中編
時刻は午後7時50分。日吉は一人暮らしのワンルームのベッドの上で正座をしてスマホを見つめていた。物音ひとつしない部屋でそわそわと落ち着きなく時折スマホのホーム画面で時刻を確認しては風呂上がりに急いで乾かしたために生乾きのままの髪を撫で付ける。それをしばらく繰り返すこと10分。
やがて8時になり、スマホから軽快な着信音が流れる。それをすぐには取らずに少し置いて心臓を落ち着かせてから通話ボタンを押す。
「よお、若」
「跡部さん、」
電話は恋人である跡部からだ。跡部が大学進学と共にイギリスへ渡英して3年。多忙な跡部は毎日のようには電話をする事が出来ず、また日吉も部活や受験があったために毎週土曜日の夜だけに電話をするようにしていた。それは日吉自身が大学に進学してからも変わらず続いていた。
マメにLINEを送ってくる跡部と違い、最小限しかLINEをせず、そもそもLINEが苦手な日吉にとってはこの時間は大切なものだった。
跡部もそれを分かっているからこそ、この習慣を続けていた。
タイムリミットは1時間。イギリスではちょうど昼頃だろう。
忙しいはずなのに、跡部は必ず時間ぴったりに電話をしてくれる。1週間のうちのたった1時間の通話だがその時間を日吉は心待ちにしていた。そんなこと恥ずかしすぎるので決して跡部に言ったことは無いが。
電話の内容は取り留めのないものだ。1週間の間に起こったことを互いにぽつぽつと報告し合う。そうして電話の終わりには跡部が日吉に一言愛していると言い電話を切る。それが毎回の決まりだった。
何度か返事を請われた事があるが、素直になれない日吉にとって愛しているなんて言葉はあまりにもハードルが高くいつまで経っても言えずにいた。そしてそれは日吉にとって何となく跡部に対する負い目になっていたのだった。
今日もいつものように取り留めのない会話をする。と、隣の部屋から微かに扉の開く音とぱたぱたという足音、続いてテレビの音が聞こえてきた。
そういえば、とふと思い出す。最近ずっと空き部屋だった隣に人が越してきたのだった。先日台所用洗剤の詰め合わせを持って挨拶に来た男を思い出す。日吉が住んでいるアパートはそこそこ古めかしく、音が響きやすい。特に今の日吉のようにほとんど無音状態だと物音で隣人の動向が分かってしまう程には壁が薄いようだった。
隣人はテレビを見ているようだし、たかが電話の声など気にしてはいないだろうがもしかしたら聞こえているかもしれないと思うと何となく心地が悪く、少し逡巡したが外で電話をすることにした。部屋着にコートを羽織り跡部に寒がりな自分が寒い中外に出たと知られたら早めに通話を切られるかもしれないと静かに玄関の扉を開ける。案の定キンと冷えた夜の空気に身震いする。ああ見えて心配性な所があるんだよな、と思いながら鉄骨の階段をカン、カン、と音が鳴らないように丁寧に降りてゆく。
その間も電話口では跡部の近況報告が続いていた。どうやら跡部の方は順調に過ごしているらしい。
「そういえば、今日はイギリスは寒いんですか?」
それにしても寒い。寒さに首を縮こませ近所の公園に向かいながらふとイギリスはどうなのだろうと尋ねてみる。
「……さあ、どうだろうな。今俺はイギリスにいねぇからな」
どういう意味ですかそれは。そう言おうとした言葉は白い吐息となって夜の空気に溶けてしまった。跡部が目の前に立っていたからだ。
「え、なんで……」
「お前に会いに来たんだよ。サプライズのつもりでな。」
電話口の声と目の前の跡部の声が重なる。
久しぶりに見た跡部の姿は、記憶の中のそれよりも少し大人びて見えた。確か前回会ったのは跡部の夏季休暇の時だから半年ぶりだろうか。自信に満ち溢れた瞳や日吉を魅了してやまない泣きぼくろは記憶のままだけれど。
動揺する日吉にフッと笑みを零すと跡部に抱きしめられる。コート越しにだが確かにじんわりと感じる跡部の体温にどうしてここにいるのだろうという疑問は霧散してしまった。ここが外であるということも忘れておずおずと背に手を回し、跡部の胸に顔を埋める。
慣れ親しんだ薔薇の匂いに鼻の奥がツンとした。
ーー
跡部と共に家に帰る。暖房は切っていたがまだ家を出てそう時間が経っていなかった為か暖かい部屋で急性に服を脱がされ一糸まとわぬ姿にされた。自分だけ産まれたままの姿なのは癪で、日吉も跡部の服を脱がす。お互いに裸になるとベッドの中でどちらからともなく抱きしめ合い、互いの体温を分け合った。久しぶりに感じる跡部の体温に心臓が高鳴る。
「随分と冷えてんじゃねーの、いつから外にいたんだ?」
「そう長くないですよ」
咎めるように言う跡部にスリスリと指先を熱を与えるように撫でられ優しく手を握られる。自分より高い体温が心地いい。
「んっ……」
反対の手で胸の尖りにそっと触れられる。熱い指の感触に体温が上がり、身体がピクリと反応する。寒さからか既に柔らかくもツンと勃っているそれを乳輪を円を描くようにスリスリと撫でさすられ触れるか触れないかの微妙なタッチで尖りに触れられ、遂にはキュッキュッと優しく摘まれる。
「あ…」
徐々に赤く腫れていくそれの感触を楽しむように弄り倒される。キュッと捻られ、弾かれれば与えられる刺激に息が上がっていく。
「あンッ…!」
反対の乳首に顔を寄せ跡部の唾液を含んだ肉厚の舌で蹂躙されてしまえば、思わず艶やかな声が漏れた。両の乳首に与えられる刺激は久々すぎて、日吉の脳ミソを溶かすには十分過ぎるほどであった。与えられる快楽に徐々に蕩けていく自分の顔を乳首を舐めしゃぶり続ける跡部にじっと見つめられている気配を感じ羞恥心から思わずぎゅっと目を瞑る。
「若、目を開けろ」
「あっ……!」
すると、日吉が目を瞑ったのが不満だったのか乳首から口を離し日吉の耳朶を甘噛みしながら低く潜めた声で咎められる。あまつさえ性感帯である耳の穴に舌を入れられちゅぱちゅぱと舐められるとぞわぞわと快感が競り上がりあまりの気持ちよさに生理的な涙が出て視界が滲んだ。
「あっ……あっあとべっ、さ……っ!耳は……ぁっ……」
「好きだよな、耳。相変わらず感度が高いみてぇだな。嬉しいぜ」
そのまま感じやすい耳と乳首を執拗なまでに虐められ続けがくがくと腰が震える。目尻から溜まりきれなかった涙がこめかみへ落ちて行く。それをペロリと舐めると跡部は耳から顔を離し日吉の首元へと頭を埋める。
「んっ…」
そのままペロリと首筋を舐め強く吸い赤い跡を残していく。
「ふぅ…ンっ!あとべ、さ…ひぁッ」
散々嬲られ敏感になっている耳の程近い場所を攻められる快楽と跡部に所有の印をつけられているという状況に興奮が高まり息が荒くなり身体がびくびくと跳ねる。そんな日吉に跡部はくすりと笑うと首筋から鎖骨へと印を付けていく。
やがて跡部は顔を上げると日吉の上半身に散った所有の印と日吉の蕩けた顔、そして一度も触れられていないにも関わらず先っぽから蜜を垂らししとどに濡れている下半身を見て満足そうに鼻を鳴らす。
「随分とトロトロじゃねーの。まだ下も触ってねえのに」
「…はァッ……う、るさいですよ。あんたがねちっこいからいけないんだ」
息も絶え絶えといった様子で日吉が悪態をつく。快感で潤んだ瞳を跡部から逸らし拗ねたように唇を尖らせてそっぽを向く。そのやけに子供っぽい仕草と色気の滴る瞳のギャップに跡部が思わず笑みを零せば、日吉にキッと可愛らしく睨まれた。日吉のいかにも生意気で強気な目は跡部の好物だ。分かってやっているならタチが悪いな。そう思いながら尖った日吉の薄い唇に吸い付く。戯れるように軽やかなリップ音を響かせながら触れるだけのキスを繰り返せば焦らすなと言わんばかりに舌を出し跡部の唇を舐めた。それに答えるように日吉の口内に舌をねじ込みお互いの舌を絡ませ合う。歯列をなぞり上顎のザラザラとした場所を舌先で擽るように撫でると日吉が甘い喘ぎ声を上げた。
「んんっ…ふっ…ぁ…!」
そのまましつこく口内を蹂躙しながら日吉の下半身に手を伸ばす。散々放置されていたそこは既に溢れた蜜でぬるついており、手のひらで包むと薄く開いたままだった日吉の瞳があからさまな期待に煌めいた。
「あ…」
「…っふ、本当に可愛いな、お前は」
キスしながら竿を上下に擦り上げる。薄皮が上下に擦れる感覚に日吉の背筋が粟立ち甘ったるい嬌声が響いた。
「んぁ…はっ…あぁ…!も、いきそ…ですっ」
「おっと、まだイくんじゃねーぞ」
「あ、なんで、いきた、ぁ」
半年ぶりの跡部からの手淫に早くも限界が来たことを訴えると手淫を止め、手を離された。あと少しで達せそうな所だったのに、と熱い身体を捩らせながら日吉が涙目で訴える。
「今イッちまったら後が辛いだろうが。イきてえだろうが我慢、な」
そう言い日吉のこめかみにキスをしながらベッドサイドの棚を開けごそごそと漁る。しかし目当てのものが見つからず、眉を顰める。
「日吉、ローションはどこにやった?」
「あ、あれ使用期限が切れっちゃってて…捨ててしまいました」
少し気まずそうに視線をさ迷わせながら日吉が答える。何せ最後に2人がセックスをしたのは半年前である。日吉がほとんど中身が残ったままに使用期限の切れた潤滑剤を若干の勿体無さを感じながら捨てたのは2ヶ月ほど前の事だったろうか。あまり性的なことには積極的でなく、自慰も必要最低限しかしない日吉にとって潤滑剤は跡部との性交にのみ使うもの、という認識が強く、羞恥心も手伝いとてもじゃないが自分で使うなんてことは出来なかったのだった。
日吉の言葉に跡部は一瞬何かを考えるように視線を逸らしたが、すぐに日吉に視線を戻しニヤリと笑った。この笑みは、良くない笑みだ。そう日吉が直感的に思い身体を起こそうとするも一足遅く、跡部に両膝を持ち上げられ秘部を跡部の眼前に無防備にも晒すことになってしまった。
「ちょっ…と!あとべさん!」
「アーン?仕方がねぇだろ。慣らさないといけねぇからな」
至極楽しそうにそう言って跡部は日吉の秘部に指を這わせた。そこは日吉のカウパー液でヌルついており、跡部の長い指をゆっくりと飲み込んだ。
半年ぶりに感じるその場所への刺激は久しぶりすぎて頭がクラクラする。跡部の節くれだった日吉を魅了してやまないテニスをする綺麗な長い指が自分の秘部に入り込んでいる。グチグチとイヤラシイ音を響かせながら秘部を掻き回され頭がどうにかなりそうだった。
「ん…はぁ…」
「良さそうだな、指増やすぞ」
「っは…!」
「…キツいな、自分で弄ったりしてねぇのか?」
「あ、も、そんなの聞かないでくださ…あ、ひっうっ…!し、してな、してないぃ…!」
羞恥心から憎まれ口を叩こうとすれば跡部に前立腺をごり、と潰され答えざるを得なくなる。腹の奥に感じる異物感と前立腺をゴリゴリと押し潰される快感がごちゃ混ぜになって意味を成さない声しか出なくなる。
「…っ!?あ、跡部さん、何してるんですかっ」
「だから慣らしてるって言ってるだろう?」
「何も舐めることないでしょう!汚いから、あ、ヒ、やめっ」
さらには秘部に舌を這わせ大げさにじゅぷじゅぷと音を立てながら舐められる。排泄孔を舐められる感覚に強い羞恥心を覚えるが跡部ががっちりと日吉の足を固定しているためうまく動くことが出来ずされるがままになる他なかった。
舌で孔のふちの皮膚をなぞるように舐められ、時折ちゅぶちゅぶと舌を出し入れする。
指でナカを掻き混ぜ腹側のシコリをトントンとノックするように刺激されれば堪らず甲高い声が漏れペニスの先っぽからぴゅっぴゅっと液が吹き出した。
「…随分と良い反応するじゃねーの。若、見てみろよ。お前のここもう3本も俺様の指が入ってるぞ。本当に自分で弄ってねえのか?」
「あ、うそ、すご…あっ、ん!ひぅ…!あ、こんな、久しぶり、なのに…おれ…!はぁッン」
跡部に言われ顔を上げると日吉のアナルはいつの間にか3本もの指を咥え込み、もっともっとと言わんばかりにぎゅうぎゅうと収縮し、跡部の指を締め付けていた。跡部が指を出し入れすればふちの皮が指の動きに合わせて伸びたり窄まったりしている。随分と使っていないはずのそこが跡部の愛撫に従順に反応して、今すぐに跡部のモノが欲しいとばかりにキュンキュンと跡部の指を締め付けていた。
その奥には楽しそうに日吉の秘部を見つめる跡部の顔があって。なんて意地悪なんだと日吉が思っていると跡部が日吉に目を向ける。目があった瞬間、跡部の瞳の奥に見え隠れする獰猛な欲を見てしまって。無意識に日吉の口から言葉が溢れ出した。
「あ、あとべさ、おれ、もう欲しい…っ!」
「っ!」
「あ、ちが、…あぁぁっ!」
つい跡部を求める言葉が日吉の口から出てしまい、しまったとすぐに口を噤むがもう遅く、一瞬にして跡部の眼が完全に獰猛な捕食者のそれに変わった。両脚を高く持ち上げられ腰がほとんど浮いた姿勢のまま真上から突き刺すように跡部のモノを入れられると押し出されるようにびゅくびゅくと欲を吐き出してしまった。それはそのまま日吉の顔から顎にかけてかかり、その青臭い匂いと自分が出したものだという事実に思わず顔を顰め、跡部の腕を掴み止まるようにと暗に言うも跡部は止まってくれず、ズンズンと激しく腰を動かす。思いっきり腹側のシコリを押し潰され日吉の口から悲鳴に近い声が出た。
「アッぐぅ、おれイッて、イッてるっ!あとえさ、待って、ひああんっ!」
「はぁ……!くそ、待てるかよ……若……!」
絶頂の余韻に浸る猶予も許されず腰を動かされる。思わず日吉が逃げ出そうともがくもイッたばかりの身体ではもはや何の抵抗にもならず、悲鳴のような喘ぎ声を出すしかなかった。
「んっはぁ、跡部さ、くるし…!っひぁぁ!」
「っは、悪い…」
思いっきり上から押し潰されるように突かれているせいで、流石に苦しい。その事を跡部に伝えるとゆっくりと持ち上げていた日吉の腰を下ろし正常位になり、また律動を再開する。
角度が変わったお陰で少し余裕が出来た日吉が跡部の顔を見る。汗に濡れた肌、眉を顰めて快楽に耐える顔、濡れた唇、そしてその唇から漏れる潜められた荒い吐息。すべてが色っぽくて、ドキドキする。両腕を跡部の肩に回し抱きつけば、強い力で抱きすくめられた。
「っん、あぁ、跡部さん、あとべさっ」
「はぁっ、若…愛している…」
「…!」
跡部からの愛の言葉。いつもは電話越しのその言葉を直接言われ、今目の前に普段ははるか遠い異国の地にいる恋人がいる事を実感し喜びで胸が詰まったように苦しくなる。自分も伝えなければ。イギリスから来てくれたのだから。好きです、俺も愛してます、ずっと一緒にいて、好き、好き。顔を合わせて愛していると伝える方が恥ずかしいはずなのに、気がつけば日吉の頭の中は跡部への愛の言葉でいっぱいになっていて、言葉が溢れ出した。
「あ、っべさ、おれもっ、俺も愛してます…!好き、すきぃっ…」
「っ!若…!」
「っひっあ、あぁ、すご、跡部さん、あとべ、さぁっ!」
日吉の言葉にどくりと跡部のペニスが質量を増す。跡部が日吉の言葉でそうなったという事実が嬉しくて、気持ちよくて。
跡部の律動が早まり、限界が近い事を教えてくれる。強く突かれて奥の最も感じる場所に亀頭がめり込めば視界が真っ白に染まり日吉は堪えきれずイッてしまった。少し遅れて胎内に感じる熱。その熱さに日吉の口から恍惚の声が漏れる。
「っ、あ、っふ…ナカ…っ、きもち…」
余韻に浸っていると跡部の腰がゆらりと不埒な動きをしているのを感じた。
「ちょっ、跡部さん…?何おっきくして…んっくあぁ!」
「お前が誘ったんだぜ? 若。覚悟しておけよ」
「あっ、も、むり!無理ですっ」
気がつけば質量を取り戻していた跡部のもので再度責められる。そのまま外が白むまで跡部は日吉を抱き潰したのだった。
――
ほとんど昼と言っても良いであろう時間に日吉は目が覚めた。ベッドサイドに置いている電子時計は午後1時23分と表示されていて、イギリスは5時半位か、跡部さんもう起きてんのかな、とぼんやりと考えていると背中に熱を感じた。そこで昨日のことを思い出し飛び起きようとするもあまりの腰の痛みに声も出せず突っ伏す羽目になった。
「〜〜っ!」
「ん…若、おはよう」
日吉の気配で跡部も目が覚めたらしくおはようとこめかみにキスをされるが正直それどころでは無い。跡部を見ると、顔色はすこぶる良く肌はツヤツヤと輝きとてつもなく幸せそうな顔をしていた。普通ならときめくところなのだろうが、余りの腰の痛さに殺意が湧く。跡部も日吉の顔を見て日吉の殺意に気がついたのか、上半身を起こしいつのまにかベッドサイドに置かれていたストローが刺してあるペットボトルの水を日吉に差し出した。
「…大丈夫か?飲めよ」
「全然大丈夫じゃないです…。水ありがとうございます」
口元にストローを近づけられ行儀が悪いとは思いながらも横になったまま水を飲む。ぬるいそれが身体に染み渡るのを感じほうっと息を吐いた。
「起きれるか?」
「ん…」
跡部の手を借りながらそろそろと上半身を起こす。全身の痛みを感じるものの起きられないほどではなく、時折痛みに顔を顰めながらもなんとか座ることができた。
「悪いな、久しぶりの若に我慢できなかった」
「別に…いいです」
日吉がぶすくれた顔をしていれば跡部に後ろから優しく抱きしめられる。日吉がよく自分の身体を見てみれば全身に赤く散ったキスマークや腰の痛みはあるものの後ろの穴にも不快感は無く、どうやら跡部が綺麗にしてくれたらしい。それでは怒るに怒れないじゃないか。せめてでもと自分を抱きしめる跡部の胸に後頭部をぐりぐりと押し付けてみたが優しくすくように頭を撫でられればすっかり機嫌も治ってしまった。
「そういえば、」
「…何ですか」
「どうして外に出てたんだ?寒かっただろ」
「それは…通話の声が隣に聞こえると思って…」
「そうか。じゃあ意味無かったな」
「?」
「お前のデケェ喘ぎ声、筒抜けだったろうな」
「っ!ばか!」
「っ痛え!」
思わずわき腹に思いっきり拳を入れてしまったが跡部が変なことを言うから悪いのだ。そう思いながら振り向くと思いのほか青ざめた顔でわき腹を抑える跡部がいて、日吉に少し罪悪感が生まれる。
「…昨日はあんなに素直だったのにな。また言ってくれよ、愛してるってよ」
わき腹を抑える手はそのままにニヤニヤしながら尚も跡部が言う。
「なっ!う、うるさいですよ!あれはついその場の雰囲気で言ってしまったというか、そもそも、」
「俺はかなり嬉しかったがな」
日吉の言葉を遮るように真面目な顔になった跡部が言う。
「お前は普段気持ちを言葉にはしてくれないいだろう?だから、嬉しかった。暴走して抱き潰したことは悪かったな」
「ぅ、いえ…遠距離ですから、たまには言わないとと思、って…」
跡部の顔を直視出来ずに俯きながら言葉を紡ぐ。語尾が段々と小さくなっていくが跡部の耳は日吉の言葉をしっかりと拾っていて。
「そうか。そう聞くと遠距離も悪くねぇな。たまに会うと若が素直になるみてぇだしな」
「もう、またそんな…。ていうかあの…日本にはいつまで?」
「月曜の昼にはロンドン行きの飛行機に乗る。とりあえず今日の夕食はレストランを予約してあるから、それまでゆっくりしようぜ。軽食くらいなら作ってやる」
「料理出来るんですか?」
「一応向こうで一人暮らししているからな。簡単なものくらいなら作れるさ。もう少しゆっくりしてろよ」
「…ではお言葉に甘えて」
跡部が日吉の頭をひとなでして立ち上がる。脇腹の痛みも引いたらしい。良い週末になるな、そう思いながら日吉は毛布に包まった。
やがて8時になり、スマホから軽快な着信音が流れる。それをすぐには取らずに少し置いて心臓を落ち着かせてから通話ボタンを押す。
「よお、若」
「跡部さん、」
電話は恋人である跡部からだ。跡部が大学進学と共にイギリスへ渡英して3年。多忙な跡部は毎日のようには電話をする事が出来ず、また日吉も部活や受験があったために毎週土曜日の夜だけに電話をするようにしていた。それは日吉自身が大学に進学してからも変わらず続いていた。
マメにLINEを送ってくる跡部と違い、最小限しかLINEをせず、そもそもLINEが苦手な日吉にとってはこの時間は大切なものだった。
跡部もそれを分かっているからこそ、この習慣を続けていた。
タイムリミットは1時間。イギリスではちょうど昼頃だろう。
忙しいはずなのに、跡部は必ず時間ぴったりに電話をしてくれる。1週間のうちのたった1時間の通話だがその時間を日吉は心待ちにしていた。そんなこと恥ずかしすぎるので決して跡部に言ったことは無いが。
電話の内容は取り留めのないものだ。1週間の間に起こったことを互いにぽつぽつと報告し合う。そうして電話の終わりには跡部が日吉に一言愛していると言い電話を切る。それが毎回の決まりだった。
何度か返事を請われた事があるが、素直になれない日吉にとって愛しているなんて言葉はあまりにもハードルが高くいつまで経っても言えずにいた。そしてそれは日吉にとって何となく跡部に対する負い目になっていたのだった。
今日もいつものように取り留めのない会話をする。と、隣の部屋から微かに扉の開く音とぱたぱたという足音、続いてテレビの音が聞こえてきた。
そういえば、とふと思い出す。最近ずっと空き部屋だった隣に人が越してきたのだった。先日台所用洗剤の詰め合わせを持って挨拶に来た男を思い出す。日吉が住んでいるアパートはそこそこ古めかしく、音が響きやすい。特に今の日吉のようにほとんど無音状態だと物音で隣人の動向が分かってしまう程には壁が薄いようだった。
隣人はテレビを見ているようだし、たかが電話の声など気にしてはいないだろうがもしかしたら聞こえているかもしれないと思うと何となく心地が悪く、少し逡巡したが外で電話をすることにした。部屋着にコートを羽織り跡部に寒がりな自分が寒い中外に出たと知られたら早めに通話を切られるかもしれないと静かに玄関の扉を開ける。案の定キンと冷えた夜の空気に身震いする。ああ見えて心配性な所があるんだよな、と思いながら鉄骨の階段をカン、カン、と音が鳴らないように丁寧に降りてゆく。
その間も電話口では跡部の近況報告が続いていた。どうやら跡部の方は順調に過ごしているらしい。
「そういえば、今日はイギリスは寒いんですか?」
それにしても寒い。寒さに首を縮こませ近所の公園に向かいながらふとイギリスはどうなのだろうと尋ねてみる。
「……さあ、どうだろうな。今俺はイギリスにいねぇからな」
どういう意味ですかそれは。そう言おうとした言葉は白い吐息となって夜の空気に溶けてしまった。跡部が目の前に立っていたからだ。
「え、なんで……」
「お前に会いに来たんだよ。サプライズのつもりでな。」
電話口の声と目の前の跡部の声が重なる。
久しぶりに見た跡部の姿は、記憶の中のそれよりも少し大人びて見えた。確か前回会ったのは跡部の夏季休暇の時だから半年ぶりだろうか。自信に満ち溢れた瞳や日吉を魅了してやまない泣きぼくろは記憶のままだけれど。
動揺する日吉にフッと笑みを零すと跡部に抱きしめられる。コート越しにだが確かにじんわりと感じる跡部の体温にどうしてここにいるのだろうという疑問は霧散してしまった。ここが外であるということも忘れておずおずと背に手を回し、跡部の胸に顔を埋める。
慣れ親しんだ薔薇の匂いに鼻の奥がツンとした。
ーー
跡部と共に家に帰る。暖房は切っていたがまだ家を出てそう時間が経っていなかった為か暖かい部屋で急性に服を脱がされ一糸まとわぬ姿にされた。自分だけ産まれたままの姿なのは癪で、日吉も跡部の服を脱がす。お互いに裸になるとベッドの中でどちらからともなく抱きしめ合い、互いの体温を分け合った。久しぶりに感じる跡部の体温に心臓が高鳴る。
「随分と冷えてんじゃねーの、いつから外にいたんだ?」
「そう長くないですよ」
咎めるように言う跡部にスリスリと指先を熱を与えるように撫でられ優しく手を握られる。自分より高い体温が心地いい。
「んっ……」
反対の手で胸の尖りにそっと触れられる。熱い指の感触に体温が上がり、身体がピクリと反応する。寒さからか既に柔らかくもツンと勃っているそれを乳輪を円を描くようにスリスリと撫でさすられ触れるか触れないかの微妙なタッチで尖りに触れられ、遂にはキュッキュッと優しく摘まれる。
「あ…」
徐々に赤く腫れていくそれの感触を楽しむように弄り倒される。キュッと捻られ、弾かれれば与えられる刺激に息が上がっていく。
「あンッ…!」
反対の乳首に顔を寄せ跡部の唾液を含んだ肉厚の舌で蹂躙されてしまえば、思わず艶やかな声が漏れた。両の乳首に与えられる刺激は久々すぎて、日吉の脳ミソを溶かすには十分過ぎるほどであった。与えられる快楽に徐々に蕩けていく自分の顔を乳首を舐めしゃぶり続ける跡部にじっと見つめられている気配を感じ羞恥心から思わずぎゅっと目を瞑る。
「若、目を開けろ」
「あっ……!」
すると、日吉が目を瞑ったのが不満だったのか乳首から口を離し日吉の耳朶を甘噛みしながら低く潜めた声で咎められる。あまつさえ性感帯である耳の穴に舌を入れられちゅぱちゅぱと舐められるとぞわぞわと快感が競り上がりあまりの気持ちよさに生理的な涙が出て視界が滲んだ。
「あっ……あっあとべっ、さ……っ!耳は……ぁっ……」
「好きだよな、耳。相変わらず感度が高いみてぇだな。嬉しいぜ」
そのまま感じやすい耳と乳首を執拗なまでに虐められ続けがくがくと腰が震える。目尻から溜まりきれなかった涙がこめかみへ落ちて行く。それをペロリと舐めると跡部は耳から顔を離し日吉の首元へと頭を埋める。
「んっ…」
そのままペロリと首筋を舐め強く吸い赤い跡を残していく。
「ふぅ…ンっ!あとべ、さ…ひぁッ」
散々嬲られ敏感になっている耳の程近い場所を攻められる快楽と跡部に所有の印をつけられているという状況に興奮が高まり息が荒くなり身体がびくびくと跳ねる。そんな日吉に跡部はくすりと笑うと首筋から鎖骨へと印を付けていく。
やがて跡部は顔を上げると日吉の上半身に散った所有の印と日吉の蕩けた顔、そして一度も触れられていないにも関わらず先っぽから蜜を垂らししとどに濡れている下半身を見て満足そうに鼻を鳴らす。
「随分とトロトロじゃねーの。まだ下も触ってねえのに」
「…はァッ……う、るさいですよ。あんたがねちっこいからいけないんだ」
息も絶え絶えといった様子で日吉が悪態をつく。快感で潤んだ瞳を跡部から逸らし拗ねたように唇を尖らせてそっぽを向く。そのやけに子供っぽい仕草と色気の滴る瞳のギャップに跡部が思わず笑みを零せば、日吉にキッと可愛らしく睨まれた。日吉のいかにも生意気で強気な目は跡部の好物だ。分かってやっているならタチが悪いな。そう思いながら尖った日吉の薄い唇に吸い付く。戯れるように軽やかなリップ音を響かせながら触れるだけのキスを繰り返せば焦らすなと言わんばかりに舌を出し跡部の唇を舐めた。それに答えるように日吉の口内に舌をねじ込みお互いの舌を絡ませ合う。歯列をなぞり上顎のザラザラとした場所を舌先で擽るように撫でると日吉が甘い喘ぎ声を上げた。
「んんっ…ふっ…ぁ…!」
そのまましつこく口内を蹂躙しながら日吉の下半身に手を伸ばす。散々放置されていたそこは既に溢れた蜜でぬるついており、手のひらで包むと薄く開いたままだった日吉の瞳があからさまな期待に煌めいた。
「あ…」
「…っふ、本当に可愛いな、お前は」
キスしながら竿を上下に擦り上げる。薄皮が上下に擦れる感覚に日吉の背筋が粟立ち甘ったるい嬌声が響いた。
「んぁ…はっ…あぁ…!も、いきそ…ですっ」
「おっと、まだイくんじゃねーぞ」
「あ、なんで、いきた、ぁ」
半年ぶりの跡部からの手淫に早くも限界が来たことを訴えると手淫を止め、手を離された。あと少しで達せそうな所だったのに、と熱い身体を捩らせながら日吉が涙目で訴える。
「今イッちまったら後が辛いだろうが。イきてえだろうが我慢、な」
そう言い日吉のこめかみにキスをしながらベッドサイドの棚を開けごそごそと漁る。しかし目当てのものが見つからず、眉を顰める。
「日吉、ローションはどこにやった?」
「あ、あれ使用期限が切れっちゃってて…捨ててしまいました」
少し気まずそうに視線をさ迷わせながら日吉が答える。何せ最後に2人がセックスをしたのは半年前である。日吉がほとんど中身が残ったままに使用期限の切れた潤滑剤を若干の勿体無さを感じながら捨てたのは2ヶ月ほど前の事だったろうか。あまり性的なことには積極的でなく、自慰も必要最低限しかしない日吉にとって潤滑剤は跡部との性交にのみ使うもの、という認識が強く、羞恥心も手伝いとてもじゃないが自分で使うなんてことは出来なかったのだった。
日吉の言葉に跡部は一瞬何かを考えるように視線を逸らしたが、すぐに日吉に視線を戻しニヤリと笑った。この笑みは、良くない笑みだ。そう日吉が直感的に思い身体を起こそうとするも一足遅く、跡部に両膝を持ち上げられ秘部を跡部の眼前に無防備にも晒すことになってしまった。
「ちょっ…と!あとべさん!」
「アーン?仕方がねぇだろ。慣らさないといけねぇからな」
至極楽しそうにそう言って跡部は日吉の秘部に指を這わせた。そこは日吉のカウパー液でヌルついており、跡部の長い指をゆっくりと飲み込んだ。
半年ぶりに感じるその場所への刺激は久しぶりすぎて頭がクラクラする。跡部の節くれだった日吉を魅了してやまないテニスをする綺麗な長い指が自分の秘部に入り込んでいる。グチグチとイヤラシイ音を響かせながら秘部を掻き回され頭がどうにかなりそうだった。
「ん…はぁ…」
「良さそうだな、指増やすぞ」
「っは…!」
「…キツいな、自分で弄ったりしてねぇのか?」
「あ、も、そんなの聞かないでくださ…あ、ひっうっ…!し、してな、してないぃ…!」
羞恥心から憎まれ口を叩こうとすれば跡部に前立腺をごり、と潰され答えざるを得なくなる。腹の奥に感じる異物感と前立腺をゴリゴリと押し潰される快感がごちゃ混ぜになって意味を成さない声しか出なくなる。
「…っ!?あ、跡部さん、何してるんですかっ」
「だから慣らしてるって言ってるだろう?」
「何も舐めることないでしょう!汚いから、あ、ヒ、やめっ」
さらには秘部に舌を這わせ大げさにじゅぷじゅぷと音を立てながら舐められる。排泄孔を舐められる感覚に強い羞恥心を覚えるが跡部ががっちりと日吉の足を固定しているためうまく動くことが出来ずされるがままになる他なかった。
舌で孔のふちの皮膚をなぞるように舐められ、時折ちゅぶちゅぶと舌を出し入れする。
指でナカを掻き混ぜ腹側のシコリをトントンとノックするように刺激されれば堪らず甲高い声が漏れペニスの先っぽからぴゅっぴゅっと液が吹き出した。
「…随分と良い反応するじゃねーの。若、見てみろよ。お前のここもう3本も俺様の指が入ってるぞ。本当に自分で弄ってねえのか?」
「あ、うそ、すご…あっ、ん!ひぅ…!あ、こんな、久しぶり、なのに…おれ…!はぁッン」
跡部に言われ顔を上げると日吉のアナルはいつの間にか3本もの指を咥え込み、もっともっとと言わんばかりにぎゅうぎゅうと収縮し、跡部の指を締め付けていた。跡部が指を出し入れすればふちの皮が指の動きに合わせて伸びたり窄まったりしている。随分と使っていないはずのそこが跡部の愛撫に従順に反応して、今すぐに跡部のモノが欲しいとばかりにキュンキュンと跡部の指を締め付けていた。
その奥には楽しそうに日吉の秘部を見つめる跡部の顔があって。なんて意地悪なんだと日吉が思っていると跡部が日吉に目を向ける。目があった瞬間、跡部の瞳の奥に見え隠れする獰猛な欲を見てしまって。無意識に日吉の口から言葉が溢れ出した。
「あ、あとべさ、おれ、もう欲しい…っ!」
「っ!」
「あ、ちが、…あぁぁっ!」
つい跡部を求める言葉が日吉の口から出てしまい、しまったとすぐに口を噤むがもう遅く、一瞬にして跡部の眼が完全に獰猛な捕食者のそれに変わった。両脚を高く持ち上げられ腰がほとんど浮いた姿勢のまま真上から突き刺すように跡部のモノを入れられると押し出されるようにびゅくびゅくと欲を吐き出してしまった。それはそのまま日吉の顔から顎にかけてかかり、その青臭い匂いと自分が出したものだという事実に思わず顔を顰め、跡部の腕を掴み止まるようにと暗に言うも跡部は止まってくれず、ズンズンと激しく腰を動かす。思いっきり腹側のシコリを押し潰され日吉の口から悲鳴に近い声が出た。
「アッぐぅ、おれイッて、イッてるっ!あとえさ、待って、ひああんっ!」
「はぁ……!くそ、待てるかよ……若……!」
絶頂の余韻に浸る猶予も許されず腰を動かされる。思わず日吉が逃げ出そうともがくもイッたばかりの身体ではもはや何の抵抗にもならず、悲鳴のような喘ぎ声を出すしかなかった。
「んっはぁ、跡部さ、くるし…!っひぁぁ!」
「っは、悪い…」
思いっきり上から押し潰されるように突かれているせいで、流石に苦しい。その事を跡部に伝えるとゆっくりと持ち上げていた日吉の腰を下ろし正常位になり、また律動を再開する。
角度が変わったお陰で少し余裕が出来た日吉が跡部の顔を見る。汗に濡れた肌、眉を顰めて快楽に耐える顔、濡れた唇、そしてその唇から漏れる潜められた荒い吐息。すべてが色っぽくて、ドキドキする。両腕を跡部の肩に回し抱きつけば、強い力で抱きすくめられた。
「っん、あぁ、跡部さん、あとべさっ」
「はぁっ、若…愛している…」
「…!」
跡部からの愛の言葉。いつもは電話越しのその言葉を直接言われ、今目の前に普段ははるか遠い異国の地にいる恋人がいる事を実感し喜びで胸が詰まったように苦しくなる。自分も伝えなければ。イギリスから来てくれたのだから。好きです、俺も愛してます、ずっと一緒にいて、好き、好き。顔を合わせて愛していると伝える方が恥ずかしいはずなのに、気がつけば日吉の頭の中は跡部への愛の言葉でいっぱいになっていて、言葉が溢れ出した。
「あ、っべさ、おれもっ、俺も愛してます…!好き、すきぃっ…」
「っ!若…!」
「っひっあ、あぁ、すご、跡部さん、あとべ、さぁっ!」
日吉の言葉にどくりと跡部のペニスが質量を増す。跡部が日吉の言葉でそうなったという事実が嬉しくて、気持ちよくて。
跡部の律動が早まり、限界が近い事を教えてくれる。強く突かれて奥の最も感じる場所に亀頭がめり込めば視界が真っ白に染まり日吉は堪えきれずイッてしまった。少し遅れて胎内に感じる熱。その熱さに日吉の口から恍惚の声が漏れる。
「っ、あ、っふ…ナカ…っ、きもち…」
余韻に浸っていると跡部の腰がゆらりと不埒な動きをしているのを感じた。
「ちょっ、跡部さん…?何おっきくして…んっくあぁ!」
「お前が誘ったんだぜ? 若。覚悟しておけよ」
「あっ、も、むり!無理ですっ」
気がつけば質量を取り戻していた跡部のもので再度責められる。そのまま外が白むまで跡部は日吉を抱き潰したのだった。
――
ほとんど昼と言っても良いであろう時間に日吉は目が覚めた。ベッドサイドに置いている電子時計は午後1時23分と表示されていて、イギリスは5時半位か、跡部さんもう起きてんのかな、とぼんやりと考えていると背中に熱を感じた。そこで昨日のことを思い出し飛び起きようとするもあまりの腰の痛みに声も出せず突っ伏す羽目になった。
「〜〜っ!」
「ん…若、おはよう」
日吉の気配で跡部も目が覚めたらしくおはようとこめかみにキスをされるが正直それどころでは無い。跡部を見ると、顔色はすこぶる良く肌はツヤツヤと輝きとてつもなく幸せそうな顔をしていた。普通ならときめくところなのだろうが、余りの腰の痛さに殺意が湧く。跡部も日吉の顔を見て日吉の殺意に気がついたのか、上半身を起こしいつのまにかベッドサイドに置かれていたストローが刺してあるペットボトルの水を日吉に差し出した。
「…大丈夫か?飲めよ」
「全然大丈夫じゃないです…。水ありがとうございます」
口元にストローを近づけられ行儀が悪いとは思いながらも横になったまま水を飲む。ぬるいそれが身体に染み渡るのを感じほうっと息を吐いた。
「起きれるか?」
「ん…」
跡部の手を借りながらそろそろと上半身を起こす。全身の痛みを感じるものの起きられないほどではなく、時折痛みに顔を顰めながらもなんとか座ることができた。
「悪いな、久しぶりの若に我慢できなかった」
「別に…いいです」
日吉がぶすくれた顔をしていれば跡部に後ろから優しく抱きしめられる。日吉がよく自分の身体を見てみれば全身に赤く散ったキスマークや腰の痛みはあるものの後ろの穴にも不快感は無く、どうやら跡部が綺麗にしてくれたらしい。それでは怒るに怒れないじゃないか。せめてでもと自分を抱きしめる跡部の胸に後頭部をぐりぐりと押し付けてみたが優しくすくように頭を撫でられればすっかり機嫌も治ってしまった。
「そういえば、」
「…何ですか」
「どうして外に出てたんだ?寒かっただろ」
「それは…通話の声が隣に聞こえると思って…」
「そうか。じゃあ意味無かったな」
「?」
「お前のデケェ喘ぎ声、筒抜けだったろうな」
「っ!ばか!」
「っ痛え!」
思わずわき腹に思いっきり拳を入れてしまったが跡部が変なことを言うから悪いのだ。そう思いながら振り向くと思いのほか青ざめた顔でわき腹を抑える跡部がいて、日吉に少し罪悪感が生まれる。
「…昨日はあんなに素直だったのにな。また言ってくれよ、愛してるってよ」
わき腹を抑える手はそのままにニヤニヤしながら尚も跡部が言う。
「なっ!う、うるさいですよ!あれはついその場の雰囲気で言ってしまったというか、そもそも、」
「俺はかなり嬉しかったがな」
日吉の言葉を遮るように真面目な顔になった跡部が言う。
「お前は普段気持ちを言葉にはしてくれないいだろう?だから、嬉しかった。暴走して抱き潰したことは悪かったな」
「ぅ、いえ…遠距離ですから、たまには言わないとと思、って…」
跡部の顔を直視出来ずに俯きながら言葉を紡ぐ。語尾が段々と小さくなっていくが跡部の耳は日吉の言葉をしっかりと拾っていて。
「そうか。そう聞くと遠距離も悪くねぇな。たまに会うと若が素直になるみてぇだしな」
「もう、またそんな…。ていうかあの…日本にはいつまで?」
「月曜の昼にはロンドン行きの飛行機に乗る。とりあえず今日の夕食はレストランを予約してあるから、それまでゆっくりしようぜ。軽食くらいなら作ってやる」
「料理出来るんですか?」
「一応向こうで一人暮らししているからな。簡単なものくらいなら作れるさ。もう少しゆっくりしてろよ」
「…ではお言葉に甘えて」
跡部が日吉の頭をひとなでして立ち上がる。脇腹の痛みも引いたらしい。良い週末になるな、そう思いながら日吉は毛布に包まった。