白馬と姫(101~end)
第110話『再会しても』
「無事だったんですね」
彼はクラウスさんだった。クラウスさんが生きていてくれた。涙がこぼれそうになるのをこらえながら鼻をすする。
「ええ、どうにか」
「こちらの方はお知り合いなのですか?」
ジュリアさんは短剣に手をかけていたけど、わたしがうなずいたら警戒心を解いたらしい。短剣にかかった手を離した。
「フォル、お変わりないようで安心いたしました」
兜はやわらかな笑顔を透させてはくれない。
「ふん、クラウス殿はずいぶん様変わりしたようだな」
サディアスはまたそんなことを言う。
「きみの悪い口も変わりなくて安心した。しかし、こうして長々と話しているわけにはいかない。フォル、あなたにこれを」
そして、クラウスさんはわたしの手をすくって紙を握らせた。
「ルル様からの伝言です」
「ルルさん?」
ルルさん(レーコさん)がわたしに何を伝えたいのか。紙を広げてみると真ん中辺りに日本語で書かれた文字があった。
『ミャーコ、馬車の御者と検問はこちら側の者だから安心してね。お城で待ってます。ルル』
根回しの良さはすごい。占い師という肩書きも嘘じゃないのかもと思う。荷馬車には安心、安全で乗ることができた。バレないように隠れる必要もないので、不自由なことはない。
わたしは箱を背もたれにして座りながら、クラウスさんのほうに目を向けた。
「クラウスさんは、どうするんですか?」
できれば、このまま一緒に来てくれたらいいのに。そうすれば心強い。でも、クラウスさんは「俺にはまだやり残した仕事がありますので」と告げた。
「そうですか」
答えが少し不機嫌な声になってしまった。
子供っぽいのかもしれないけど、落ちこんだ自分の気持ちを隠せない。困らせるだけだとわかっているのに、わたしは成長しない。そんな自分が嫌でうつむいたら、小さな笑い声がした。クラウスさんが笑っている。わたしはその表情が見たくて、顔を上げた。
「フォル……あなたは本当にお変わりないですね」
そうだろうか? わたしの周りはとてつもない速さで変わっている気がするけど。
「これでも変わりましたよ。わたし、実はレーコさんの娘だったみたいで、そういうとこが変わったんです」
「いいえ、お変わりありません。ご自分の生い立ちを知ってもなお、素直でいらっしゃる」
驚いたようすがない。もしかして、彼も知っていた?
「クラウスさんはわたしのこと知ってたの?」
「ええ」
知っていたんだ。
「どれくらい前から知っていたの?」
「ずいぶん前からそんな気はしていました。幼いあなたはお城から出ることはなく、あなたのお姿を見たものはほとんどいません。ですが、俺はあなたに会っている。あなたの真っ直ぐな目を知っているのです」
「どういう意味?」
深く聞きたかった。まるでクラウスさんが幼いわたしを知っているみたいだったから。先を知りたいのに、今は時間が足りなすぎる。まさかのタイムリミットだった。
「さあ、時間はありません! どうか、お元気で!」
馬車が動き出す。クラウスさんが遠ざかる。わたしは手を伸ばそうとしたけど、クラウスさんを掴むことはできない。
どんどん距離が離れていく。そのとき手首のブレスレットが目に入った。わたしは咄嗟にそれを掴んで、クラウスさんに向けて見えるように掲げる。兜の目だしからは見えているはずだ。
きっとまた会える。次会えたら、クラウスさんにたっぷり質問攻めにするんだ。だから、覚悟しておいて。
「無事だったんですね」
彼はクラウスさんだった。クラウスさんが生きていてくれた。涙がこぼれそうになるのをこらえながら鼻をすする。
「ええ、どうにか」
「こちらの方はお知り合いなのですか?」
ジュリアさんは短剣に手をかけていたけど、わたしがうなずいたら警戒心を解いたらしい。短剣にかかった手を離した。
「フォル、お変わりないようで安心いたしました」
兜はやわらかな笑顔を透させてはくれない。
「ふん、クラウス殿はずいぶん様変わりしたようだな」
サディアスはまたそんなことを言う。
「きみの悪い口も変わりなくて安心した。しかし、こうして長々と話しているわけにはいかない。フォル、あなたにこれを」
そして、クラウスさんはわたしの手をすくって紙を握らせた。
「ルル様からの伝言です」
「ルルさん?」
ルルさん(レーコさん)がわたしに何を伝えたいのか。紙を広げてみると真ん中辺りに日本語で書かれた文字があった。
『ミャーコ、馬車の御者と検問はこちら側の者だから安心してね。お城で待ってます。ルル』
根回しの良さはすごい。占い師という肩書きも嘘じゃないのかもと思う。荷馬車には安心、安全で乗ることができた。バレないように隠れる必要もないので、不自由なことはない。
わたしは箱を背もたれにして座りながら、クラウスさんのほうに目を向けた。
「クラウスさんは、どうするんですか?」
できれば、このまま一緒に来てくれたらいいのに。そうすれば心強い。でも、クラウスさんは「俺にはまだやり残した仕事がありますので」と告げた。
「そうですか」
答えが少し不機嫌な声になってしまった。
子供っぽいのかもしれないけど、落ちこんだ自分の気持ちを隠せない。困らせるだけだとわかっているのに、わたしは成長しない。そんな自分が嫌でうつむいたら、小さな笑い声がした。クラウスさんが笑っている。わたしはその表情が見たくて、顔を上げた。
「フォル……あなたは本当にお変わりないですね」
そうだろうか? わたしの周りはとてつもない速さで変わっている気がするけど。
「これでも変わりましたよ。わたし、実はレーコさんの娘だったみたいで、そういうとこが変わったんです」
「いいえ、お変わりありません。ご自分の生い立ちを知ってもなお、素直でいらっしゃる」
驚いたようすがない。もしかして、彼も知っていた?
「クラウスさんはわたしのこと知ってたの?」
「ええ」
知っていたんだ。
「どれくらい前から知っていたの?」
「ずいぶん前からそんな気はしていました。幼いあなたはお城から出ることはなく、あなたのお姿を見たものはほとんどいません。ですが、俺はあなたに会っている。あなたの真っ直ぐな目を知っているのです」
「どういう意味?」
深く聞きたかった。まるでクラウスさんが幼いわたしを知っているみたいだったから。先を知りたいのに、今は時間が足りなすぎる。まさかのタイムリミットだった。
「さあ、時間はありません! どうか、お元気で!」
馬車が動き出す。クラウスさんが遠ざかる。わたしは手を伸ばそうとしたけど、クラウスさんを掴むことはできない。
どんどん距離が離れていく。そのとき手首のブレスレットが目に入った。わたしは咄嗟にそれを掴んで、クラウスさんに向けて見えるように掲げる。兜の目だしからは見えているはずだ。
きっとまた会える。次会えたら、クラウスさんにたっぷり質問攻めにするんだ。だから、覚悟しておいて。