中編
今日、青学との練習試合があった。俺は海堂との試合で僅差で負けてしまった。練習試合だろうと負けは負けである。次期部長としてこれでは駄目だ。あの人の後任者として、もっと強くならなければならない。
そう感じた俺は、部活が終わった後も自主練に励んでいた。鳳は帰り際に「無理し過ぎないでね」なんて心配そうに言っていたが、どうにも気がすまなかった。がむしゃらに練習をし、気がつけば辺りは薄暗くなっており自主練を開始した時には感じなかった10月の風が冷たく身体を通り過ぎて行った。そこで下校時間ぎりぎりであることに気が付き部室へと戻り汗を拭くのもそこそこに急いで制服に着替え戸締りをし部室を後にする。シャツが汗でべたついて気持ちが悪いが、シャワーを浴びていては下校時間に間に合わない。シャワーを浴びるのは帰ってからでいいだろう。
そう思いながら職員室に鍵を返し、職員室に隣接している生徒会室にふと目をやるとドアから光が漏れていた。どうやら中に人がいるらしい。
おそらく跡部さんがまだ残っていて、生徒会の仕事を片付けているのだろう。テニス部の引き継ぎもだが、跡部さんがこの3年間で作り上げたものは多く、生徒会の方も引き継ぎ業務が大変らしい。クラスの生徒会役員の奴がそうボヤいていた。
……跡部さん自身がそんなことを人に言っているのを聞いたことはないけれど。彼はいつだって誰にも見えない所で人一倍に努力をしている人だから。
しかし下校時間もほど近い。いくら跡部さんといえどもあまり遅くまで残っていてはいけないのではないか。
……決して最近生徒会の仕事で忙しくあまり会えていない恋人に会いたい訳では無い。あくまでも下校時間に間に合わないと跡部さんが困ると思うから会いに行くだけだ。そう自分に言い聞かせながら生徒会室に向かった。
生徒会室の扉を叩く。普段ならあの低い心地のよい声で入室を促してくれる筈だが今日はいくら扉越しに呼びかけても返事がない。
もしかしたら電気をつけたままどこかに行っているのかもしれないな。そう思いながら何の気なしにドアノブを回してみると、予期せずガチャリと扉が開いた。
「……跡部さん?いるんですか」
煌々と生徒会室を照らす蛍光灯。窓は開っぱなしで跡部さんお気に入りの趣味の悪い柄のカーテンが風で緩くはためいていて、そのカーテンの隙間からちらちらと覗く夕暮れのオレンジ色が眩しい。書きかけの書類と、無造作に机に放られているペン。跡部さん専用のソファは座面が少しへこんでいた。試しにそこに触れてみると、微かにあたたかく、先程まで誰かが座っていたのではないかと思われた。
しかし、どこを見回しても誰もいないし、聞こえるのは壁に備え付けられた時計の秒針がカチコチと時を刻む音だけだった。
ーーおかしい。直感的にそう思った俺は、警戒しながら生徒会室の奥に進んでいく。と、カタリ、と衝立の向こうから音がした。すぐにそちらへ向かい衝立の裏へ回る。
「……っ」
「……若」
そこにいたのは、見知らぬ女だった。
「……あんただれだ」
「俺様が分からないのか?お前の恋人だ」
「……は?」
衝立の裏でしゃがみこんでいた女が立ち上がり、俺の元に歩いてきて下から覗き込むように視線を合わせてくる。不遜な言動に滲み出る威厳、整いすぎた顔立ちに泣きぼくろ。
言われてみればまるで跡部さんだ。ただ一つ違うのは性別が女というだけで。
「え、と……どういうことですか?」
「端的に言うとだな、乾が置いていったドリンクを飲んだら女になっちまった」
「はぁ!?」
やれやれ、と肩を竦める跡部さんから詳しく聞いた所、どうやら練習試合の後に生徒会室で仕事をしていた跡部さんの元に乾さんが来て滋養強壮に良いと乾汁を置いていったらしい。普段なら絶対に飲まないであろうそれを、しかし連日の引き継ぎ業務で疲れていた跡部さんは飲んでしまったそうだ。
そうしたら女になってしまったと。生徒会では制服を汚してしまった生徒などに緊急で貸し出す用の制服がある為、それを着て迎えの車が来るまでバレて騒ぎにならぬ様に隠れていたのだと言う。
あまりにも突飛な話しだが、目の前の光景がそれが嘘ではないと教えている。
兎にも角にも、このまま生徒会室にいては誰かに見つかるのも時間の問題だと、ちょうど来たという迎えの車に乗って跡部さんの屋敷に向かうことになった。
ーーー
跡部さんの自室に通され、見慣れた景色に詰めていた息を吐き出した。
ここまで来る車の中で隣に座る見慣れない数センチ低いつむじに居心地の悪さを感じていた。いつもの薔薇の匂いがその身体からするのもどうにもちぐはぐで、より一層落ち着かない気持ちにさせられる要因の1つとなっていた。
しばらくすると部屋の外で電話をしていた跡部さんが戻ってきて、疲れた顔でベッドに座った。
「乾によるとどうやら短期間で女になる作用は切れるみてぇだ」
「短期間ってどのくらいですか?」
「個人差があるらしいが、1日程らしい」
「1日……」
「ああ。まあそのくらいなら許容範囲内だろう」
確かに、明日は土曜日で部活も無い。不幸中の幸いと言うところだろうか。
「そもそもなんで女になってしまったんですか?滋養強壮に効くって言われて飲んだんですよね?」
「どうやら試作品だったらしい。乾は興味深いだのなんだのと言っていたが、正直いい迷惑だな」
「……でも飲んだのはあんたの意思ですよね?」
「まあな。魔が差したんだよ。たまにはいいだろう」
「まあ……あんたがそれでいいんならいいんでしょうが……」
何となく直視することが出来ずにソファからちら、と跡部さんを見る。優雅に足を組みどこか物憂げな表情を浮かべるそれは、その辺の男が見たら1発で惚れてしまうであろう。どうやら性別が変わっても人を引きつける引力は健在らしい。ぼんやりと跡部さんに視線を向けているとフッと跡部さんがこちらを見た。目が合い大袈裟に肩が揺れる。
「おい、なにビクついてやがる」
「い、いえ……別に……」
悪いことをしているわけでも無いのに何となく視線をうろつかせてしまう。女の姿をしているだけだというのに、どうしてこうも落ち着かないのだろうか。
「……もしかしてお前、女の俺様の身体に興味があるのか?アーン?」
「な、違いますよ!やめてください!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらセクハラ発言をするのはいつもの跡部さんと大差ないのだが、次に跡部さんが取った行動に完全に脳みそがパンクしてしまった。
「折角だ。胸でも触ってみるか?今後お前が俺様のものである限り女の胸なんて触る機会も無いだろうからな」
「なっ……ちょっ……!」
そう言って素早く俺の元に来たかと思うと隣に腰掛け、俺の手を取り自分の胸に押し付けた。右手にむにっと柔らかな感触を感じる。
「……ひっ!」
「おいおい、何悲鳴あげてやがる。失礼なやつだな」
思わず情けない声が出る。見た目から分かっていたことだが、恐らく巨乳に分類されて有り余るそれはふわりと柔らかくも程よい弾力があり、混乱し切った頭のどこか冷静な部分で「女の胸はこんな感触なのか」と思っていた。
混乱している俺が面白いのか、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべっぱなしの跡部さんは俺をいとも簡単に押し倒し、まるで逃がさないとばかりに両手を俺の顔の横に付いた。そうしてわざとらしく挑発的な笑みを浮かべ俺を見下ろしゆっくりと自分の制服のボタンを外していく。いつの間にか日が暮れた部屋。電気をつけ損ねて光源はカーテンから漏れる頼りない一筋の月明かりだけだ。月明かりが捕食者の表情をした跡部さんを照らす。少しずつ顕になっていく白い肌はきめ細やかで、月明かりに照らされると一層の事青白く魅惑的に見える。
もうそろそろ完全にシャツのボタンが開き切ってしまう。恐らくブラジャーはしていないだろうからそうなると……。耐えきれず目を逸らすとボタンを外す手を止め、顎を掴まれ強引に視線を合わせられる。
「や、やめてください……あんた今女なんですから」
「女の姿だからするんだろう?お前が混乱しているのを見るのは面白いからな」
「……あんた最悪だ。大体俺、跡部さんのこと、その……だ、抱けませんよ……」
「アーン?何言ってやがる。俺様がお前に抱かれるわけねぇだろうが」
跡部さんがきょとんとする。その表情は少し年相応な女の顔で、可愛い気がする……というか、
「え、じゃあ今から何を……」
「もちろん俺様がお前を抱くんだよ」
「は?どうやって……ぅわっ!」
いきなりズボンのチャックを開けられパンツをずらされる。恥ずかしながら既にそこはゆるく反応しており、ふるりと震えながら蜜を零していた。
「やめろやめろと言う割にはもうこんなになってるじゃねぇの」
「っひぁ……!」
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら細くて白い綺麗な手でモノを抜かれる。抵抗しようにも女とまともに触れ合ったことの無い自分では力加減が分からず少しでも強く掴もうものならその細腕が折れてしまいそうで恐ろしく、満足な抵抗が出来なかった。
女に押し倒されてちんこを弄られている。主導権は完全に跡部さんのものだ。羞恥と不思議な恍惚感が全身を襲い、意識がふわふわとしてくる。俺のモノを抜く手つきは完全にいつもの跡部さんのそれなのに、視界に映る女のせいで脳みそがカクつく。
「あっ……ふぅ、は……んあぁ〜〜〜ッ!」
視界が白く染まり足の指がきゅうっと丸まり内腿が痙攣する。どうやらイッてしまったらしい。いつもよりも随分早い絶頂に惚けていると、ズボンを脱がされた。まさか……
「あ、跡部さん…?もしかして、」
「アーン?解さねぇといけねぇだろ。今からお前を抱くんだからな」
「だからどうやってする気……、っ!」
いつの間にかローションを纏わりつかせた指で後孔の皺を擽るように丁寧にマッサージされる。すっかり開発されきっている穴が咥えるものを欲しがって浅ましくもキュンキュンと収縮しているのを感じた。やがてゆっくりと指を俺の後孔に挿入すると、細い指でナカを掻き混ぜられる。
「あ……ふっう、んあ……!」
腹側のしこりをトントンと刺激されれば腰がビクビクと跳ねる。慣れきった身体はすぐに2本目、3本目と跡部さんの指を咥えては離さないとばかりにぎゅうぎゅうと収縮する。跡部さんがそれぞれの指をバラバラに動かし、気まぐれに指先が前立腺を掠める度に背をしならせて快感にのたうち回った。
「んっあぁ!ひぅ、だめ、あとべさん、それ、」
気持ちが良くて、生理的な涙が溢れる。涙でぼやけた視界の先には、女の姿になった跡部さんがいて。女に身体を弄ばれている。そう思った瞬間にぞわり、と全身が粟立つような不思議な快感を覚えた。と、その瞬間前立腺を2本の指で挟まれ我慢が効かず目の前がまた真っ白にスパークした。どうやらドライでイッてしまったらしい。
「〜〜っ!あっう、はぁ、そ、れぇっ!んあっ、い、イッ」
「アーン、お前ここ弄られただけでイッたのか?」
面白そうにそう言いながら、なおも前立腺をぎゅうぎゅうと押し潰したりトントンと叩いたりと攻められる。
「んっあ、イッた、も、あとべさ、おれっイッたからぁっ!待ってくださ、」
「フ、随分と気持ち良さそうじゃねーの。こんな所に指突っ込まれて弄られてイくなんて、おめぇが女みてぇだな。……まあ、俺様の女といえばそうなんだがよ」
「……あ、んぁ、」
目を細めて跡部さんが意地悪く笑いながら言う。跡部さんに女のように作り替えられてしまった身体は、本当の女のようにナカを弄られれば気持ち良くなってしまい、口を開けばみっともない甲高い喘ぎ声をこぼしてしまう。恥ずかしい、情けない。それと同時に羞恥心を上回る快楽を呼び起こす。あぁ、俺は跡部さんの『女』なんだ。改めてその事実を自覚した瞬間、つい先程達したはずの下半身がずくりと重くなる。頭の芯がぼうっとなり、跡部さんから与えられる快楽の事しか考えられなくなる。
……ほしい、早く。いつも俺を前後不覚になるまで突き上げて前立腺を押し潰して苛めて俺の事を『女』にする凶暴で愛おしい跡部さんのモノが。
ほしい。ごく小さい声で呟きどろどろに蕩けた視線を跡部さんに投げかけると、跡部さんの喉仏のない真白な喉が大袈裟にごくりと上下した。
「……なんて顔してんだ、若」
耐えるように眉を寄せる跡部さんの顔は、随分と余裕が無さそうだ。熱の篭った荒い溜息を1つ零すと俺の両足を持ち上げ肩に乗せ、今から挿入しますと言わんばかりの格好になった。
「っ?跡部さ、どうするつもりですか?」
「まあ見てろ、あと少し……」
ちら、と時計を見る。時刻は9時に差し掛かろうとしていた。カチ、カチ、と長針がてっぺんに辿り着き9時になった事を示す。と、ボヨ〜ン!となんとも間の抜けた音と共に俺の目の前に煙が上がった。
「ちょっ、な、なんだよ?!跡部さん?」
煙が消えた先には今まで女の姿だった跡部さんはおらず、すっかり元の『跡部景吾』の姿に戻っていた。
「ナイスタイミングだな」
目を白黒させて困惑している俺にニヤリと楽しそうな視線を投げかけ俺の頬を食むようにキスする跡部さん。そのまま熟れた俺の後孔にひたりとペニスを宛てがう。
「ちょ、っと!どういうことですか!」
「アーン?おめーが欲しいっつったんだろうが。お望み通りくれてやるぜ」
「っ〜〜〜!!」
抵抗も虚しく、跡部さんのモノが勢いよく俺のナカを穿く。グズグズに慣らされたソコはずっぽりと跡部さんのモノを咥えこんで、その甘露を味わい尽くしたいと言わんばかりに収縮し締め付けた。
挿入の衝撃に背を仰け反らせ声もなく喘ぐ俺の背中をスリスリと撫でながら跡部さんがピストンを始める。ギリギリまで抜いては勢いよく最奥まで穿つ激しいピストンと反比例して背中の窪みの皮膚を優しくさすられれば、そこが火傷しそうな程熱く感じた。スリスリ、とさすられる度全身が打ち上げられた魚のように哀れにビクビクと跳ね上がる。
「っひぃ、んっぐぅ……!あっ〜!」
「っは……よさそうだな、若」
俺の意思とは関係なく大袈裟なほどにのたうつ身体を押さえつけ、跡部さんのピストンが早まる。ぼたぼたと頬に落ちる雫に気付き視線を跡部さんにやれば、いつもより大分余裕のない表情の跡部さんが額から汗を光らせ滴らせていた。
俺が跡部さんを見ていることに気が付いたようで、ぐっと顔を近づけられ喰らうようにキスをする。お互いの舌を絡め合い熱く荒い吐息を分かち合えば、絶頂が近いのか跡部さんの腰がぶるりと震え、より重く強く俺のナカを穿つ。
「ふっう、あぁ、あとえ、さっ」
「っく……そろそろ、イきそうだ、」
しばらく触れられていない中心に先程よりもよっぽど骨張っていて、けれどやはり白く滑かな跡部さんの細く綺麗な指が俺のモノを鈴口をちゅこちゅこと射精を促すように抜けば、その刺激に耐えきれず吐精してしまう。
「〜〜イっあぁっ!」
「っ!」
同時に跡部さんも俺の最奥で爆ぜる。どうやら吐精した時にナカを締め付けてしまったらしい。腹の中に熱い飛沫が迸っていくのを感じる。体感いつもより長い射精に、身体がビクビクと震えた。
「……はァ、ん、ふぅ…」
いつの間にか垂れていた涎をじゅるじゅると啜られ頭皮をマッサージするように優しく髪を梳かれながら下唇をやわく食まれる。
その心地良さと絶頂の余韻にうっとりとしていれば、跡部さんの萎えたものがズルリと抜かれた。
「……やっぱりお前は俺だけのものだな、若」
跡部さんがくすりと笑った気配がした。
ーーー
「……で、どういうことですか、跡部さん」
「どういうこと、ってぇのはどういうことだ、若」
「あんたねぇ!自分でも分かってるでしょうが!男に戻るのに1日掛かるって言ってたのは何だったんですか!嘘か!」
「嘘だが」
「嘘かよ!」
あの後、跡部さんの腕の中に抱かれうつらうつらとしていた俺はハッと今までの事を思い出し文字通り怠くて仕方がない腰を上げ跡部さんに詰め寄った。
跡部さんはどこ吹く風で呆気なく俺を騙していたのだとのたまった。なんでも、実際の効果持続時間は4時間にも満たないのだと言う。じゃあなんで騙したんだとこれまた詰め寄れば「若の困ってる顔が見たかったからに決まってるじゃねーの」と悪びれもなく言われてしまった。本当にタチが悪いし全くどうしようもない。ぎゃんぎゃんと跡部さんに抗議を続ける俺の腰を攫い寝ている自分の横に寝かせ額をくっ付け俺の首の辺りを優しく撫でながらやわい視線を俺に投げかけてくる跡部さんに、つい黙り込んでしまう俺も、全く、どうしようもないのだ。
そう感じた俺は、部活が終わった後も自主練に励んでいた。鳳は帰り際に「無理し過ぎないでね」なんて心配そうに言っていたが、どうにも気がすまなかった。がむしゃらに練習をし、気がつけば辺りは薄暗くなっており自主練を開始した時には感じなかった10月の風が冷たく身体を通り過ぎて行った。そこで下校時間ぎりぎりであることに気が付き部室へと戻り汗を拭くのもそこそこに急いで制服に着替え戸締りをし部室を後にする。シャツが汗でべたついて気持ちが悪いが、シャワーを浴びていては下校時間に間に合わない。シャワーを浴びるのは帰ってからでいいだろう。
そう思いながら職員室に鍵を返し、職員室に隣接している生徒会室にふと目をやるとドアから光が漏れていた。どうやら中に人がいるらしい。
おそらく跡部さんがまだ残っていて、生徒会の仕事を片付けているのだろう。テニス部の引き継ぎもだが、跡部さんがこの3年間で作り上げたものは多く、生徒会の方も引き継ぎ業務が大変らしい。クラスの生徒会役員の奴がそうボヤいていた。
……跡部さん自身がそんなことを人に言っているのを聞いたことはないけれど。彼はいつだって誰にも見えない所で人一倍に努力をしている人だから。
しかし下校時間もほど近い。いくら跡部さんといえどもあまり遅くまで残っていてはいけないのではないか。
……決して最近生徒会の仕事で忙しくあまり会えていない恋人に会いたい訳では無い。あくまでも下校時間に間に合わないと跡部さんが困ると思うから会いに行くだけだ。そう自分に言い聞かせながら生徒会室に向かった。
生徒会室の扉を叩く。普段ならあの低い心地のよい声で入室を促してくれる筈だが今日はいくら扉越しに呼びかけても返事がない。
もしかしたら電気をつけたままどこかに行っているのかもしれないな。そう思いながら何の気なしにドアノブを回してみると、予期せずガチャリと扉が開いた。
「……跡部さん?いるんですか」
煌々と生徒会室を照らす蛍光灯。窓は開っぱなしで跡部さんお気に入りの趣味の悪い柄のカーテンが風で緩くはためいていて、そのカーテンの隙間からちらちらと覗く夕暮れのオレンジ色が眩しい。書きかけの書類と、無造作に机に放られているペン。跡部さん専用のソファは座面が少しへこんでいた。試しにそこに触れてみると、微かにあたたかく、先程まで誰かが座っていたのではないかと思われた。
しかし、どこを見回しても誰もいないし、聞こえるのは壁に備え付けられた時計の秒針がカチコチと時を刻む音だけだった。
ーーおかしい。直感的にそう思った俺は、警戒しながら生徒会室の奥に進んでいく。と、カタリ、と衝立の向こうから音がした。すぐにそちらへ向かい衝立の裏へ回る。
「……っ」
「……若」
そこにいたのは、見知らぬ女だった。
「……あんただれだ」
「俺様が分からないのか?お前の恋人だ」
「……は?」
衝立の裏でしゃがみこんでいた女が立ち上がり、俺の元に歩いてきて下から覗き込むように視線を合わせてくる。不遜な言動に滲み出る威厳、整いすぎた顔立ちに泣きぼくろ。
言われてみればまるで跡部さんだ。ただ一つ違うのは性別が女というだけで。
「え、と……どういうことですか?」
「端的に言うとだな、乾が置いていったドリンクを飲んだら女になっちまった」
「はぁ!?」
やれやれ、と肩を竦める跡部さんから詳しく聞いた所、どうやら練習試合の後に生徒会室で仕事をしていた跡部さんの元に乾さんが来て滋養強壮に良いと乾汁を置いていったらしい。普段なら絶対に飲まないであろうそれを、しかし連日の引き継ぎ業務で疲れていた跡部さんは飲んでしまったそうだ。
そうしたら女になってしまったと。生徒会では制服を汚してしまった生徒などに緊急で貸し出す用の制服がある為、それを着て迎えの車が来るまでバレて騒ぎにならぬ様に隠れていたのだと言う。
あまりにも突飛な話しだが、目の前の光景がそれが嘘ではないと教えている。
兎にも角にも、このまま生徒会室にいては誰かに見つかるのも時間の問題だと、ちょうど来たという迎えの車に乗って跡部さんの屋敷に向かうことになった。
ーーー
跡部さんの自室に通され、見慣れた景色に詰めていた息を吐き出した。
ここまで来る車の中で隣に座る見慣れない数センチ低いつむじに居心地の悪さを感じていた。いつもの薔薇の匂いがその身体からするのもどうにもちぐはぐで、より一層落ち着かない気持ちにさせられる要因の1つとなっていた。
しばらくすると部屋の外で電話をしていた跡部さんが戻ってきて、疲れた顔でベッドに座った。
「乾によるとどうやら短期間で女になる作用は切れるみてぇだ」
「短期間ってどのくらいですか?」
「個人差があるらしいが、1日程らしい」
「1日……」
「ああ。まあそのくらいなら許容範囲内だろう」
確かに、明日は土曜日で部活も無い。不幸中の幸いと言うところだろうか。
「そもそもなんで女になってしまったんですか?滋養強壮に効くって言われて飲んだんですよね?」
「どうやら試作品だったらしい。乾は興味深いだのなんだのと言っていたが、正直いい迷惑だな」
「……でも飲んだのはあんたの意思ですよね?」
「まあな。魔が差したんだよ。たまにはいいだろう」
「まあ……あんたがそれでいいんならいいんでしょうが……」
何となく直視することが出来ずにソファからちら、と跡部さんを見る。優雅に足を組みどこか物憂げな表情を浮かべるそれは、その辺の男が見たら1発で惚れてしまうであろう。どうやら性別が変わっても人を引きつける引力は健在らしい。ぼんやりと跡部さんに視線を向けているとフッと跡部さんがこちらを見た。目が合い大袈裟に肩が揺れる。
「おい、なにビクついてやがる」
「い、いえ……別に……」
悪いことをしているわけでも無いのに何となく視線をうろつかせてしまう。女の姿をしているだけだというのに、どうしてこうも落ち着かないのだろうか。
「……もしかしてお前、女の俺様の身体に興味があるのか?アーン?」
「な、違いますよ!やめてください!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらセクハラ発言をするのはいつもの跡部さんと大差ないのだが、次に跡部さんが取った行動に完全に脳みそがパンクしてしまった。
「折角だ。胸でも触ってみるか?今後お前が俺様のものである限り女の胸なんて触る機会も無いだろうからな」
「なっ……ちょっ……!」
そう言って素早く俺の元に来たかと思うと隣に腰掛け、俺の手を取り自分の胸に押し付けた。右手にむにっと柔らかな感触を感じる。
「……ひっ!」
「おいおい、何悲鳴あげてやがる。失礼なやつだな」
思わず情けない声が出る。見た目から分かっていたことだが、恐らく巨乳に分類されて有り余るそれはふわりと柔らかくも程よい弾力があり、混乱し切った頭のどこか冷静な部分で「女の胸はこんな感触なのか」と思っていた。
混乱している俺が面白いのか、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべっぱなしの跡部さんは俺をいとも簡単に押し倒し、まるで逃がさないとばかりに両手を俺の顔の横に付いた。そうしてわざとらしく挑発的な笑みを浮かべ俺を見下ろしゆっくりと自分の制服のボタンを外していく。いつの間にか日が暮れた部屋。電気をつけ損ねて光源はカーテンから漏れる頼りない一筋の月明かりだけだ。月明かりが捕食者の表情をした跡部さんを照らす。少しずつ顕になっていく白い肌はきめ細やかで、月明かりに照らされると一層の事青白く魅惑的に見える。
もうそろそろ完全にシャツのボタンが開き切ってしまう。恐らくブラジャーはしていないだろうからそうなると……。耐えきれず目を逸らすとボタンを外す手を止め、顎を掴まれ強引に視線を合わせられる。
「や、やめてください……あんた今女なんですから」
「女の姿だからするんだろう?お前が混乱しているのを見るのは面白いからな」
「……あんた最悪だ。大体俺、跡部さんのこと、その……だ、抱けませんよ……」
「アーン?何言ってやがる。俺様がお前に抱かれるわけねぇだろうが」
跡部さんがきょとんとする。その表情は少し年相応な女の顔で、可愛い気がする……というか、
「え、じゃあ今から何を……」
「もちろん俺様がお前を抱くんだよ」
「は?どうやって……ぅわっ!」
いきなりズボンのチャックを開けられパンツをずらされる。恥ずかしながら既にそこはゆるく反応しており、ふるりと震えながら蜜を零していた。
「やめろやめろと言う割にはもうこんなになってるじゃねぇの」
「っひぁ……!」
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら細くて白い綺麗な手でモノを抜かれる。抵抗しようにも女とまともに触れ合ったことの無い自分では力加減が分からず少しでも強く掴もうものならその細腕が折れてしまいそうで恐ろしく、満足な抵抗が出来なかった。
女に押し倒されてちんこを弄られている。主導権は完全に跡部さんのものだ。羞恥と不思議な恍惚感が全身を襲い、意識がふわふわとしてくる。俺のモノを抜く手つきは完全にいつもの跡部さんのそれなのに、視界に映る女のせいで脳みそがカクつく。
「あっ……ふぅ、は……んあぁ〜〜〜ッ!」
視界が白く染まり足の指がきゅうっと丸まり内腿が痙攣する。どうやらイッてしまったらしい。いつもよりも随分早い絶頂に惚けていると、ズボンを脱がされた。まさか……
「あ、跡部さん…?もしかして、」
「アーン?解さねぇといけねぇだろ。今からお前を抱くんだからな」
「だからどうやってする気……、っ!」
いつの間にかローションを纏わりつかせた指で後孔の皺を擽るように丁寧にマッサージされる。すっかり開発されきっている穴が咥えるものを欲しがって浅ましくもキュンキュンと収縮しているのを感じた。やがてゆっくりと指を俺の後孔に挿入すると、細い指でナカを掻き混ぜられる。
「あ……ふっう、んあ……!」
腹側のしこりをトントンと刺激されれば腰がビクビクと跳ねる。慣れきった身体はすぐに2本目、3本目と跡部さんの指を咥えては離さないとばかりにぎゅうぎゅうと収縮する。跡部さんがそれぞれの指をバラバラに動かし、気まぐれに指先が前立腺を掠める度に背をしならせて快感にのたうち回った。
「んっあぁ!ひぅ、だめ、あとべさん、それ、」
気持ちが良くて、生理的な涙が溢れる。涙でぼやけた視界の先には、女の姿になった跡部さんがいて。女に身体を弄ばれている。そう思った瞬間にぞわり、と全身が粟立つような不思議な快感を覚えた。と、その瞬間前立腺を2本の指で挟まれ我慢が効かず目の前がまた真っ白にスパークした。どうやらドライでイッてしまったらしい。
「〜〜っ!あっう、はぁ、そ、れぇっ!んあっ、い、イッ」
「アーン、お前ここ弄られただけでイッたのか?」
面白そうにそう言いながら、なおも前立腺をぎゅうぎゅうと押し潰したりトントンと叩いたりと攻められる。
「んっあ、イッた、も、あとべさ、おれっイッたからぁっ!待ってくださ、」
「フ、随分と気持ち良さそうじゃねーの。こんな所に指突っ込まれて弄られてイくなんて、おめぇが女みてぇだな。……まあ、俺様の女といえばそうなんだがよ」
「……あ、んぁ、」
目を細めて跡部さんが意地悪く笑いながら言う。跡部さんに女のように作り替えられてしまった身体は、本当の女のようにナカを弄られれば気持ち良くなってしまい、口を開けばみっともない甲高い喘ぎ声をこぼしてしまう。恥ずかしい、情けない。それと同時に羞恥心を上回る快楽を呼び起こす。あぁ、俺は跡部さんの『女』なんだ。改めてその事実を自覚した瞬間、つい先程達したはずの下半身がずくりと重くなる。頭の芯がぼうっとなり、跡部さんから与えられる快楽の事しか考えられなくなる。
……ほしい、早く。いつも俺を前後不覚になるまで突き上げて前立腺を押し潰して苛めて俺の事を『女』にする凶暴で愛おしい跡部さんのモノが。
ほしい。ごく小さい声で呟きどろどろに蕩けた視線を跡部さんに投げかけると、跡部さんの喉仏のない真白な喉が大袈裟にごくりと上下した。
「……なんて顔してんだ、若」
耐えるように眉を寄せる跡部さんの顔は、随分と余裕が無さそうだ。熱の篭った荒い溜息を1つ零すと俺の両足を持ち上げ肩に乗せ、今から挿入しますと言わんばかりの格好になった。
「っ?跡部さ、どうするつもりですか?」
「まあ見てろ、あと少し……」
ちら、と時計を見る。時刻は9時に差し掛かろうとしていた。カチ、カチ、と長針がてっぺんに辿り着き9時になった事を示す。と、ボヨ〜ン!となんとも間の抜けた音と共に俺の目の前に煙が上がった。
「ちょっ、な、なんだよ?!跡部さん?」
煙が消えた先には今まで女の姿だった跡部さんはおらず、すっかり元の『跡部景吾』の姿に戻っていた。
「ナイスタイミングだな」
目を白黒させて困惑している俺にニヤリと楽しそうな視線を投げかけ俺の頬を食むようにキスする跡部さん。そのまま熟れた俺の後孔にひたりとペニスを宛てがう。
「ちょ、っと!どういうことですか!」
「アーン?おめーが欲しいっつったんだろうが。お望み通りくれてやるぜ」
「っ〜〜〜!!」
抵抗も虚しく、跡部さんのモノが勢いよく俺のナカを穿く。グズグズに慣らされたソコはずっぽりと跡部さんのモノを咥えこんで、その甘露を味わい尽くしたいと言わんばかりに収縮し締め付けた。
挿入の衝撃に背を仰け反らせ声もなく喘ぐ俺の背中をスリスリと撫でながら跡部さんがピストンを始める。ギリギリまで抜いては勢いよく最奥まで穿つ激しいピストンと反比例して背中の窪みの皮膚を優しくさすられれば、そこが火傷しそうな程熱く感じた。スリスリ、とさすられる度全身が打ち上げられた魚のように哀れにビクビクと跳ね上がる。
「っひぃ、んっぐぅ……!あっ〜!」
「っは……よさそうだな、若」
俺の意思とは関係なく大袈裟なほどにのたうつ身体を押さえつけ、跡部さんのピストンが早まる。ぼたぼたと頬に落ちる雫に気付き視線を跡部さんにやれば、いつもより大分余裕のない表情の跡部さんが額から汗を光らせ滴らせていた。
俺が跡部さんを見ていることに気が付いたようで、ぐっと顔を近づけられ喰らうようにキスをする。お互いの舌を絡め合い熱く荒い吐息を分かち合えば、絶頂が近いのか跡部さんの腰がぶるりと震え、より重く強く俺のナカを穿つ。
「ふっう、あぁ、あとえ、さっ」
「っく……そろそろ、イきそうだ、」
しばらく触れられていない中心に先程よりもよっぽど骨張っていて、けれどやはり白く滑かな跡部さんの細く綺麗な指が俺のモノを鈴口をちゅこちゅこと射精を促すように抜けば、その刺激に耐えきれず吐精してしまう。
「〜〜イっあぁっ!」
「っ!」
同時に跡部さんも俺の最奥で爆ぜる。どうやら吐精した時にナカを締め付けてしまったらしい。腹の中に熱い飛沫が迸っていくのを感じる。体感いつもより長い射精に、身体がビクビクと震えた。
「……はァ、ん、ふぅ…」
いつの間にか垂れていた涎をじゅるじゅると啜られ頭皮をマッサージするように優しく髪を梳かれながら下唇をやわく食まれる。
その心地良さと絶頂の余韻にうっとりとしていれば、跡部さんの萎えたものがズルリと抜かれた。
「……やっぱりお前は俺だけのものだな、若」
跡部さんがくすりと笑った気配がした。
ーーー
「……で、どういうことですか、跡部さん」
「どういうこと、ってぇのはどういうことだ、若」
「あんたねぇ!自分でも分かってるでしょうが!男に戻るのに1日掛かるって言ってたのは何だったんですか!嘘か!」
「嘘だが」
「嘘かよ!」
あの後、跡部さんの腕の中に抱かれうつらうつらとしていた俺はハッと今までの事を思い出し文字通り怠くて仕方がない腰を上げ跡部さんに詰め寄った。
跡部さんはどこ吹く風で呆気なく俺を騙していたのだとのたまった。なんでも、実際の効果持続時間は4時間にも満たないのだと言う。じゃあなんで騙したんだとこれまた詰め寄れば「若の困ってる顔が見たかったからに決まってるじゃねーの」と悪びれもなく言われてしまった。本当にタチが悪いし全くどうしようもない。ぎゃんぎゃんと跡部さんに抗議を続ける俺の腰を攫い寝ている自分の横に寝かせ額をくっ付け俺の首の辺りを優しく撫でながらやわい視線を俺に投げかけてくる跡部さんに、つい黙り込んでしまう俺も、全く、どうしようもないのだ。
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