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2.2 噛んで飲み込んで平らげて

時系列:中一〜中二の春休み



 玻璃花は人前であまり食べたがらない。爆豪がそれに気がついたのは、中学二年生になる前の春休みだった。

「食えや!」
「ぜーったい、イヤ。持ち帰って食べるから」
「俺の奢ったもん捨てたらぶちのめす」
「私のことなんだと思ってんの」
「嫌がらせ特攻女」
「……否定はしない」

 いつものファストフード店の、イートインスペースにて。
 強気な態度の爆豪を、苦々しく玻璃花は睨んだ。
 最近ちょくちょく関わりを持つようになったこの男は、玻璃花に何かとものを食べさせようとする。

 玻璃花が基本水しか摂取しないのに、気が付かれたんだろう。
 コンビニでは白湯かミネラルウォーター、ファストフード店のイートインではお冷とオニオンリング(たまにカルピス)だけ頼んで、丁寧に衣を剥がして食べている。
 だから、さっき押し付けられたハンバーガーも、もちろん無理。

「何が目的? そっちこそ嫌がらせ?」
「ンなわけねェだろ。テメェと一緒にすんな」
「じゃあなに」
「食えねえワケじゃねーんだろ。食ってるとこ羨ましそうにジロジロ見やがって、いい加減ウゼェんだよボケが」
「ぅ……」

 やっぱり、気が付かれていた。
 図星を突かれて視線を泳がせる玻璃花を、爆豪は鼻で笑う。

「腹減ってんだったら食えや」
「や……やだ」
「往生際悪ィ。テメェが何食ってようがこっちは気にしねェんだよ。ジロジロ見られながら食う方がキモいわ」
「ぅ……、だ、だって」
「あ"?」

 口を尖らせて、珍しく弱気に眉を下げる。殊勝なその態度に爆豪は片眉を上げた。

「だって、み、見えちゃう、から。……食べてるもの」

 渋々と白状した玻璃花曰く。
 玻璃花の身体は全身がガラスでできているために、色の付いたものを食べると、咀嚼している顎から飲み込む喉まで透けてしまうのだそうだ。そして、それを恥ずかしがっている、と。
 
「ぁあ"? めんどくせぇな。知るか」
「……まあ、アンタは多分そう言う気がしてた。マジでデリカシー無さすぎる。あと私、柔らかいのしか食べられないの。関節割れやすいから」
「それを先に言えやアホが」

 お姫様のようなわがままてんこ盛りだが、硬いもの食わせたら顎が割れそうだな、とは爆豪も感じていた。だからもう一個頼んだバーガーは、普段なら絶対に食べないエッグマフィンにしたのだ。
 いつまで経ってもバーガーに手を付けない玻璃花をひと睨みして、爆豪はスパイシーチキンバーガーにかぶりついた。……羨ましそうな視線が刺さる。

「食 え や!」
「うううぅ……」

 威嚇というより、恨みがましそうな呻き声。
 またひと睨みすれば、おずおずと手袋に包まれた指がハンバーガーに伸びてきた。
 憎々しく爆豪を睨みながらも、空腹であったことは事実なのだろう。身体は正直だった。

 右手でそっと包みを持ち上げ、力の入らない左手で紙を退ける。背を丸め、栗鼠のようになって――ようやく一口、バーガーを齧った。

「……おいし」

 チラリとだけそちらを見て、爆豪は何を言うでもなくまた自分の食事に意識を向ける。

 爆豪のより玻璃花のバーガーのサイズは小さいが、玻璃花の手に収まりきらない大きさだった。包み紙を捲る音はしているから、食べ進んではいるのだろうが……と、食べ終えたバーガーから視線を外して、また玻璃花の方を確認した。

 ああなるほどな、と、爆豪は玻璃花が恥ずかしがっていた理由を今になってやっと理解する。
 磨りガラスの頬の内側で、色のある食べ物が顎を動かすたび押しつぶされる様子がぼんやり透けていた。
 ちまちま咀嚼しているのが、頬の内に動く黄色と白で見て取れる。こくんと喉が上下すれば、一列の淡い色彩が喉を通っていった。襟の下へと消えていく色の列に、嫌でもその服の下を想起させられ……。

「……ちょっと」
「あ?」

 玻璃花に呼ばれて顔に視線を戻せば、眉を吊り上げてこちらを睨む玻璃花と目が合った。いつもであれば睨み合うが、今回ばかりは目を逸らした。

「なに見てんの?」
「……お前」
「そうだけどそうじゃない。ねぇやっぱり食べるとこ見てたでしょ、おいコラこっち見なさいよ無視すんなバカ!」

 何事も無かったようにポテトを貪りだした爆豪へ、玻璃花はまたキィキィと喚いたが、全てスルーされてしまう。

 食べかけのバーガーとシラを切り通す爆豪を見比べて、仕方なく、本当に仕方なく、玻璃花はまたちびちびとバーガーを食べることにした。一度動いてしまった食欲は止めることが難しい。何よりエッグマフィンバーガーがこんなに美味しいのが悪い。

 ――結局、玻璃花はエッグマフィンバーガーをまるっと一個食べきった。とはいえ普段からそんなに食べない玻璃花にとっては、一個で一食分に相当する量だ。
 苦しそうに座席に凭れていると、爆豪が立ち上がった。

「……そろそろ帰んぞ」

 外はもう、だいぶ暗くなっている。爆豪一人ならもう少し長居するところだが、玻璃花に夜道を歩かせるのは危険だと、いつも日が落ち切る前に送っていた。それにずっと向かい合っているのが、今日ばかりは少し居心地悪い。
 ――だが。

「待っ……、待って。お、なか、重い」
「ハァ? ……チッ」

 トレーを片付けて、水だけ席に持ち帰る。空いたスペースに課題を広げ始めた爆豪を、苦しそうな玻璃花が眺めた。
 久しぶりに「満腹感」を覚えたけれど、割と悪いものじゃないな、などと考えながら。

「……今度から、Sサイズの単品にして」
「テメェで勝手に頼めや」
「あとポテトはしなしなになってるのがいい」
「だからテメェでやれ」
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