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2.5 私にも食べさせて

⚠️過去捏造注意
時系列:小学校低学年→中三の一学期(緑谷に発見されたあたり)




 小学校低学年の男児の脳に、配慮という言葉はない。
 気になったら問いかけ、気に入らなかったら暴れ、楽しそうなら走り回る。

 そんな生き物の前に、普段見ない大人しそうな同級生が現れたらどうなるのか。

「なぁオイ、てめー誰だよ。隣の組のヤツか? なんでそこの席座ってんだよ。そこ、休んでるヤツの席だぞ。てか、なんで顔トーメーなんだ? 『個性』か?」
「ぇ、えっと……」

 当然、興味津々に詰め寄られる。
 しどろもどろになる少女に近づく爆豪は、好奇心で瞳を輝かせていた。が、あと一歩のところでその歩みは教師に遮られた。

「こーら、勝己くん。灰田はいださんは人見知りだから、あんまりグイグイ行かないの。……ほら、灰田さんも、挨拶して?」
「ぁ、ぅん、はい……、と、灰田、玻璃花です。えっと……体が透明なのは、『個性』がガラスだからで……」
「灰田さんは、勝己くんと同じ、ここのクラスの子なんだけどね。身体が弱くて、ずっとお休みしてたの。ここは灰田さんのための席なのよ」

 明らかに人との会話に慣れていない玻璃花の言葉を、担任が引き継いだ。縮こまって透明なツインテールで顔を隠す少女を、爆豪はじっと観察する。

「んじゃ、テメェもオレの手下だな!」
「手下じゃなくてお友達、でしょ」
「て、てした?」

 初めて聞いた言葉に首を傾げる玻璃花。そんなことは気にも止めず、この学年で一番頭の回るガキ大将はニッカリと笑った。

「オマエもオレの手下になるんなら、オレがめんどー見てやるよ」
「えっと……、よ、よろしく、おねがい、します?」

 そうして、玻璃花はこのクラスの一員として爆豪に無事認められたのだった。

 とはいえ、玻璃花が学校に来られる日はそう多くない。『個性』由来での体調不良は一人ひとり違うものであり、その対処法まで完全に確立しているとは言い難かった。

「かっちゃん……、ごめんね、あんまり遊べなくて……」

 休み時間が終わり、十分の中で思う存分追いかけっこを楽しんできた爆豪に、隣の玻璃花が謝った。

「はぁ? 別にオマエ居なくても鬼ごっこできるし。つーか居ない方が多いじゃん。最初からオマエの数入れてねェよ」
「そ……そっか」

 か細い声が、更にか細くなった。
 変なことを言うヤツだ。爆豪が玻璃花の面倒を見ると言ったのは、別に玻璃花のためじゃない。そっちの方が、自分の手下が増えて褒められるからだ。褒められるのは気分が良い。

 現に、色々制約のある玻璃花をそこそこに気にかける爆豪は、夏休みの通知表でも「面倒見が良い」と書かれるほどだった。
 実際は適当なところに玻璃花だけ置いて自分は自由に遊べるのだから、割りのいい仕事だ。

 その点数稼ぎ用の手下から信頼されないと、都合が悪い。
 何か言いたそうにモゴモゴ口を動かす玻璃花に、爆豪は苛立ちのまま言葉をぶつけた。

「言いたいことあんだったら言えや、わかんねーんだよアホ」
「ぅ……」

 透明な玻璃花の表情は少しわかりにくいが、ただでさえ小さいのがさらに小さくなった気がした。仕方なく席に近付いて、か細い声を聞き取る。

「わ……私も、遊びたい」
「ムリだろ」
「ぅぅ……」

 そんなことをわざわざ言おうとしていたのか。呆れた爆豪の関心は即座に玻璃花から離れ、チャイムと共にその会話は爆豪の中からはすっかり抜け落ちてしまっていた。

 × × ×

 昼休み。
 給食をほとんど食べ終えていた爆豪は、デザートのいちご杏仁豆腐を恨めしく睨んでいた。

 いちごの甘いのは、あまり好きじゃない。しかも杏仁豆腐は薬臭く感じて、尚のこと苦手だった。けれど、完食できないのもカッコわるい。鼻を摘んで一気に飲み込もうかと悩んでいると、隣の玻璃花が微かに爆豪の袖に触れた。

「なんだよ」
「あ、のね……」

 玻璃花の方を見れば、また言い淀む。イラっとはしたが、今度はすぐに言葉が聞き取れた。

「その、杏仁豆腐……私も、食べたいの」

 玻璃花の机には、給食の味噌汁と牛乳、家から持ってきたお粥だけが置かれていた。

「だめかな……?」
「――仕方ねーなぁ」

 ほ、と玻璃花が胸を撫で下ろす姿を傍目に、爆豪は上機嫌で器ごと玻璃花に渡す。教師が満足そうに笑っていた。

 玻璃花はプラスチックの小さなスプーンで、ちまちま杏仁豆腐を食べ出す。
 つるりと赤いいちごソースが玻璃花の喉を滑り落ちていく様子が透けて見え、ふと爆豪は興味を持った。

「オマエ、食ってるもんがのど通るの見えるんだな」
「……え?」
「口入ったやつ、のど通ってんの全部みえてる。ガラスだからか?」

 指摘した途端、玻璃花はパッとツインテールで顔と首を覆った。

「み、見ないで……」
「なんでだよ」
「……はずかしい、から」
「つまんねーの」

 ツインテールを顔から離さなくなってしまった玻璃花に呆れて、爆豪は給食のトレーをさっさと片付けてしまうと、また校庭へとクラスメイトを伴って駆け出した。
 取り残された玻璃花がどうなったのかなんて、気にも留めずに。


 ――今思い返せば、あのときの玻璃花は自分のご機嫌取りをしていたのだろう。と、コンビニで買ったからあげを玻璃花に押しつけながら爆豪は考えていた。

 いつも通り「食えや」「いやだ」の応酬は長くは続かず、爆豪が食べ始めると玻璃花も吊られて食べ始める。

 今もバーガーセットでさえ食べきれない玻璃花が、小学生の頃にあの量を食いきれたとは思えない。

「……もう苦しいんだけど。夕飯これからだし、食べらんない」
「あ? なに押しつけてんだテメェで持ち帰れ」
「あんたまだ食べるじゃん絶対。食べてよ」

 けれど、あのときのような変な気の使われ方をするよりも、今の方の玻璃花を相手する方がよほど気が楽なのは、確かだった。
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