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文アル

胸元に刃の花が咲いた。どうして、とは言えなかった。吐き出した血の色は洋墨の黒だった。
「かわ……ば、た」
背後の友の名前を呼んだ。視界の端で捉えた彼のうつくしいかんばせは、黒く濡れていた。

「利一……ごめんなさい、……。」

彼はその刃を引き抜いた。一層血が吹き上がった。支えるものが無くなって、仰向きに倒れた。彼はひどく狼狽して、わたしの方に駆け寄ってきた。
「利一、ああ、血が、ごめんなさい、わたしが、わたしが。」
「しん、ぱ、い……、っ、する、な。」
「痛いのに、もう話さないでください、ごめんなさい、ごめんさい……。」
心配させまいと頭を撫でようとした、白色の髪が黒く染まった。あとで頭を撫でるのは子供みたいだと思った。川端は、怒るだろうか。

「ああ……。」

……死んでしまうのだろうな。
わたしの指先は、すでに侵蝕者のものに変質していた。絶筆したはずだったのに、死なずにこうなってしまった。あと少し遅ければ、わたしは。

「わたしはあなたを、殺め、殺めて」
「あなた、は、文学てまえを、守った。」
「わたしは、またあなたの亡骸を前に、長生きせねばならないのです……?」
「い、じょぶだ。手前は、いつ、も、かわばたの……、かはッ、ぁ」
「利一!」
「あなた、の、側にいる。から……。……。」
「……利一?」
言葉が出なくなった。口にべったりとついた血が乾き始めていた。
「嫌、応えてください、お願いします!」
彼が、呼びかけているのに、泣いているのに、返事を返してやれないことだけが嫌だった。泣き濡れた川端の姿も、欠けてきた。

滲んだ視界で雲を見ると、空に飛行機が、飛んでいるように、見えて、愉快になった。
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