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2.1 諦めて受け入れて

 中学一年生の冬。爆豪と玻璃花が教室で盛大に火花を散らした、次の日。

「……ンでいんだよ」
「あ、爆豪くん、お疲れ様〜。今日の解散は早かったね?」

 ファストフード店のボックス席。最初に玻璃花が爆豪に見つかったそこで、玻璃花は堂々と居座っていた。
 爆豪にとっては憎たらしいことに、前回と同じくしっかりとカメラもセットしている。しかも今回は隠す素振りも見せてはいなかった。

「答えろやビー玉女ァ」
「ビー玉女(笑)」

 んふふ、とわざとらしい含み笑いで答えると、カメラを仕舞った。

「なんでって、この前言ったじゃん。あんたの不良行為の記念アルバムを合格後に高校へ送ってあげる為だよ。あ、もしかして忘れちゃった? テストの成績はいいけど、他人には興味なさそうだもんね〜」
「忘れるわけねーだろボケカス。こないだ散々表で暴れておいて、ここで顔見せんなっつってんだよ。テメーの言ったこと覚えてねェとは随分スカッスカな脳味噌してんなぁ?」
「暴れたつもりなんてないけどなぁ。私は席を返してもらって、あんたはそれを咎めた。で? それがどうしたっていうの?」
「テメェ……、自分の脆さ解ってねェんじゃねーだろーな」

 テーブルに手を付いて、目をくわっと開いた爆豪が玻璃花に低い声を浴びせた。
 明るいはずの店内で、そこの席だけ空気が重くなる。ばち、と視線のかち合った先で、先に玻璃花が目を逸らした。

「……、なに。あんた、私のこと守るとかなんとか言ってなかったっけ」
「守られるつもりあんなら相応の態度しろやぁ……!」
「あ、守る気はあったんだ」

 とりあえず座ったら? と、玻璃花が向かいの席を指せば、爆豪は嫌そうに荷物をこちらの席へと移した。なんだかんだ律儀だ。

「……で。相応の態度って、なに?」
「あ”ぁ!? んなこと説明しなくても分かれや!」
「誰も彼もあんた基準に動いてると思わないでくれる? 分かんないから聞いてあげてるんだけど」

 呆れて頬杖をつく玻璃花に、爆豪は至極面倒そうな重いため息をついて見せた。

「まず、表で俺らに不用意に近づくな」
「表っていうのは学校でのこと? ここも含むの?」
「ここも来んな」
「え〜」

 せっかく見つけた隠し撮りスポットなのに、と口を尖らせる玻璃花に、爆豪が盛大な舌打ちで返す。

「大体、てめー毎日終礼前に帰ってんだろ。他にやることねーのか」
「ない」
「即答してんじゃねェよ」

 どうでもよさそうに爆豪を見る玻璃花に、爆豪は苦虫を噛み潰した顔になった。イライラと貧乏ゆすりをする姿に、にやりと玻璃花の口角が上がる。

「――何笑っとんだテメェ」
「爆豪くん、嫌そうで楽しいなぁと思って」
「キッショ」

 盛大に顔を歪めた爆豪に、玻璃花の笑みはさらに深くなった。

「そっか〜。爆豪くん、私が人前で近づくの嫌なんだぁ。へぇ〜」
「テメェが! 割れねぇように! 言ってんだ!」
「……ちっ」

 うざったい絡みをしてくる玻璃花でも、正論で押し込めば一応黙ると爆豪は学んだ。とはいえ。

「つか、そのくん呼びやめろ、キモい」
「女子に向かって『キモい』はあまりにもデリカシーと語彙が終わりすぎでしょ。……じゃあ、かっちゃん?」
「それだけはガチでやめろ」
「注文多くない? ……じゃあ爆豪、で」

 少し気恥ずかしそうに、そう呼んだ。「ん」と、納得したように頷く爆豪に、今度は玻璃花がげんなりする番だった。

「……モラハラとか亭主関白って言葉が本当に似合うよね、あんたって。中学生にしてそれとか、私が手出ししなくても勝手に自分で評判落としてそう」
「俺の言うこと聞かねぇからだろ」
「そういうところ。中学生でその倫理観なの、自尊心がエベレストでしょ。落ちて破滅すればいいのに」
「フン。俺が落ちるわけねーだろ」

 折れることのない不遜な態度に、玻璃花はやれやれと苦笑して水を一口飲み込んだ。

「だいぶ脱線したけど。他にもあるの? 『相応の態度』って」
「あー……、もう少し大人しくしてろっつったって、テメーにゃ無理だろ」
「そう? じっとしてるのは得意だけど」
「じゃーぁ大人しく引きこもってろや!」
「やだ。嫌がらせできなくなっちゃうじゃん」
「性根腐りきっとんのか」
「そうですけど?」

 にこにこと実に楽しそうな玻璃花。爆豪は呆れとも諦めともつかない溜息をついて、ギロリと睨む。
 玻璃花が開き直るとタチが悪いことを、この数日間で爆豪は嫌というほど理解させられた。

「……仕方ねぇから、もうテメーは好きにしとけや」
「言われずとも」

 今日のところは爆豪が折れて、帰宅することになった。
 バスから降りても、ずっと爆豪は「店には来んな」と念押ししたが、きっと聞き入れられないだろうとは予想していた。

 ――それにしたって。

「昨日の今日で来てんじゃねーよ……!」
「ん?」

 次の日、また件のファストフード店にて。
 前回、前々回と同じ席に玻璃花は座っていた。

「あ。爆豪くんお疲れ様〜」
「"くん"付けやめろ」
「はいはい」

 涼しい表情で水を飲む玻璃花に、爆豪は諦めという言葉を知った。
 これからほとんど毎週のように、この席で駄弁るようになるだなんて、このとき二人は考えてもいなかった。

「座れば?」
「クソが」
「返事の代わりに相手貶すのやめな?」
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