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Fate

 構成物質、塩基配列、以前のものを保持。デイビット・ゼム・ヴォイドの肉体は紛れもなく人類だった。

「だから宇宙服が必要なんだな」

 きらきら燃え盛る星々と青く大きく生命のひしめく惑星とデイビットに合わせてヒトガタを取ってくれたテスカトリポカがデイビットの瞳に映る。生身で宇宙空間に投げ出されたテスカトリポカの肉体の内側では蛋白質と脂質の形をしたエーテルが凍りつくことなく蠢いている。白く生木のような五指がデイビットのヘルメットを撫でた。

「どうしたんだ」
「オマエがクソ真面目に生き延びる準備をしているのが新鮮なのさ」
「そうか?」
「そうとも。なにせあの頃のオマエはいつだって躊躇わなかった。
 ……流石に異星の神の心臓をぶち込むなんて言われた日にゃ、臓腑もヒトじゃないのかと疑いたくなったが」

 確かにデイビットがテスカトリポカと共に地球で活動したあの一年間、デイビットは命をリソースにして使い潰して走り抜けた。あの時は、ORTの起動さえ確定するならば自身にそれから先の時間は必要ないと判断したまでだ。

「そうそう、まさか忘れ物は無いよな? デイビット。今なら……まあ、存在強度二割を使えば取りに戻れるが」
「問題ない。必要物資と予備の酸素は十五次元の破れ目に仕舞ってある。
 おまえの存在補強用の信仰心も冷凍処理してある」

 デイビットは瞬きほどの一瞬、過去に思いを馳せる。酸素はともかく信仰心は大変だった。あちこちの時代で国を興しては生贄をごろごろと捧げさせたり戦争を起こしては血を集めた。物質化させた上での長期保存用処理もそこそこ面倒だったが、おかげでフルスペックで神霊をやっても向こう千年は保ちそうなくらいのストックがある。

「そいつは結構。いかなる形でも捧げられた時間と血は拝領しよう」

 だとしても、宇宙の広大な暗闇を往くにはまだ頼りない。

「資源は有限だ、プラン通り途中で文明を興せる惑星を見つける。ひとまずベガへ向かおう。借宿だ」
「その後はオマエのナビ次第ってワケだ。頼りにしてるぜ、相棒」
「ああ。任せてくれ」

 デイビットの瞳の中では未知の領域へ足を踏み入れる緊張感と一欠片の冒険心と届かないはずの召喚にただ一人応答した神様がきらめいている。細い金髪は太陽光に透けて無重力に揺れている。
 テスカトリポカは笑って、元マスターに手を差し出した。デイビットはその手を取った。分厚い防護層越しに人より体温の低い手を握る。
 最後のクリプターもとい地球文明観測用端末デイビットと、あの日喚ばれたサーヴァントもとい太陽系外踏査用分霊テスカトリポカは、地球の周回軌道上から離れる。

 計測上140億光年以上先、宇宙の起源たる大爆発の向こう、宇宙にただ一人の生命の始点と終点を目指して。
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