。体を支えるために馬車の床を手で押さえた。
しばらくして揺れが治まった。あの揺れはいったい何だったのか、サディアスに聞いてやろうと思って顔を上げる。彼のほうに視線をやったら、わたしは言葉とかそういうものをいっぺんに無くした。
これはどうしたんだろう? 目の前にいたサディアスのぐしゃぐしゃの赤毛が縮んでいくのだ。そればかりか、不機嫌な顔もこじんまりとなっていく。鼻がつんと伸びて、顔が毛に覆われていくのを見ると、わたしには理解できた。
――サディアスが獣になろうとしている。
長身はしゃがみこんだように小さくなり、全身が赤茶色の毛に覆われていった。前足と後ろ足が床に着地して、しっぽが横に揺れる。赤茶色の犬がそこに立っていた。
ジュリアさんの変化もはじまっていた。細身の体型がさらに細くなり、まとめられた金色の髪の毛が縮んでいく。金色の混じった白色の毛が全身を覆い尽くしていくと、仕上げみたいにヒゲがぴょんと跳ねた。長いしっぽが優雅に降り下ろされると、しなやかな前足が立ち上がる。彼女はネコだった。
赤茶色の犬はサディアス。金色のネコはジュリアさん。窓を見ると、御者の座るところにはおさるさんが座っていた。
つまりはわたしたちを乗せた馬車は、森のなかに入ったということになる。それはそれでいいんだけど、目の前のふたりが気になって仕方ない。獣に変わったふたりはものすごく可愛らしいんだ。触りたいくらい。今はこんな場合ではないとわかっているけど、わき上がった好奇心を抑えられない。
「あの~、ジュリアさん、触っても?」
断られそうな気がしながらも近寄ってみたら、ジュリアさんのほうから近づいてきてくれた。鼻がわたしの手に触れる。うわ、可愛い。背中をさすってみると獣らしいあたたかさがあって、口元がゆるむ。
サディアスを見たら、こちらの視線に気づいた途端に顔をそらした。本当に外は可愛いのに中身だけは可愛くない。
しばらく可愛くて優しいジュリアさんとたわむれていたら、眠くなってきた。うとうとしたわたしの腕をすり抜けたジュリアさんは、口で毛布を持ってきてくれる。なんて親切なんだろう。
「ありがとうございます、ジュリアさん」
彼女はネコ語で返事をくれた。赤茶色の犬といったら、まったく動こうとせずにだらけている。眠いのか薄目になっている。もしかして、これはチャンスなのかもしれない。触れるチャンス。
でも、わたしも眠かった。だから動くのは面倒になっていて、思わず言ってしまった。「おいで」なんて。
来るわけないと思っていたら、予想に反してわんこ(サディアスだと思うと嫌だからわんこ)はこちらにやってくる。腕を伸ばすとそこに収まってくれた。わたしは安心してわんこを抱き締めた。夢がやってきたのはすぐだった。