番外(1~3)バイトは見た!〜現代中学生痴話喧嘩〜
⚠️最初から最後までオリキャラ喋り通し
⚠️本編1話2話と短編の内容を含みます
⚠️ギャグ
以上の点が大丈夫な方のみお読みください
――スマイルゼロ円、などという言葉は、店から賃金が発生するから客にとっては実質0円なのだ。こっちは無料で笑顔振りまいてる訳じゃない。
カウンターに笑顔で立ちながら、とあるファストフード店で春からバイトを始めたその女子大生は思った。
講義を受け、バイトをし、課題を片付け、寝て起きて講義を受ける。入学前の先輩は「私生活とバランス取れるし課題も楽だよ」とか言っていたはずだが、そんなことは無かった。誰もが仕送りをしてもらえる訳じゃない。
おかげで、趣味の恋愛ドラマ漁りも碌にできない。友人間の話題にすら置いていかれていた。
平日の放課後は、近所の学生たちがゾロゾロと入ってくる。次から次へと舞い込む注文に、毎日目を回さないようにするのでやっとだ。ピークが過ぎれば夕食の時間までは楽だが、ひどく疲れる。
そんなタイミングで、最近よく訪れる客がいた。
「オニオンフライと、カルピス。Sサイズでお願いします」
「かしこまりました」
近所の女子中学生らしきその子は、毎回一人で訪れる。注文も必ず、カルピスとオニオンフライ。そしていつも、同じ席で時間を潰すように座り続ける。
髪からまつ毛まで真っ白な儚い姿は、雑然としたファストフード店に似合わなすぎて、印象的だった。
ぽつりぽつりと、学生たちが退店していく。テーブルの片付けのために席を回っているその背後で、事件は起きていた。
「ん? オイ、テメェ、東晶だろ。……『病弱』なテメェが、なんでココに居んだ?」
「……あ」
「素行不良の生徒尾行して、教師に売り付けようってか?」
「……っ」
ガラの悪い男子の言葉に、か細い女子の声。
客の観察をまじまじとする訳にはいかないが、その女子の声があの真っ白な子のものであるとすぐに気がついた。もう一人は、同じ中学の男子だ。よくグループで現れては、一人で最後まで残って帰る、トゲトゲ頭の不良生徒。……これは、もしや。
――不良に絡まれてる?
大丈夫かな、と少し心配になる。
だが、「素行不良の生徒を尾行して教師に売り付ける」とは只事ではない。儚げな見た目に反して、かなりアグレッシブなんだな……と思いつつも、店内で恫喝行為など起きないよう、少しだけ大きめに足音を立てて片付ける。
少しの間を置いて、女子が動いた。
「た……立ち話、も、なんだし。席、座ったら?」
「……」
――あ、本当に尾行してたっぽい。
怯えて震えた声は、あからさまに動揺している。ちらりと不良男子の方を見れば、ゴッ、と勢いよくコップをテーブルに置いた。備品を手荒く扱うのはやめて欲しい。
離れた席へ片付けをしに移る。とはいえ、有事の際に動けるように、例の席からは見える範囲だ。
少し遠のくと、女子の声は一気に聞こえなくなる。不良男子の方は明瞭に聞こえていた。声の大きい人ってこういうとき強いよな、とかつい考えてしまう。
だが、徐々に女子の声も、言葉こそ聞き取れないが聞こえてきた。息継ぎなんて忘れたような割れた声に、こっそりと彼女たちの方を覗き見る。
――ふ、不良くんの方が押されてる!?
いつもなんとなく不機嫌そうにしている彼が、目を見開いて固まっていた。
ひとまず恫喝事件はおきなさそう……と思いつつ、不自然にならないようにそっと近寄る。女子の方が何を言っているのか気になってしまった。
「人殺しになりたいなら、止めないけど。できんの? 私、あんたのちっさい爆発で腕が捥げたくらいには脆いけど。――それとももう、忘れちゃった?」
「――っ」
「あんたは器用だから、もしかしたら今度は力加減を間違えないかもね。でも、あんたのツレたちはどう?」
――昼ドラかな? 火曜サスペンスでも見た気がする。
浮気夫に証拠突きつける奥さんとか、兄弟の仇を取る復讐の殺人犯とか、そういうセリフだった。もしくは海外ドラマの自爆テロ。いずれにしても、「女子中学生」と結びつく肩書ではない。
これ、もしかしなくても女子の方がヤバいパターンだったのかな、と思いつつ、近くの席で様子見を続ける。あまりに女子の方の発言が不穏だ。そしてちょっとだけこの先の展開に興味があった。
ヒートアップしていた女子は、男子に向かって好き放題言いたいことを言い放つ。しばらく言い続けてやっと落ち着いたのか、席を立とうとして――男子がそれを止めた。
「…………送ってく」
「……ハァ!?」
男子はそのまま、女子からトレーを奪って片付け、慌てて女子もそれを追い店を出て行ってしまった。嵐のような二人だった。
二人のいた席も片付け終えた女子大生も、カウンターの奥へと帰る。ここのバイトを紹介した先輩が、シフトの確認をしていた。
「……先輩」
「あ、お疲れー」
「お疲れ様です。……今どきの中学生って、恋愛事情もすごいんですね」
「急にどうした」
× × ×
あの一件から、女子の方はもう店に来ないのかと思っていたが、そんなことは全くなかった。
「オニオンフライと、カルピス。Sサイズでお願いします」
「かしこまりました」
――あ、来たんだ。
そういえば今日は、同じ学校のトゲトゲ不良くんがいつものメンツと一緒に来店していた。
今日は大丈夫かな、としばらくしてから席の片付けに向かうと。
「テメェ……、自分の脆さ解ってねェんじゃねーだろーな」
「……、なに。あんた、私のこと守るとかなんとか言ってなかったっけ」
「守られるつもりあんなら相応の態度しろやぁ……!」
「あ、守る気はあったんだ」
――なんか面白いことになってる。
怒りに震えながらも相手を守る発言する不良くん。そしてそれを全力で煽りながら面白おかしく嫌がらせする白い女子。
『中学生の恋愛』という甘酸っぱい単語とはかけ離れた、ビターな関係に落ち着くのかと思いきや、案外不良くんは献身的だったようだ。あんな人を殺してそうな目つきをしておいて。
それから、週に数回は白い女子が不良男子の後から来店し、男子グループが帰ったら不良くんは女子の方の席で駄弁りながら課題を進めるルーティンが出来上がっていった。
「あの白い方の女子、絶対チョロいと思うんですよ」
「客の個人情報に首突っ込むんじゃないよ」
「絶対あの子ツンデレ属性ですって。不良男子の方は明らかに狙ってるし!」
「プライバシーって知ってる?」
こいつ、そういや趣味は恋愛ドラマ鑑賞だった。と、バイト先に二人が来るたびにきゃっきゃと騒ぐ後輩に、先輩は呆れながらも思い出していた。
先輩本人も、あのやたらと印象的な中学生二人組は完全に常連なので、認識してはいるのだが。
「というか、あの子たちって付き合ってないの?」
「ないみたいですねー」
「……なんでそんなに詳しいのかは聞かないからね」
「同じ学校の制服の女子たちが噂してて」
「聞いてないってば」
同じ制服の女子が噂しているのが二人のことだと認識しているということは、あの二人の名前も多分知っているんだろう。
壁に耳あり障子に目ありの耳と目は大体こいつなのかもしれない。噂とは恐ろしいものだ。
「問題は、いつ告るか、ですよ」
「あーうんそーだねー」
「賭けましょう先輩! 私は三年進級時に賭けます!」
「一人でやってなね」
その後、彼女は一人で賭けて一人で負けることになった。
⚠️本編1話2話と短編の内容を含みます
⚠️ギャグ
以上の点が大丈夫な方のみお読みください
――スマイルゼロ円、などという言葉は、店から賃金が発生するから客にとっては実質0円なのだ。こっちは無料で笑顔振りまいてる訳じゃない。
カウンターに笑顔で立ちながら、とあるファストフード店で春からバイトを始めたその女子大生は思った。
講義を受け、バイトをし、課題を片付け、寝て起きて講義を受ける。入学前の先輩は「私生活とバランス取れるし課題も楽だよ」とか言っていたはずだが、そんなことは無かった。誰もが仕送りをしてもらえる訳じゃない。
おかげで、趣味の恋愛ドラマ漁りも碌にできない。友人間の話題にすら置いていかれていた。
平日の放課後は、近所の学生たちがゾロゾロと入ってくる。次から次へと舞い込む注文に、毎日目を回さないようにするのでやっとだ。ピークが過ぎれば夕食の時間までは楽だが、ひどく疲れる。
そんなタイミングで、最近よく訪れる客がいた。
「オニオンフライと、カルピス。Sサイズでお願いします」
「かしこまりました」
近所の女子中学生らしきその子は、毎回一人で訪れる。注文も必ず、カルピスとオニオンフライ。そしていつも、同じ席で時間を潰すように座り続ける。
髪からまつ毛まで真っ白な儚い姿は、雑然としたファストフード店に似合わなすぎて、印象的だった。
ぽつりぽつりと、学生たちが退店していく。テーブルの片付けのために席を回っているその背後で、事件は起きていた。
「ん? オイ、テメェ、東晶だろ。……『病弱』なテメェが、なんでココに居んだ?」
「……あ」
「素行不良の生徒尾行して、教師に売り付けようってか?」
「……っ」
ガラの悪い男子の言葉に、か細い女子の声。
客の観察をまじまじとする訳にはいかないが、その女子の声があの真っ白な子のものであるとすぐに気がついた。もう一人は、同じ中学の男子だ。よくグループで現れては、一人で最後まで残って帰る、トゲトゲ頭の不良生徒。……これは、もしや。
――不良に絡まれてる?
大丈夫かな、と少し心配になる。
だが、「素行不良の生徒を尾行して教師に売り付ける」とは只事ではない。儚げな見た目に反して、かなりアグレッシブなんだな……と思いつつも、店内で恫喝行為など起きないよう、少しだけ大きめに足音を立てて片付ける。
少しの間を置いて、女子が動いた。
「た……立ち話、も、なんだし。席、座ったら?」
「……」
――あ、本当に尾行してたっぽい。
怯えて震えた声は、あからさまに動揺している。ちらりと不良男子の方を見れば、ゴッ、と勢いよくコップをテーブルに置いた。備品を手荒く扱うのはやめて欲しい。
離れた席へ片付けをしに移る。とはいえ、有事の際に動けるように、例の席からは見える範囲だ。
少し遠のくと、女子の声は一気に聞こえなくなる。不良男子の方は明瞭に聞こえていた。声の大きい人ってこういうとき強いよな、とかつい考えてしまう。
だが、徐々に女子の声も、言葉こそ聞き取れないが聞こえてきた。息継ぎなんて忘れたような割れた声に、こっそりと彼女たちの方を覗き見る。
――ふ、不良くんの方が押されてる!?
いつもなんとなく不機嫌そうにしている彼が、目を見開いて固まっていた。
ひとまず恫喝事件はおきなさそう……と思いつつ、不自然にならないようにそっと近寄る。女子の方が何を言っているのか気になってしまった。
「人殺しになりたいなら、止めないけど。できんの? 私、あんたのちっさい爆発で腕が捥げたくらいには脆いけど。――それとももう、忘れちゃった?」
「――っ」
「あんたは器用だから、もしかしたら今度は力加減を間違えないかもね。でも、あんたのツレたちはどう?」
――昼ドラかな? 火曜サスペンスでも見た気がする。
浮気夫に証拠突きつける奥さんとか、兄弟の仇を取る復讐の殺人犯とか、そういうセリフだった。もしくは海外ドラマの自爆テロ。いずれにしても、「女子中学生」と結びつく肩書ではない。
これ、もしかしなくても女子の方がヤバいパターンだったのかな、と思いつつ、近くの席で様子見を続ける。あまりに女子の方の発言が不穏だ。そしてちょっとだけこの先の展開に興味があった。
ヒートアップしていた女子は、男子に向かって好き放題言いたいことを言い放つ。しばらく言い続けてやっと落ち着いたのか、席を立とうとして――男子がそれを止めた。
「…………送ってく」
「……ハァ!?」
男子はそのまま、女子からトレーを奪って片付け、慌てて女子もそれを追い店を出て行ってしまった。嵐のような二人だった。
二人のいた席も片付け終えた女子大生も、カウンターの奥へと帰る。ここのバイトを紹介した先輩が、シフトの確認をしていた。
「……先輩」
「あ、お疲れー」
「お疲れ様です。……今どきの中学生って、恋愛事情もすごいんですね」
「急にどうした」
× × ×
あの一件から、女子の方はもう店に来ないのかと思っていたが、そんなことは全くなかった。
「オニオンフライと、カルピス。Sサイズでお願いします」
「かしこまりました」
――あ、来たんだ。
そういえば今日は、同じ学校のトゲトゲ不良くんがいつものメンツと一緒に来店していた。
今日は大丈夫かな、としばらくしてから席の片付けに向かうと。
「テメェ……、自分の脆さ解ってねェんじゃねーだろーな」
「……、なに。あんた、私のこと守るとかなんとか言ってなかったっけ」
「守られるつもりあんなら相応の態度しろやぁ……!」
「あ、守る気はあったんだ」
――なんか面白いことになってる。
怒りに震えながらも相手を守る発言する不良くん。そしてそれを全力で煽りながら面白おかしく嫌がらせする白い女子。
『中学生の恋愛』という甘酸っぱい単語とはかけ離れた、ビターな関係に落ち着くのかと思いきや、案外不良くんは献身的だったようだ。あんな人を殺してそうな目つきをしておいて。
それから、週に数回は白い女子が不良男子の後から来店し、男子グループが帰ったら不良くんは女子の方の席で駄弁りながら課題を進めるルーティンが出来上がっていった。
「あの白い方の女子、絶対チョロいと思うんですよ」
「客の個人情報に首突っ込むんじゃないよ」
「絶対あの子ツンデレ属性ですって。不良男子の方は明らかに狙ってるし!」
「プライバシーって知ってる?」
こいつ、そういや趣味は恋愛ドラマ鑑賞だった。と、バイト先に二人が来るたびにきゃっきゃと騒ぐ後輩に、先輩は呆れながらも思い出していた。
先輩本人も、あのやたらと印象的な中学生二人組は完全に常連なので、認識してはいるのだが。
「というか、あの子たちって付き合ってないの?」
「ないみたいですねー」
「……なんでそんなに詳しいのかは聞かないからね」
「同じ学校の制服の女子たちが噂してて」
「聞いてないってば」
同じ制服の女子が噂しているのが二人のことだと認識しているということは、あの二人の名前も多分知っているんだろう。
壁に耳あり障子に目ありの耳と目は大体こいつなのかもしれない。噂とは恐ろしいものだ。
「問題は、いつ告るか、ですよ」
「あーうんそーだねー」
「賭けましょう先輩! 私は三年進級時に賭けます!」
「一人でやってなね」
その後、彼女は一人で賭けて一人で負けることになった。
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