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Fate

 お荷物が届いています。
 お届け先第七異聞帯超大陸パンゲアミクトラン第五層メヒコシティデイビットゼムヴォイド様。ご住所宇宙外ビッグバン近郊暗黒星仮名天使。運送会社暗黒星宅配便。品名なまもの。置き配。頼んだ覚えはない。
「オマエ21世紀の人間だろ、クーリングオフ制度は知ってるよな?」
「残念だが法律も白紙化されているんだテスカトリポカ」
 ダンボールは長辺およそ2メートル。天地無用。その場で開けることにした。外宇宙ダンボールなんてどんな虫がついているか知れたもんじゃないから部屋に入れないほうがいい。「もっと他に気にするトコあるだろ」。
 デイビットはガムテープの封を切り開いた。すうっと、開胸手術のように静かに。
「……マジか」
 箱の中身はヒトだった。
 緩衝材ポップコーンにくるまれてヒトが眠っている。人形みたいに眠っている。デイビットと同じ顔をしてデイビットが着ている服を着て眠っている。
 ……つまりデイビット・レプリケーション。
「あっ」
「起きたな」
 受取人たちの当惑をよそに、ヒトは目を開けた。ヒトはむくりと身を起こして、紫色の目でしばらくじーっとテスカトリポカとデイビットを見た。
「状況は把握した」
「オレも把握した」
 そして全て理解したらしい。余談ではあるが、どっちがどっちの台詞を喋ったのか、テスカトリポカは一瞬わからなかった。
「悪いがテスカトリポカ」
 今喋ったのはデイビットだ。唇が動くのをしっかり見た。
「今日の5分はこの事態の処理で終わると思う」
 この言葉を天才と神霊以外向けに翻訳するとつまり、デイビットの5分ぶんの働きを代わりにしろと。全能神を相手に!
「いいや、それはオマエがやるべきことだ」
「試練か?」
「ンー、だいたいそうだ」
 はじめて喚んだサーヴァントにテンション上がるのはいいが、甘えるのは駄目だ。できるにはできるが、何なら余裕でこなせるが、惑星を破壊する心づもりならこのくらいのトラブルは獅子のようにヒョイっと超えてきてもらわなければ。
「わかった」
 返事したのはまたデイビットのほうだった。ヒトはうんともすんとも言わない。会話は全てデイビットに一任するつもりだろうか。テスカトリポカの視線に察したデイビットが口を開いた。
「同じ指定を持っているなら、どちらが話してどちらが考えても同じことだ」
 なるほど、効率的。ぶつかってこだまするデイビットの声は永遠に存在しない。
「この件についての処理は既に決定した。5分の埋め合わせの目処も立った」
「よし。うまくやれよ、デイビット」
 テスカトリポカは予定通り、今日も惑星破壊計画を進めることにした。真面目に。



 テスカトリポカが様子を見にくると、死体が倒れていた。
「コピーアンドペーストではなく、カットアンドペーストだった」
 デイビットはテスカトリポカを一瞥もせず、真新しい血のついたナイフを死体の服で拭いながら言った。
「オレとオレが同時に存在すると、それぞれスペックが1/2になることがわかった。この状態では計画に支障が出ると意見が一致した」
 つまり総意で合意だ。
「個体として同一なのに、わざわざ一致したと言うのも妙だが」
 死体は生きているほうのデイビットと同じ顔をしてデイビットが着ている服を着て死んでいる。抵抗の形跡は全くなく、心臓が真っ直ぐ貫かれている。戦死でも生贄でもない。おいしくなさそう。
 死体の令呪を見る。おんなじ、二画残ってる。まだ濁っていない目はまんまるに見開かれている。デイビットが目をまんまるにしてテスカトリポカを見る。
 ……こんな憶測をした。沼男の沼男、デイビット五分前仮説、エトセトラ。
「テスカトリポカ」
「そこには意味がない、なぜなら何も違わない、だろ?」
 曰く。デイビットを定義するもの。記録、冠位指定、以上。荷物を厳選しているのはいいことだ。
「で。コイツはどうする?」
 テスカトリポカは青ざめはじめた死体を指差す。それはさしずめ放棄されたマクガフィン。ちなみに動機は考えても無意味。外宇宙流思考回路など理解したところでひとつも役に立たない。
「それについては、もう決めている」
 デイビットの片目がソラの燐光の明滅と同期してゆらりゆらりと揺れながら。
「オレはまだ元に戻っていない」
「統合する必要がある」、と。
 分かたれたものを統合する最も普遍的な手段の一つ。物語的に、魔術的に。つまり。
「テスカトリポカ。解体を手伝ってくれないか」

 本日のディナー。テスカトリポカ直伝人体フルコースとポップコーン塩味。
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