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短編

「なんかムカムカします」


土曜日の昼過ぎ、跡部さんの邸宅で豪華すぎる昼食をご馳走になった後、跡部さんと映画を観ていた。古い名作SF映画。俺はホラーを観たいのだが跡部さんはあまりホラーが好きではないようだし、かと言って跡部さんが好きなヒューマンドラマも別に嫌いでは無いのだがそこまで興味がある訳では無い。
という訳で、跡部さんの邸宅で映画を観る時はお互いの趣味の中間にある様な、それこそ今見ている人情ドラマあり、地球外生命体の脅威あり、みたいな作品を観るのが暗黙の了解として存在していた。


作品自体は俺たちがまだハイハイしている頃に作られたものだけれど、名作と言われ続編が大量に出ているだけあって中々面白くはあった。
けれど、大きすぎるソファに座って後ろから俺を抱きしめる跡部さんの柔らかく俺を包み込む両腕を、その体温を、背中越しに上下する胸板を、つむじに感じる微細な息遣いを。それらを意識する度に、何だか胸がざわついて仕方がなかった。そして口からこぼれた、冒頭の言葉である。


「大丈夫か、若。画面がデケェから酔っちまったか?」
眉をひそめて呟いた俺の顔を後ろから覗き込んでくる跡部さんは心底心配そうな顔をしていて、そう言って俺を抱きしめたまま俺の腕をさすった。跡部さんが映画を止めようか、と提案したのを俺が断ると跡部さんは俺の肩口に顎を押し付け「本当に大丈夫か?」と聞いてくる。


「大丈夫です、アンタの事が好きすぎるだけなんで」


ぴく、と俺の腕をさする跡部さんの動きが止まる。確認するかのように「それは、俺の事が好きすぎて胸がムカムカしているってことか?」と聞く跡部さんに、素っ気なく「そうですよ」と返す。けれど、きっと赤くなった耳は隠せていないだろう。その証拠に跡部さんは俺の耳朶をそろりと撫でて、俺の事をいっそう強く抱き締めた。


「可愛いやつ」


そう言って俺の顎を持ち上げ、キスを降らせる跡部さんの表情はとても甘ったるくて。
ああほら、またムカムカしてくる。本当にくどすぎるんですよ、アンタの甘さは。
けれど、そんなムカムカも嫌いじゃないから跡部さんの方に身体を向けて、跡部さんに抱きついて俺からもキスをした。
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