2.4 置いていかないで
中学二年の後半になると、総合の時間は来年の修学旅行の準備時間に割り振られる。
行く場所の歴史の調べ物学習やらルートやら班決めやらと、やる事自体は多い。――とはいえ。
「私、修学旅行行かないから、マジで虚無時間なんだけど」
「いつも通りだろーが」
む、と玻璃花が睨む先の爆豪は、時折コーラを飲みながら玻璃花に目も向けず課題を進めている。
いつものファストフード店。
どうにかSバーガーひとつ食べきった玻璃花は、腹の調子が治るまで課題や参考書を粛々と解く爆豪の邪魔をしようと声を掛けたが、どうやら今回は失敗のようだ。だがまだ諦める気はない。
「あんたに愚痴るだけ時間の無駄か」
「愚痴だけ聞かされてどーしろってんだよ」
「適当に相槌打っといて」
「めんどくせぇ……」
「それはよかった」
じゃあ続けるから。と、玻璃花は勝手に話し始める。
普段から不満を爆破している相手と違い、こちらはずっと燻らせているのだ。少しぐらい垂れ流したっていいはず。
「班分けで私呼び出しておいて、勝手に気まずくなるのやめてほしいんだよね。最初から行かないって言ってんのに」
「……」
「担任も担任だけど。『東晶さんは一班に入れてもらって、調査学習は参加しましょうね』って。いまさら仲良しこよしできるとでも? 既に出来上がってるグループに一時加入とか拷問でしかない。挨拶すらしたことない相手にどう会話しろってのよ」
「テメーも態度デカいだろ」
「あんたに比べたらずっとマシ。……待って、私って態度でかいの?」
「俺に喧嘩売る奴の態度がデカくねぇとでも思っとんのか」
言いたいことだけ言って、玻璃花を一瞥もせずサラサラと課題を終わらせていく。
玻璃花はショックを隠せず、頭を抱えてしまった。
「――今から私、責任転嫁するから」
「は?」
「バカ爆豪をずっと見てたせいでバカがうつったんだけど。どうしてくれんのよ」
「知るか、バカはお前だ」
「だって私、あんた以外とこんな長時間会話したことなんてないし!」
そうだろうなとは爆豪も感じていたが、爆豪が別に何かする必要もない。
「野良に人の言葉思い出させてやってんだ。感謝しろや」
「誰が野良だ」
「野良だろ。人間の」
「……捨てられてないし」
人間の、と付けられたということは、爆豪は玻璃花を愛玩動物かなにかと勘違いしているんじゃなかろうか。
じぃ……っと睨んでも、もう少しで完了する課題から爆豪が視線を上げる様子はない。
気を取り直し、玻璃花は自分の溜めすぎた愚痴に戻る。
「……調べ物学習も、なんで全部パワポで発表なの? 百歩譲って、私以外が使うならまだわかる。けどなんで私も発表する前提で組んでるの? ってかなんでタイピング遅いの。フリック入力しかできないって何。舐めてんの?」
「時代遅れのガラケー使用者には荷が重てぇみてーだな」
「使いたくて使ってるわけじゃないし。液晶だと反応しないって前言った気がするんだけど。なに?あんたもフリック入力しかできないの?」
「できねーわけねーだろ」
「そういえばめっちゃ器用だったわこいつ」
はーやだやだ。面倒そうに首を振る玻璃花に、課題を終わらせた爆豪が視線を向ける。
玻璃花のコップはとうに空になっていて、本人も暇そうに椅子の下で足をぶらつかせていた。
「……そろそろ帰るか」
「あ、もう終わったの? 今日の数学の課題、やたらと文章問題多かったから、ずっと話しかけてたのに。妨害し甲斐ないなぁ」
「頭の作りがちげぇんだよバーカ」
爆豪の小馬鹿にした笑顔に、玻璃花は眉を寄せるが、爆豪の頭が良いのは否定しなかった。
課題をしまい始める爆豪を尻目に、玻璃花がテーブルを片付ける。数ヶ月同じやり取りをしているだけあって、自然と役割分担ができてしまっていた。
「京都かー。行ってみたい」
「無理だろ」
「希望言うだけタダじゃん。……別に、あんたに何か期待してるわけでも無いし」
「……」
店を出てからもずっと修学旅行について言う姿を、爆豪がちらりと見ていたことを、玻璃花は知らない。
× × ×
「ん」
「え、なにこれ」
数ヶ月後。
予定通り京都の二泊三日の修学旅行から帰ってきた爆豪は、いつものボックス席で紙袋を玻璃花に押し付けた。土産物にしては重い気がする。
「お土産? 食べ物じゃ無いよね」
「生八ツ橋あるから腐る前に食え」
「えっ、本当にお土産!? あんたが!?」
いそいそと紙袋の中身を見れば、言った通りの生八ツ橋に、抹茶と紅茶のパック、胡粉ネイルも入っていた。
「あ、胡粉ネイルだ。欲しかったやつ……え、マジであんたが買ったの?」
「フン」
「買ったんだ……その凶悪な顔で……。店員さん怖がらせなかった?」
「いらねぇなら返せ」
「爆豪が胡粉ネイル使ってるところ見せてくれるなら返してあげる」
チッ! と、盛大な舌打ちをする爆豪に、玻璃花はクスクス笑った。
「冗談。――ま、ありがたく受け取っておくわ」
「おう」
「どうしよっかな……、胡粉ネイル、やってみたかったんだよね。上手くできたら写真送るわ」
「いらねー」
「送りつけるわ」
ひび割れた眼差しを和らげて、胡粉ネイルを並べる玻璃花を眺める。「勝手にしろ」と言いながら、爆豪は自分自身の視線も柔いものになっていることに、気がつくことはなかった。
行く場所の歴史の調べ物学習やらルートやら班決めやらと、やる事自体は多い。――とはいえ。
「私、修学旅行行かないから、マジで虚無時間なんだけど」
「いつも通りだろーが」
む、と玻璃花が睨む先の爆豪は、時折コーラを飲みながら玻璃花に目も向けず課題を進めている。
いつものファストフード店。
どうにかSバーガーひとつ食べきった玻璃花は、腹の調子が治るまで課題や参考書を粛々と解く爆豪の邪魔をしようと声を掛けたが、どうやら今回は失敗のようだ。だがまだ諦める気はない。
「あんたに愚痴るだけ時間の無駄か」
「愚痴だけ聞かされてどーしろってんだよ」
「適当に相槌打っといて」
「めんどくせぇ……」
「それはよかった」
じゃあ続けるから。と、玻璃花は勝手に話し始める。
普段から不満を爆破している相手と違い、こちらはずっと燻らせているのだ。少しぐらい垂れ流したっていいはず。
「班分けで私呼び出しておいて、勝手に気まずくなるのやめてほしいんだよね。最初から行かないって言ってんのに」
「……」
「担任も担任だけど。『東晶さんは一班に入れてもらって、調査学習は参加しましょうね』って。いまさら仲良しこよしできるとでも? 既に出来上がってるグループに一時加入とか拷問でしかない。挨拶すらしたことない相手にどう会話しろってのよ」
「テメーも態度デカいだろ」
「あんたに比べたらずっとマシ。……待って、私って態度でかいの?」
「俺に喧嘩売る奴の態度がデカくねぇとでも思っとんのか」
言いたいことだけ言って、玻璃花を一瞥もせずサラサラと課題を終わらせていく。
玻璃花はショックを隠せず、頭を抱えてしまった。
「――今から私、責任転嫁するから」
「は?」
「バカ爆豪をずっと見てたせいでバカがうつったんだけど。どうしてくれんのよ」
「知るか、バカはお前だ」
「だって私、あんた以外とこんな長時間会話したことなんてないし!」
そうだろうなとは爆豪も感じていたが、爆豪が別に何かする必要もない。
「野良に人の言葉思い出させてやってんだ。感謝しろや」
「誰が野良だ」
「野良だろ。人間の」
「……捨てられてないし」
人間の、と付けられたということは、爆豪は玻璃花を愛玩動物かなにかと勘違いしているんじゃなかろうか。
じぃ……っと睨んでも、もう少しで完了する課題から爆豪が視線を上げる様子はない。
気を取り直し、玻璃花は自分の溜めすぎた愚痴に戻る。
「……調べ物学習も、なんで全部パワポで発表なの? 百歩譲って、私以外が使うならまだわかる。けどなんで私も発表する前提で組んでるの? ってかなんでタイピング遅いの。フリック入力しかできないって何。舐めてんの?」
「時代遅れのガラケー使用者には荷が重てぇみてーだな」
「使いたくて使ってるわけじゃないし。液晶だと反応しないって前言った気がするんだけど。なに?あんたもフリック入力しかできないの?」
「できねーわけねーだろ」
「そういえばめっちゃ器用だったわこいつ」
はーやだやだ。面倒そうに首を振る玻璃花に、課題を終わらせた爆豪が視線を向ける。
玻璃花のコップはとうに空になっていて、本人も暇そうに椅子の下で足をぶらつかせていた。
「……そろそろ帰るか」
「あ、もう終わったの? 今日の数学の課題、やたらと文章問題多かったから、ずっと話しかけてたのに。妨害し甲斐ないなぁ」
「頭の作りがちげぇんだよバーカ」
爆豪の小馬鹿にした笑顔に、玻璃花は眉を寄せるが、爆豪の頭が良いのは否定しなかった。
課題をしまい始める爆豪を尻目に、玻璃花がテーブルを片付ける。数ヶ月同じやり取りをしているだけあって、自然と役割分担ができてしまっていた。
「京都かー。行ってみたい」
「無理だろ」
「希望言うだけタダじゃん。……別に、あんたに何か期待してるわけでも無いし」
「……」
店を出てからもずっと修学旅行について言う姿を、爆豪がちらりと見ていたことを、玻璃花は知らない。
× × ×
「ん」
「え、なにこれ」
数ヶ月後。
予定通り京都の二泊三日の修学旅行から帰ってきた爆豪は、いつものボックス席で紙袋を玻璃花に押し付けた。土産物にしては重い気がする。
「お土産? 食べ物じゃ無いよね」
「生八ツ橋あるから腐る前に食え」
「えっ、本当にお土産!? あんたが!?」
いそいそと紙袋の中身を見れば、言った通りの生八ツ橋に、抹茶と紅茶のパック、胡粉ネイルも入っていた。
「あ、胡粉ネイルだ。欲しかったやつ……え、マジであんたが買ったの?」
「フン」
「買ったんだ……その凶悪な顔で……。店員さん怖がらせなかった?」
「いらねぇなら返せ」
「爆豪が胡粉ネイル使ってるところ見せてくれるなら返してあげる」
チッ! と、盛大な舌打ちをする爆豪に、玻璃花はクスクス笑った。
「冗談。――ま、ありがたく受け取っておくわ」
「おう」
「どうしよっかな……、胡粉ネイル、やってみたかったんだよね。上手くできたら写真送るわ」
「いらねー」
「送りつけるわ」
ひび割れた眼差しを和らげて、胡粉ネイルを並べる玻璃花を眺める。「勝手にしろ」と言いながら、爆豪は自分自身の視線も柔いものになっていることに、気がつくことはなかった。
