Lady PRIDE
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「御国、先にお風呂上がったわよ。温かい内に入りなさい」
「ん。って珍しいね、髪乾かしてないの?」
「後で乾かすわ。それよりケータイ貸して! 見逃した番組を見なくちゃ」
用事を終えて宿泊先のホテルに戻った御国が欠伸を噛み殺しながらニュースを何気なく流し見していると、浴室から小走りで駆け寄ってきたシャーロットが隣のソファーに座った。座るというよりは飛び乗るに近い勢いで、きしと軽いが勢いのついた重量に対してスプリングが僅かに軋む。僅かに驚いた様子の御国はただならぬ彼女の様子に特に言及する事は無く、素直に自身の携帯を与えた。
いつもはふわふわと揺れている髪も入浴後は当然の如く、ぺしゃりと萎れていてその首元を濡らしていた。いつもは淑女、淑女と言う癖にこんな姿のどこが淑女か。そんなに慌てるような事があったかなと思いながら、御国はソファーから立ち上がる。シャーロットが携帯で開くページは動画サイトで何か配信中の動画を捜しているようだ。
「何か見てるのあったっけ。今日日曜だよ?」
「日曜だからじゃない。本当はテレビで見ようと思ってたのに朝から外出なんて想定外よ、全く」
確かに今日は朝早くから出て夜まで外で用事を済ませていたが、元より余りテレビを見る方ではないシャーロットのはずが、用事が終わるなり早く帰ろうと言い出し、帰ったらすぐに風呂に入って現在に至る。
不服げな様子で頬を少し膨らませるシャーロットに御国はまた疑問符を浮かべながらも、浴室の方まで歩きドライヤーをとって戻ってきた。背後から覗き込めば携帯を横にして、熱心にシャーロットが見ているのは可愛らしい絵柄の少女がきらきらとフリフリの衣装をまとって戦う日曜朝の子供向けアニメだ。……ああ、と心の中で納得しながらドライヤーをコンセントに繋ぎ、電源を入れる。
「……御国、」
ゴォーとドライヤーから聞こえる音にシャーロットは顔を僅かにしかめて後ろを振り返った。うるさい、と言いたいんだろう。御国は薄く笑って挑発的に言った。
「髪乾かさないと風邪引くだろ? レディが髪も乾かさずに居ていいの?」
「……」
「音が聞こえないなら大きくすればいいだろ」
御国が背後から手を伸ばしてシャーロットの持つ携帯の音量を大きくしてやれば、シャーロットは何も言わずに再び首を戻して画面に見入る。先程ドライヤーを取りに行った時、御国の首に巻き付いていたジェジェが降りて行ったので浴室は今ジェジェが使っている。
まったくワガママなお姫様だなー、なんて思いながらもからかう事はしない。今アニメ鑑賞を邪魔したら後が怖いからだ。それに普段は淑女らしく身支度をしっかりと整えるシャーロットの髪を代わりに乾かせる、というのはある意味役得でもあった。
ドライヤーの音と携帯から流れるアニメの音だけがホテルの一室に広がる。アニメを見ながら僅かに背が揺れているのは、余程楽しんでいるからだろう。何百年も生きている下位吸血鬼の癖に、シャーロットには見た目相応に子供っぽいところもある。あまり興味はないが御国も何となく画面を流し見しながら髪にドライヤーを当て、アニメが終わった後もシャーロットの髪に触れ続けた。
「御国、まだ終わらないの?」
「仕方ないだろ。シャーロットの髪は長いんだから」
「随分と丁寧に乾かしてくれてるのね、ありがとう。ケータイも返すわ」
「どういたしまして」
「後は私がやるわよ。疲れたでしょう、腕。お風呂もまだ入ってないし」
「もういいよ今更だし。風呂もジェジェが勝手に先入ってるからさ」
そう、と了承の声。シャーロットは気持ちよさそうに目を瞑った。さらさらと髪を指が梳く感覚は嫌いではない。御国は手先が器用だし、ドライヤーの使い方や温風の当て方も全部考えてくれているようでまるで専門の美容師みたいだ。あったかくて、気持ちよくて、私だけが与えてもらうなんてもったいない。
小さく欠伸をしそうになった事は気付かれない様に誤魔化す。
私は淑女だもの、人前でそうそう欠伸なんて見せる物じゃないでしょ? いくら相手が御国といえど、気にする所は気にする。そう思いながらも、優しいぬくもりは緩んだシャーロットの意識をおぼろげに滲ませていった。
「こんなもんかな。終わったよ、シャーロット。どう?」
それから更に数分後、御国はドライヤーの電源を切り乾いていつも通りふわふわになった髪へと指を絡ませた。
しかし、返答は無い。
「おーい、シャーロット?」
覗き込めば、膝を抱えてソファーの上に座ったシャーロットは抱えた膝の上に組んだ腕を乗せ、その上に顎を置いてすやすやと寝息を立てている。ガーネットの様に深い色の赤い瞳は閉ざされていて、長いまつ毛が縁取る瞼は完全に下りている。
無防備だなと思いながら、御国はそっと今しがた乾かしたばかりの柔らかな髪を手のひらに掬い取り、口づけを落としてみた。シャーロットの匂いがした。甘い菓子の様な、紅茶の様な、いつまでも変わらずに幼い頃から傍に居てくれた愛しい少女の匂い。不意にぱちり、とシャーロットが目を開けた。
「……ん、ん……。みくに……?」
「うん。眠いなら早く寝なよ」
「ねむい、けど――おなかすいたの。なにかたべてからねるわ」
目元を擦りながら、どこかぼうっとして呂律のまわっていない言葉でシャーロットは言う。ここ数日の空腹感はきっと食べ物で埋められる類のものではないが、何も食べないよりはましだ。御国はやれやれと頭を振った。ソファーの背もたれから前の方へと移動して、座るシャーロットに目線を合わせるように腰を下ろす。
「しょうがないな、少しだけなら飲んでいいよ」
どんなに愛らしい少女でもシャーロットは紛れもなく吸血鬼なのだから、血は必要だ。御国に気を遣ってか、有栖院を出てからシャーロットが人の血を口にする事は激減した。御国は苦笑しながら手の指先をシャーロットの唇に押し付ける。普段ならそんなところに触らないでと逆に手を払い除けられるところだが、……余程我慢はしていたのだろう。そっと口を開けたシャーロットは鋭い歯で器用に御国の指先を少しだけ傷つけ、遠慮がちに血を吸った。
「ん、……ごめんね。御国」
「……いいよ。今日のお仕事おつかれさまって事でね。たまにはご褒美をあげないと」
「そう、ありがとう、御国。おやすみなさい、――いい夢を」
御国の指から口を離したシャーロットは両手を添えるように御国の頬を掴むと、その額に祝福のキスを落とした。呆然と目を見開く御国を置いて、シャーロットはそのまま流れるような動きでソファーの上で横になり、またすうすうと規則的に寝息を立て始める。……人の気も知らないで、そう恨めしく思いながらも御国はシャーロットの髪を梳いて、おやすみ、と呟いた。
「ん。って珍しいね、髪乾かしてないの?」
「後で乾かすわ。それよりケータイ貸して! 見逃した番組を見なくちゃ」
用事を終えて宿泊先のホテルに戻った御国が欠伸を噛み殺しながらニュースを何気なく流し見していると、浴室から小走りで駆け寄ってきたシャーロットが隣のソファーに座った。座るというよりは飛び乗るに近い勢いで、きしと軽いが勢いのついた重量に対してスプリングが僅かに軋む。僅かに驚いた様子の御国はただならぬ彼女の様子に特に言及する事は無く、素直に自身の携帯を与えた。
いつもはふわふわと揺れている髪も入浴後は当然の如く、ぺしゃりと萎れていてその首元を濡らしていた。いつもは淑女、淑女と言う癖にこんな姿のどこが淑女か。そんなに慌てるような事があったかなと思いながら、御国はソファーから立ち上がる。シャーロットが携帯で開くページは動画サイトで何か配信中の動画を捜しているようだ。
「何か見てるのあったっけ。今日日曜だよ?」
「日曜だからじゃない。本当はテレビで見ようと思ってたのに朝から外出なんて想定外よ、全く」
確かに今日は朝早くから出て夜まで外で用事を済ませていたが、元より余りテレビを見る方ではないシャーロットのはずが、用事が終わるなり早く帰ろうと言い出し、帰ったらすぐに風呂に入って現在に至る。
不服げな様子で頬を少し膨らませるシャーロットに御国はまた疑問符を浮かべながらも、浴室の方まで歩きドライヤーをとって戻ってきた。背後から覗き込めば携帯を横にして、熱心にシャーロットが見ているのは可愛らしい絵柄の少女がきらきらとフリフリの衣装をまとって戦う日曜朝の子供向けアニメだ。……ああ、と心の中で納得しながらドライヤーをコンセントに繋ぎ、電源を入れる。
「……御国、」
ゴォーとドライヤーから聞こえる音にシャーロットは顔を僅かにしかめて後ろを振り返った。うるさい、と言いたいんだろう。御国は薄く笑って挑発的に言った。
「髪乾かさないと風邪引くだろ? レディが髪も乾かさずに居ていいの?」
「……」
「音が聞こえないなら大きくすればいいだろ」
御国が背後から手を伸ばしてシャーロットの持つ携帯の音量を大きくしてやれば、シャーロットは何も言わずに再び首を戻して画面に見入る。先程ドライヤーを取りに行った時、御国の首に巻き付いていたジェジェが降りて行ったので浴室は今ジェジェが使っている。
まったくワガママなお姫様だなー、なんて思いながらもからかう事はしない。今アニメ鑑賞を邪魔したら後が怖いからだ。それに普段は淑女らしく身支度をしっかりと整えるシャーロットの髪を代わりに乾かせる、というのはある意味役得でもあった。
ドライヤーの音と携帯から流れるアニメの音だけがホテルの一室に広がる。アニメを見ながら僅かに背が揺れているのは、余程楽しんでいるからだろう。何百年も生きている下位吸血鬼の癖に、シャーロットには見た目相応に子供っぽいところもある。あまり興味はないが御国も何となく画面を流し見しながら髪にドライヤーを当て、アニメが終わった後もシャーロットの髪に触れ続けた。
「御国、まだ終わらないの?」
「仕方ないだろ。シャーロットの髪は長いんだから」
「随分と丁寧に乾かしてくれてるのね、ありがとう。ケータイも返すわ」
「どういたしまして」
「後は私がやるわよ。疲れたでしょう、腕。お風呂もまだ入ってないし」
「もういいよ今更だし。風呂もジェジェが勝手に先入ってるからさ」
そう、と了承の声。シャーロットは気持ちよさそうに目を瞑った。さらさらと髪を指が梳く感覚は嫌いではない。御国は手先が器用だし、ドライヤーの使い方や温風の当て方も全部考えてくれているようでまるで専門の美容師みたいだ。あったかくて、気持ちよくて、私だけが与えてもらうなんてもったいない。
小さく欠伸をしそうになった事は気付かれない様に誤魔化す。
私は淑女だもの、人前でそうそう欠伸なんて見せる物じゃないでしょ? いくら相手が御国といえど、気にする所は気にする。そう思いながらも、優しいぬくもりは緩んだシャーロットの意識をおぼろげに滲ませていった。
「こんなもんかな。終わったよ、シャーロット。どう?」
それから更に数分後、御国はドライヤーの電源を切り乾いていつも通りふわふわになった髪へと指を絡ませた。
しかし、返答は無い。
「おーい、シャーロット?」
覗き込めば、膝を抱えてソファーの上に座ったシャーロットは抱えた膝の上に組んだ腕を乗せ、その上に顎を置いてすやすやと寝息を立てている。ガーネットの様に深い色の赤い瞳は閉ざされていて、長いまつ毛が縁取る瞼は完全に下りている。
無防備だなと思いながら、御国はそっと今しがた乾かしたばかりの柔らかな髪を手のひらに掬い取り、口づけを落としてみた。シャーロットの匂いがした。甘い菓子の様な、紅茶の様な、いつまでも変わらずに幼い頃から傍に居てくれた愛しい少女の匂い。不意にぱちり、とシャーロットが目を開けた。
「……ん、ん……。みくに……?」
「うん。眠いなら早く寝なよ」
「ねむい、けど――おなかすいたの。なにかたべてからねるわ」
目元を擦りながら、どこかぼうっとして呂律のまわっていない言葉でシャーロットは言う。ここ数日の空腹感はきっと食べ物で埋められる類のものではないが、何も食べないよりはましだ。御国はやれやれと頭を振った。ソファーの背もたれから前の方へと移動して、座るシャーロットに目線を合わせるように腰を下ろす。
「しょうがないな、少しだけなら飲んでいいよ」
どんなに愛らしい少女でもシャーロットは紛れもなく吸血鬼なのだから、血は必要だ。御国に気を遣ってか、有栖院を出てからシャーロットが人の血を口にする事は激減した。御国は苦笑しながら手の指先をシャーロットの唇に押し付ける。普段ならそんなところに触らないでと逆に手を払い除けられるところだが、……余程我慢はしていたのだろう。そっと口を開けたシャーロットは鋭い歯で器用に御国の指先を少しだけ傷つけ、遠慮がちに血を吸った。
「ん、……ごめんね。御国」
「……いいよ。今日のお仕事おつかれさまって事でね。たまにはご褒美をあげないと」
「そう、ありがとう、御国。おやすみなさい、――いい夢を」
御国の指から口を離したシャーロットは両手を添えるように御国の頬を掴むと、その額に祝福のキスを落とした。呆然と目を見開く御国を置いて、シャーロットはそのまま流れるような動きでソファーの上で横になり、またすうすうと規則的に寝息を立て始める。……人の気も知らないで、そう恨めしく思いながらも御国はシャーロットの髪を梳いて、おやすみ、と呟いた。